<とにかく>の語源はなにか?<とにかく>の語源は<とにもかくにも>で、口にするときに少し長いのでこれを端折ったものだろう。では<とにもかくにも>はどういう意味か?
前半と後半に分けてみる。
とにも かくにも
と<にも>が前後に出てくる。 <かく>は<かくも>、<かくのごとし>の<かく>で<このよう(な、に)>の意だ。問題はあたまの<と>だ。<と>については別のところで<大助詞>として検討(*) したことがあるが、ここでは簡単に<xxx と>の<と>としておく。<xxx と>は何かというと、とりあえず ”引用の<と>” としておく。引用(される)部分は<xxx>だ。
とにも かくにも
は実際は使わないが、意味としては
とでも かくでも
ともいえる。<でも>は日本語の口語での多頻度使用語。なぜ多頻度かと言うと譲歩表現に使われるからだ。<にも>も<xxx にもかかわらず>で譲歩表現の一部で使われる。これは中国語の<不管>由来だが、中国語の方は<かかわらず>だけで済ましているのに対し日本語のほうは二つの助詞の組み合わせ<にも>が要(い)る。また譲歩表現に使われる<も>については別のところでかなりしつこ調べた。(**)
したがって<とにかく>は
xxx とでも かくでも
とうつしか替えられ、<xxx>は引用部だが、これは省略されたもの、あるいは<何でもいい>と見る。
これではまだ語源探求としては半(なか)ばだ。
<とにかく>の使用例
1.とにかく頼んでみよう。(反対される、受け入れられない、かも知れないが)
2.とにかく行って見てくる (見てみないと実情がわからない)(無駄かも知れないが)
3.とにかくダメだ (どんな条件でも、なんと言おうとも)
1-3例のカッコ内は<とにかく>が使われる想定される状況。想定される状況は逆接(が)、譲歩(かも、でも、とも)がからむ。<ともかく>も<とにかく>と同じような意味、使われ方だ。逆接(が)と書いたが、<かも知れないが>は単純逆接とは違い<かも>に譲歩の意味がある。<かも>は疑問助詞<か>+<も>でこれまた<も>が出てくる。4-5例は状況が明示されている例だが、<とにかく>の意味は1-3例と同じではない。
上記1-3例のカッコ内の状況(<とにかく>が使われる状況)を一般化するのは難しい。
参考になるには英語の anyway だ。 anyway は大体<とにかく>と訳して間違いない。
Merriam-webster Internet Dictionary
Examples of anyway in a Sentence
- The
road got worse, but they kept going anyway. (道はどんどん悪くなっていったが、とにかく行き続けた。)
- I
didn't expect her to say “yes,” but I asked her anyway. (彼女が ”イエス” というのは期待していなかったが、とにかく頼んで(聞いて)みた。
- It
makes no difference what we say. She's going to do what she wants
anyway. (われわれが何と言おうと関係ない。彼女はとにかく自分がしたいことをするのだ。
- He's
far from perfect, but she loves him anyway. (彼は完璧な男からはかけ離れてているが、とにかく彼女は彼が好きなのだ。)
4.ひまならともかく、今は忙しいから手伝えない。
5.忙しいならともかく、ひまだったら手伝ってくれ。
上記4-5例は<とにかく>で置き換えられそうだが、ニュアンスがちがう。
4-1)ひまならとにかく、今は忙しいから手伝えない。
5-1)忙しいならとにかく、ひまだったら手伝ってくれ。
<も>があることによって<ひまならともかく、(ひまでないから)>の<ひまでないから>の意がくわわるのだ。もう少し詳しく言うと結論<今は忙しいから手伝えない>を否定する理由、<今は忙しいから手伝えない>という主張の障害となる状況、条件<ひまである>を取り除くのだ。この働きは<とにかく>にはない、または薄い。つまりは結論を否定する理由、主張の障害となる状況、条件を取り除くことによって、結論、主張の正当性を強めるというレトリックだ。一方<とにかく>の方は<取り除く>というよりは<とりあえず脇に置いておく>といった感じだ。
<とにかく>、<ともかく>のほかに似て非なるものに<ともあれ>がある。 上記英文1-4例の日本語訳に<ともあれ>を適用してみる。
1.道はどんどん悪くなっていったが、ともあれ行き続けた。
2.彼女が ”イエス” というのは期待していなかったが、ともあれ頼んで(聞いて)みた。
3.われわれが何と言おうと関係ない。彼女はともあれ自分がしたいことをするのだ。
4.彼は完璧な男からはかけ離れてているが、ともあれ彼女は彼が好きなのだ。
個人差があると思うが、 3番目が少しおかしい。その前の日本語の1-3例にも当てはめ見る。
1.ともあれ頼んでみよう。(反対される、受け入れられない、かも知れないが)
2.ともあれ行って見てくる (見てみないと実情がわからない)(無駄かも知れないが)
3.ともあれダメだ (どんな条件でも、なんと言おうとも)
3番目はダメではないが、かなり変だ。
日本語の4-5例はどうか?
4-1)ひまならともあれ、今は忙しいから手伝えない。
5-1)忙しいならともあれ、ひまだったら手伝ってくれ。
まったくダメと言っていい。
このポストは語源の話なので<ともあれ>の語源を考えてみる。<ともあれ>のもとは<何はともあれ>で、長すぎるので<何は>を省略したものだろう。<あれ>は<ある>の仮定形。<あれば>の<あれ>か。<あれ>はあくまで仮定形の<形(かたち)>で<ば>がないと<仮定>の意味がでてこない。<ともあれば>ではなく<ともあれ>だ。同じ<あれ>の形で命令形がある。ここは命令形だろう。しかし<ある>の命令形は意味としては<存在せよ>だ。昔ビートルズの歌に<Let it be.>というのがあった。無理して訳せば<ありのままに(しておけ)>だ。<何はともあれ>は<Let whatever be.>となる。ミソは<何は>が whatever となること、<存在>が be になっていることだ。 whatever とは譲歩の意味がからんでくるが、<何が何でも>が純粋の譲歩+逆接のレトリックであるのに比べて<何はともあれ>はこのレトリック度合が弱いといえる。<存在>が be になっていること、は<あれ>がまったくの<存在せよ>ではないことを示唆する。
話がずれるような気がするがこれに関連して<よかれ、あしかれ>を考えてみる。 <よかれ、あしかれ>は文語調で、<よくあれ、あしくあれ>がなまった(音便化)したもの。口語を」さがせば
よくても、わるくても
があるが、ニュアンスが違う。
<ても>は<でも>に通じ純粋の譲歩+逆接のレトリック。<よかれ、あしかれ>は上でと同じでこのレトリック度合が弱いのだ。
さて、はじめの方でもっともらしく<とにかく>、<ともかく>の
”
<かく>は<かくも>、<かくのごとし>の<かく>で<このよう(な、に)>の意だ。
”
と書いたが、 <ともあれ>の<あれ>が動詞なので<かく>も動詞である可能性がある。可能性のあるのは<かき消す>、<ひっかく>の<かく>で、漢字では<掻く>があてられるがれっきとしたやまとことばの動詞だ。<かき消す>は一旦あらわした状況を<かき消す>譲歩のレトリックに通じる。
4.ひまならともかく、今は忙しいから手伝えない。
5.忙しいならともかく、ひまだったら手伝ってくれ。
の上記の説明が参考になる。繰り返しになるが、
結論<今は忙しいから手伝えない>を否定する理由、<今は忙しいから手伝えない>という主張の障害となる状況、条件<ひまである>を取り除くのだ。
(*) sptt Notes on Grammar "<と>は日本語の大発明”
(**) sptt Notes on Grammar "<かもしれない>について”、”<も>は大助詞”
sptt