Wednesday, July 25, 2018

楕円曲線(数学)解説のやまとことば


わたしは興味が向き、ほかに特にすることがないと数学を勉強することがある。 <楕円曲線>はフェルマーの最終定理 (Simon Singh, 青木 薫訳、新潮文庫)のなかででてくるが、これがわからないとこの本の意味が半分くらい解らないと言っていい知識なのでWikiにあたってみたわけだ。Wiki-Japan の<楕円曲線>の冒頭に次のような<注意書き>がある。

楕円曲線


<誤訳>ということは<原文の英語の日本語訳がまちがっている>と言うことだろう。内容は相当長く、わかりにくい(難解な)説明なのだが、出だし(解説の概要か)は


数学における楕円曲線(だえんきょくせん、: elliptic curve)とは種数 1非特異射影代数曲線、さらに一般的には、特定の基点 O を持つ種数 1 の代数曲線を言う[1]
楕円曲線上の点に対し、積に関して、先述の点 O を単位元とする(必ず可換な)をなすように、積を代数的に定義することができる。すなわち楕円曲線はアーベル多様体である。
楕円曲線は、代数幾何学的には、射影平面 P2 の中の三次の平面代数曲線として見ることもできる[2]。より正確には、射影平面上、楕円曲線はヴァイエルシュトラス方程式あるいはヴァイエルシュトラスの標準形
{\displaystyle Y^{2}Z+a_{1}XYZ+a_{3}YZ^{2}=X^{3}+a_{2}X^{2}Z+a_{4}XZ^{2}+a_{6}Z^{3}}
により定義された非特異な平面代数曲線に双有理同値である(有理変換によってそのような曲線に変換される)。そしてこの形にあらわされているとき、O は実は射影平面の「無限遠点」である。
また、係数体英語版標数2 でも 3 でもないとき、楕円曲線は、アフィン平面上次の形の式により定義された非特異な平面代数曲線に双有理同値である。
y^{2}=x^{3}+ax+b\ .
非特異であるとは、グラフが尖点を持ったり、自分自身と交叉したりはしないということである。この形の方程式もヴァイエルシュトラス方程式あるいはヴァイエルシュトラスの標準形という。係数体の標数が 23 のとき、上の式は全ての非特異三次曲線英語版を表せるほど一般ではない(詳細な定義は以下を参照)。
Pが重根を持たない三次多項式として、y2 = P(x) とすると、種数 1 の非特異平面曲線を得るので、これは楕円曲線である。Pが次数 4無平方英語版とすると、これも種数 1 の平面曲線となるが、しかし、単位元を自然に選び出すことができない。さらに一般的には、単位元として働く有理点を少なくとも一つ持つような種数 1 の代数曲線を楕円曲線と呼ぶ。例えば、三次元射影空間へ埋め込まれた二つの二次曲面の交叉は楕円曲線である。
楕円関数論を使い、複素数上で定義された楕円曲線はトーラス複素射影平面英語版への埋め込みに対応することを示すことができる。トーラスもアーベル群で、実はこの対応は群同型かつ位相的に同相にもなっている。したがって、位相的には複素楕円曲線はトーラスである。
楕円曲線は、数論で特に重要で、現在研究されている主要な分野の一つである。例えば、アンドリュー・ワイルズにより(リチャード・テイラーの支援を得て)証明されたフェルマーの最終定理で重要な役割を持っている(モジュラー性定理とフェルマーの最終定理への応用を参照)。また、楕円曲線は、楕円暗号(ECC) や素因数分解への応用が見つかっている。
楕円曲線は、楕円ではないことに注意すべきである。「楕円」ということばの由来については楕円積分楕円関数を参照。
このように、楕円曲線は次のように見なすことができる。
  1. 一次元のアーベル多様体
  2. 三次の平面代数曲線で、有理点を持つもの
  3. 複素数を加法群とみて、二重周期を持つ格子で割った商空間(複素数体上のみ、複素数上の楕円曲線
 ”

この出だしに誤訳はあるのか。まず出だしの出だし。

"
数学における楕円曲線(だえんきょくせん、: elliptic curve)とは種数 1非特異射影代数曲線、さらに一般的には、特定の基点 O を持つ種数 1 の代数曲線を言う[1]
"

わかりにくい(難解な)説明になる一番大きな理由はなじみがない数学用語が並んでいることだ。少なくとも<種数 1>、<非特異>、<射影代数曲線>、さらに一般的な<代数曲線>がわからないと、意味がつかめないし、意味がつかめないとどこが誤訳かわからない。

これらの数学用語は後で繰り返し出てくるのでわかっておく必要がある。まずは<種数)>。

Wiki-Japanese <種数>

"
種数(しゅすう、: genus; ジーナス)は、数学用語で、分野によって似かよっているがいくらか異なる意味を持つ。なお、genus の複数形は genera

"

genus は genius (天才)よりも遺伝、DNAの gene (種、たね、日本語版はないが中国版 Wiki は<gene=基因>となっている)、Genesis (創世記)の関連語だ。 種数は音読みでは<しゅすう>で耳で聞いたのでは察しがつかない。<たねかず>、<たねすう>、<元、基(もと)すう)>でもよさそう。後で出てくる重要な概念の homogeneous coordinates (斉次座標)のhomogeneous の中に gene があり、これと関連づけた訳語があればその方がいい。もっとも heterogeneous は聞いたことはるが斉次>という漢語はなじみがない。漢語になるが<基因数>というのはどうか?

"
連結な向き付け可能閉曲面種数とは、その切断によって生じる多様体が連結のままとなるような単純な閉曲線に沿った切断の最大数を表す整数である。
"

というのがあるが、この文を理解できる人はごく少数だろう。<多様体>がわからない、またはすくなくとも具体的に想像できないと、この文の理解は半分以下だ。

(原文)
The genus of a connected, orientable surface is an integer representing the maximum number of cuttings along non-intersecting closed simple curves without rendering the resultant manifold disconnected.

  • <向き付け>はなじみがないがやまとことばだ。訳者はやまとことばファンかもしれない。<向き付け>は to orient で、英語の方は動詞で<向きをつける>の意味はあるが、数学以外、一般的には<向き付け(る)>というやまととこばではなく<方向づけ(る)>が使われている。<orientable>の -able が<可能>で英語の方は形容詞。したがって<向き付け可能>という変な日本語は<向きつけ>が一般化するまでは<方向付け(が)可能な>の方がよさそう。この前の<連結な>は connected の訳語だが、どうもおかしい。<連結な>は普通は<連結した>だ。<閉曲面>は surface の訳だが、英語の方はここでは<閉(closed)>の語がない。

この日本語の文がわかりずらいのは、私のように<多様体>がわからない、または具体的に想像できないことにもよるが、訳文構成にも一因がある。

定義である<種数とは .......  整数である>の整数(integer)を修飾する<その切断によって生じる多様体が連結のままとなるような単純な閉曲線に沿った切断の最大数を表す>とう長い日本語だ。英語の方には<その切断によって>という語はない。そして<その>は<何の>か<どの>かが日本語からはわからない(わかりずらい)。ここがポイント。ここで<その>はこの前にある<連結な向き付け可能閉曲面>のことなのだ。繰り返すと長くなるので<この閉局面の切断>でも意味ははっきりする。だがもう一度<切断の最大数を表わす>と<切断>がでてくるので(書いた本人以外は)わけがわからなくなるのだ。どうしてこうなるかと言うと、英語と日本語の語順の違いが原因のひとつ。

英語では without rendering the resultant manifold disconnected. というのが文の最後にきているが、日本語ではこういう文構造は、純直訳以外は、基本的になく、修飾句として修飾される語の前にくる。

the resultant manifold は<生じる多様体>に相当。その前の rendering は<なるような>に相当。<連結のまま>は苦心作で without ....... disconnected の二重否定(不連結でなく)を肯定<連結のまま>と訳しているのだ。<何によって>生じるかというと上で述べたように<切断>によってなのだ。修飾語がどんどん長くなってしまうためもあるが、肝心な英語 non-intersecting (交差しない)が抜けている。<単純な(simple)>はむしろこのnon-intersecting (交差しない)に関連した修飾語で<単純な閉曲線>には数学上特別な意味はない。一方<交差しない閉曲線>は数学的な意味がある。

もう一つ。<切断の最大数>。<切断>そのものは普通数えることがないので、<切断の最大数>とはなにか。ここは<切断(できる)回数の最大数>とした方がいい。

以上の検討を使って書き換えると、この部分は


連結している方向付けが可能な曲面種数とは、曲面の切断によって生じる多様体が不連結にならないように単純な交差しない閉曲線に沿って切断できる回数の最大数を表す整数である。
 ”

となる。だがこれではもとの文とたいしてかわらず、わたし自身にもわかりにくい。

The genus of a connected, orientable surface is an integer representing the maximum number of cuttings along non-intersecting closed simple curves without rendering the resultant manifold disconnected.


連結している方向付けが可能な曲面種数とは、単純な交差しない閉曲線に沿って(この方向付けが可能な)曲面を切ることができる回数の最大数(整数)のこと。またこの切断によって生じる多様体が不連結にならないようにしなければいけない。
 ”

とすると少しは日本語らしくなり、英語の意味も保たれる。

以上は<楕円曲線(数学)解説のやまとことば>ではなく楕円曲線の説明の出だしに出てくる<種数 1非特異射影代数曲線>の<種数>についてだ。だがおかしなことになった。この<種数>の解説は曲線ではなく<曲面の種数>の解説なのだ。もっとも始めに<分野によって似かよっているがいくらか異なる意味を持つ>とことわっている。

Wiki-Japanese <種数>をよく読むと、最後に次のような解説がある。


代数幾何学

任意の射影代数概型 X種数には、2つの相互に関連する定義、算術種数幾何種数がある。X複素数領域における代数曲線特異点を持たない場合、これらの定義は一致し、Xリーマン曲面に適用した位相幾何学的定義とも一致する。楕円曲線の代数幾何学的定義は、「与えられた点を通る種数 1 の非特異曲線」である。


相応する英語原文は

"  
Algebraic geometry

There are two related definitions of genus of any projective algebraic scheme X: the arithmetic genus and the geometric genus.[6] When X is an algebraic curve with field of definition the complex numbers, and if X has no singular points, then these definitions agree and coincide with the topological definition applied to the Riemann surface of X (its manifold of complex points). For example, the definition of elliptic curve from algebraic geometry is connected non-singular projective curve of genus 1 with a given rational point on it.
By the Riemann-Roch theorem, an irreducible plane curve of degree d has geometric genus
{\displaystyle g={\frac {(d-1)(d-2)}{2}}-s,}
where s is the number of singularities when properly counted.

"

だが<楕円曲線の代数幾何学的定義は、「与えられた点を通る種数 1 の非特異曲線」である。>の部分は

the definition of elliptic curve from algebraic geometry is connected non-singular projective curve of genus 1 with a given rational point on it.

で connected、projective、 rational point が抜けている。一方「与えられた点を通る」が英語にはない。

この解説が<数学における楕円曲線(だえんきょくせん、: elliptic curve)とは種数 1非特異射影代数曲線、>のなかの数種のようだが、これまた数学用語が多く(代数曲線の解説でもで特異点が出てくる)ここでもよくわからないが、以上は

数学における楕円曲線(だえんきょくせん、: elliptic curve)とは種数 1非特異射影代数曲線、さらに一般的には、特定の基点 O を持つ種数 1 の代数曲線を言う[1]

に呼応する。<射影代数曲線>と関連がありそうな<射影代数概型 X種数>の<数種>を調べてみる必要がある。<概型>は数学用語で英語は scheme。だが複雑そうな<概型 X>を調べることになるので、これはひとまず後回しにして次の<非特異>を調べてみる。

冒頭の<楕円曲線>解説の出だしの後の方に

<非特異であるとは、グラフが尖点を持ったり、自分自身と交叉したりはしないということである。>という簡単な解説がある。

Singular point of an algebraic variety

In the mathematical field of algebraic geometry, a singular point of an algebraic variety V is a point P that is 'special' (so, singular), in the geometric sense that at this point the tangent space at the variety may not be regularly defined. In case of varieties defined over the reals, this notion generalizes the notion of local non-flatness. A point of an algebraic variety which is not singular is said to be regular. An algebraic variety which has no singular point is said to be non-singular or smooth.

algebraic variety V は <代数多様体>で、Wiki-Japanese では<代数多様体の特異点>で数学的な説明がある。

<代数多様体の特異点>の冒頭に


代数幾何学という数学の分野において、代数多様体 V の特異点 (singular point of an algebraic variety) は、この点において多様体の接空間をきちんと決められないという幾何学的な意味で'特別な(つまり特異な)点 P である。実数体上定義された多様体の場合には、この概念は非局所平坦性英語版の概念を一般化する。代数多様体の特異でない点を正則 (regular) という。特異点を全く持たない代数多様体を非特異 (non singular) あるいは滑らか (smooth) という。


という説明がある。<楕円曲線、とは種数 1非特異射影代数曲線>に対応するが<代数
曲線>と<代数多様体>の違いがある。一方英語版の方は

Singular point of an algebraic variety

In the mathematical field of algebraic geometry, a singular point of an algebraic variety V is a point P that is 'special' (so, singular), in the geometric sense that at this point the tangent space at the variety may not be regularly defined. In case of varieties defined over the reals, this notion generalizes the notion of local non-flatness. A point of an algebraic variety which is not singular is said to be regular. An algebraic variety which has no singular point is said to be non-singular or smooth.

で日本語訳は間違いなさそう。問題は algebraic variety が<代数多様体>と訳されていることだ。variety はバラエティーショウのバラエティーで<(多種)多様(たよう)>の意で、形容詞は various は<多様な、いろいろな>の意。だが数学用語のvariety は<多様体>と<体>の字がつくが<体論>の体(field)ではない。Wiki では

Variety may refer to:

Mathematics

 とあり、まさしく多様(用)語なのだ。ここは

Algebraic variety, the basic object of study in algebraic geometry 

Projective variety, a subset of algebraic varieties

が関連ある。subset は集合用語なのでここの algebraic varieties はその上のAlgebraic variety とは違う。 また

Abelian variety, a complex torus that can be embedded into projective space

は楕円曲線のWikiの楕円曲線の冒頭の概要解説にある<すなわち楕円曲線はアーベル多様体である。>と関連する。さらにややこしいのは、日本語の<多様体>は Manifold の訳語でもあることだ。この日本語の<多様体>の言葉の問題についてはまだWiki の日本語版はまだ<製作中>だが英語版は言及している。

Wiki <History of manifolds and varieties>


From Wikipedia, the free encyclopedia
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The study of manifolds combines many important areas of mathematics: it generalizes concepts such as curves and surfaces as well as ideas from linear algebra and topology. Certain special classes of manifolds also have additional algebraic structure; they may behave like groups, for instance. In that case, they are called Lie Groups. Alternatively, they may be described by polynomial equations, in which case they are called algebraic varieties, and if they additionally carry a group structure, they are called algebraic groups.

Contents
Nomenclature
The term "manifold" comes from German Mannigfaltigkeit, by Riemann.
In English, "manifold" refers to spaces with a differentiable or topological structure, while "variety" refers to spaces with an algebraic structure, as in algebraic varieties.
In Romance languages, manifold is translated as "variety" – such spaces with a differentiable structure are literally translated as "analytic varieties", while spaces with an algebraic structure are called "algebraic varieties". Thus for example, the french word "variété topologique" means topological manifold. In the same vein, the Japanese word "多様体" (tayōtai) also encompasses both manifold and variety. ("多様" (tayō) means various.)


” 
ここのいくつか違った意味のある variety の訳語<多様体>を漢語ではなくやまとことばで表して区別したらどうか?だがその前に<特異、非特異>のやまとことばを考えてみる。上記の日本語のなかに

特異点を全く持たない代数多様体を非特異 (non singular) あるいは滑らか (smooth) という。 

という解説がある。

非特異 (non singular) =滑らか (smooth)

ということだ。だが smooth が<滑らか>はいいとして、非特異(な) (non singular) =滑らか(な)、でいいか。またこの反対の<特異>のやまとことばはなにか。英語の方は

特異 - singularity、特異な - singular

日本語の方は<滑らか>を使えば<滑らかでない>、名詞形は<滑らかでないこと>とでもなるか。長くはなるがやまとことばだ。<特異な>は普通 particular の訳語だろう。<特別な>はspecial相当。singular は文法上は<単数(の)>だが、一般的には<ただひとつ(の)>の意だ。また<特異な>は<滑らかでない>とは結びつきにくい。

<特異な>の<異>は訓読み(やまとことば)では<異なる>で<ことなる>と読む。つまりは<異>=<こと>。この<こと>は<事>のことではなく、くりかえしになるが<異>の<こと>で、この<こと>は<異なる>の語幹、<なる>は古いかたちの形容動詞<xxなり>の語尾(変化)。つかりはこの<こと>に<異なる>の意味があるのだ。さらにつまりはやまとことばの<こと>には少なくとも<事>と<異>の二つの違った(異なった)意味があるのだ。<事>が主で<異>の方は副のようだが、この副の<こと>は無意識のうちに使っている。

ことに
ことさら
ことあるごとに
ことあれば(ことあらば)
ことなきをえる

以上はコンピュータワープロでは

事に
殊更
事あるごとに
事あれば
事なきを得る

とでてくるが、意味を考えれは<事>は間違いで<異(こと)>が正しいのだ。<事>は一般的な事がらを指して言うのに対して<異(こと)>は一般的でない特殊な、特別なそして<特異な>こと、<特異な>事態、<特異な>様子を指して言うのだ。以上から

<特異な>のやまとことばとして<ことある>。<非特異(な)>のやまとことばとして<ことない(ことなし)>がかなり適当だ。<なめらか>も<<ことない(ことなし)>でいい。

さて次は<射影代数曲線>の<射影>と<代数曲線>だ。 <射影>は<うつし(写し、移し、映し)>というやまとことばある。<うつし>は<写し、移し、映し>を意味する一般化(generalization)された語で、厳格だが一般化は数学(者)が好むところだ。<代数曲線>のやまとこばを探してもいいが<代数>、<曲線>はなじみのある数学用語で容易に想像がつきこのまま使うことにする。<<射影代数曲線>は<うつし代数曲線>となる。<代数>、<曲線>は容易に、そして<代数曲線>も少しは想像がつくが、<代数曲線>は一般人にはなじみがないので知っておく必要がある。これがわかれば<射影代数曲線>、<うつし代数曲線>もわかってくるだろう。

代数曲線

Wiki-Japan の<代数曲線>の解説は大部分が英語版の訳だが、残念ながら、誤訳が多いようだ。これにも


原文と比べた結果、この記事には多数(少なくとも 5 個以上)の誤訳があることが判明しています。情報の利用には注意してください。


が適用できそうだ。  




 





Monday, July 2, 2018

ごまかす、たぶらかす、そそのかす、ひやかす、めかすの<かす>動詞



このポストとは以前に書いたポスト ”かかし(案山子)の語源” の派生、拡張版。<かす>動詞というのは一般的に使われているわけではない。



かかし(案山子)の語源を調べたわけは、おどろかす、おびやかす、ばかす、ごまかす、 たぶらかす等<かす>がつく動詞を調べている時に、<かかし>も関連があるのではないかと思ったからだ。語源をチェックした結果は上記のようにわたしにとっては意外であった。明らかに

おどろかす(おどかす)
おびやかす
ばかす
だまかす (だます)
ごまかす
たぶらかす
まどわかす(<まどわす>とはちがうようだ)
めかす

は<かかし>の内容(目的、効用)は関連があるが、上記の語源(かがす)とはまったく関係がない。



<カカシ>の目的、効用は主に鳥(スズメ、カラス)から収穫前の稲を守るためだろう。藁(わら)や草を使って作った人間サイズの人形に着物を着せたり帽子をかぶせたりして人に見立たせ、稲刈り前の田んぼに立ててスズメやカラスを近づけないというもの。実際の効用は明らかに疑わしい。敵もさるものと言うほどのこともない。むしろ敵はそのユーモラスな姿態を笑っているかもしれない。

さて、言葉のほうだが

<おどろかす>は 自動詞<おどろく>の他動詞、または使役形(太郎は次郎に花子をおどろかすように頼んだ)。<おどろかし>という体言(名詞)はあまり聞かない。
<おどかす>は<おどす>が他動詞で使役形は<太郎は次郎に花子をおどかすように頼んだ>になる。<おどろかす>と<おどかす>は意味がやや違う。<おどかす>は<おどす>の派生語で<かす>動詞といえないか?いわば<かす>派生動詞と言える。体言(名詞)の<おどし>はよく聞く。<おどかし>も聞く。一方それ以外は

おびやかす - おびやく  (おびやかし)
ばかす - ばく  (ばかし)
だまかす - だまく  (だまかし)
ごまかす - ごまく  (ごまかし)
たぶらかす - たぶらく  (たぶらかし)
(まやかす) - まやく (まやかし) <まやかす>は手もの辞書にあるが聞いたことはない。
まどわかす、まどわす - まどう
めかす - めく    <春めく>の<めく>

で右側の自動詞形がないのが多い。したがって純<かす>動詞グループといえよう。カッコ内の体言(名詞)はは<おびやかし>以外よく聞く。おもしろいのは以上の言葉が広義には同じような意味を持っていることだ。

<おびやかす>は<おびえる>という自動詞があり、昔は<おびゆ>だったと思われるので<おびや>+<かす>となる。<おびやく>ではないので<かす>に使役の意味があることになる。

<ばかす>は<ばける>と言う関連動詞がある。また<馬鹿(ばか)す>は語呂は合うのでまぎらわしいが、<馬鹿(ばか>が<ばかす>由来と見た方がいい。

<だます>は他動詞で、<だまかす>は<だます>の<かす>派生動詞と見る。

<ごまかす>は漢字でかくと<誤魔化す>とでてくる。したがって<誤魔>+<化す>となるが<化す>は半分漢語だ(化の部分)。<誤魔>も漢語由来だとするとかなりややこしい。もとは大和言葉ではないか。

<たぶらかす>は<たぶらく>も<たぶる>という動詞もないが、語呂が似た<なぶる>(からかう)という動詞がある。

<まどわかす>は<まどわす>の<xxかす>派生動詞版(バージョン)か。- <まどう>という自動詞がある。 

<かかし>(目的、効用)とは関連がやや薄くなるが、<かす>動詞では

そそのかす - (そそのく?)  (そそのかし)
ひやかす - 冷やす(冷える)  (ひやかし) 
みせびらかす - (----)   (みせびらかし)
ひけらかす - (----)    (ひけらかし)

というのもある。

以上はおもしろいやまとことば動詞で 

<そそのかす>は<そそのかして xx させる>のように使うが<そそのかす>には<だまして(だまかして)あることを本当のように思わせる>のようなプロセスがある。
<ひやかす>も<店員をひやかす>のようにも使うが、これもだますほどではないが<買う気があるように思わせる>のようなプロセスがある。
上にあげた<めかす>も<めかしこむ>、<おめかし>ではわかりにくいが<xx のように見せる>の意がある。<本当(真実)めかして話す> 。

意味は違ってくるが、意味上一つのグループとなる<かす>動詞群に

ちらかす - ちらかる  (ちらかし)  <ちらす>の<かす>派生動詞と見る。
ほったらかす - (ほったらかる?) (ほったらかし)
ほっぽらかす(ほっぽる) -  (----)  (ほっぽらかし) - 関東方言
すっぽかす  - (----)    (すっぽかし)

右側の自動詞形がないものが多い。


(注)
<かす>動詞については sptt Notes on Grammar の方で ” ごまかし、だましの<xx かす>動詞 ” というタイトルでもう少し詳しく書いている。

sptt