Wednesday, October 23, 2013

<しがない>、<仕方(しかた)がない>の語源


手元の辞書によると<しがない>は

形容詞 (<さがない>の変化という)うだつが上がらず前途に望みがない。となっている。

ところが<さがない>の項がこの辞書にはない。<うだつが上がらない>は慣用語でこれまた説明が必要だ。この辞書の<うだつが上がらない>の解説はかなり長い。

さて、<しがない>の<し>は<する>の連用形だろう。 連用形の名詞(体言)用法で<行きはよいよい帰りはこわい>の<行き>、<帰り>と同じ。名詞(体言)用法とはいって<し>は<すること>と同じではない。<行き>が<行くこと>と、<帰り>が<帰ること>と同じではないように。<しがない>は<することがない>ではない。しかしまったく違うというわけでもない。

sptt Notes on Grammar の ”日本語の<連用形の体言化>+体言” で次のように書いた。


一般的に言えることは、<連用形の体言化>+体言が<べき>としてつながることだ。英語でいえば、
a thing to see (take, think, do)に対応する。<ため>の場合、英語では a thing for seeing (taking, thinking, doing)となる。



これを応用すると<しがない>は<すべきことがない>となり、<しがない>の意味にやや近づく。<べし>は漢文の訳によくでてくるが、れっきとした大和言葉でいくつかの少し違った意味があり、<しがない>の<し>にも<べし>のいくつかの意味がありうる。


一方<仕方(しかた)がない>という表現があるが、この<し>は連用形の名詞(体言)用法がさらに進み、名詞(体言)の形容詞用法-<かた>を形容(修飾)する-と見ることが出来る。<するかたない>はほぼ同じ意味のようだがだが、<するかたない>は長いためかあまり使われない。ただし<するかたない>は<する>の連体形<する>+<かた>+<ない>で、連用形<し>+<かた>と違って<すべき>の意が薄(うす)いようだ。

<やるかたない>は<する>の意の<やる>ではなく<送る>、<送り出す>、<与える>の意に近い<遣(や)る>の連体形。

<やりかたがわからない>の<やり>は<する>の意の<やる>の連用形の名詞(体言)用法で<やるべき>方法の意だ。


sptt










Tuesday, October 15, 2013

モノの<ふるまい>の語源

<ふるまい>は漢字を使うと<振る舞い>になるが意味内容は<振る>も<舞う>も関係なさそう。<ふるまい>の語源はなにか?

以前のポストで<見舞い>の語源を書いたがこれにあまりとらわれずに、<ふるまい>について考えてみる。日本の物理の先生は<ふるまい>と大和言葉が気に入っているようでよく聞き、目にする。

無重力下でのモノの振る舞い(ふるまい)。<動き>や<場(ば)>も物理の先生が好きな大和言葉だ。これはなぜか?  物理学は中国からではなく西欧から輸入された。対応する英語は

振る舞い - behaviour (behavior)
動き         - motion、 movement
場(ば)  - field

<behaviour> は必ずしも物理用語ではないが、つきめるところ物理学は<モノの振る舞い>の原因を数式を使ってあらわす学問と言える。また振動は物理学ではモノの根源的な<振るまい>のひとつで、世界、宇宙は振動からできているとも言える。

振る舞い(behaviour)を漢語であらすと、行動、動作、行為があるがあるが、どれもイマイチで<振る舞い>にはかなわない。

さて<ふるまい>の語源について考えてみる。

<ふる>+<まい>、あるいは動詞形の<ふるまう>であれば<ふる>+<まう>と分析できるだろう。

<ふる>に大きく分けて<ふる(振る>と<ふる(降る)>がある。アクセントが違い、使い分けられている。<ふるまう>の<ふる>が<降る>の<ふる>由来である可能性は少ないが否定はできない。降りかかる雨。胡椒(コショウ)を振りかける。

<ふるまう>の特徴的なことは<ふる>の連用形<ふり>+<まう>の<ふりまう>(複合動詞)でないことだ。連用形<ふり>の複合動詞は多い。
 
振りあげる
振りあてる
振りおとす
振りかえる
振りかける  --> ふりかけ
振りかぶる
振りきる
振りこむ
振りしぼる
振りだす  --> ふりだし
振りつける  --> 振りつけ
(振りにげる)  --> 振りにげ (野球用語)
振りのける
振りはなす
振りはらう
振りほどく
振りまく
振りまわす
振りむく
振りむける
振りわける

文字通り<振って>XXするの意味が多いが、比喩的なのもある-振りあてる、振りかえる、(知恵を)振りしぼる、 (笑顔を)振りまく、振りわける。
また、<振る>は振動の表現でいく度も<行ったり来たり><する>、<させる>反復動作を示すようだが、振りあげる、振りあてる、振りかえる、振りかぶる、振りこむ、振りむく、振りむける、は反復ではなく<行ったきり>の動作で<振る>の漢字は必ずしも適切でないようだ。<ふる>のワープロ辞書は<振る>と<降る>だけだが 、<降る>は別として<ふる>には<振る>以外の意味があることになる。

振動の表現の大和言葉には<ゆれる、ゆする>があるがこちらのほう往復専用で<行ったきり>の動作は示さないようだ。右に振れる(O).右にゆれる(ゆする))(X)。

<ふる>が後ろにくる複合動詞はあまりない-わり振る。

いづれにしても<ふりまう>でなく<ふるまう>は特徴的なことで、語源を考える上で参考にした方がよささう。辞書によると<フルチン>は<振りチン>のなまりで、<ふるまう>も<ふりまう>のなまりの可能性がある。

<ふるまう>にはモノ<ふるまい>のほかにモノ<ふるまう>(与える)の意があり、<オオバン振る舞い>という言い方がある。<オオバン>の方は<大盤>のようだが、これだと与えるモノは食べ物だろう。<大判>だと金銭になるが、はした金ではない。<ふるまい>は文字通り<振り播く、振り撒く>の動作が想像され、これが語源だろう。モノ<ふるまい>の語源を考える上で参考にした方がよささう。また触れる(古語は<触る>か?)も関連があろう。


結局今回の調査では残念ながら語源がわからなかった。継続調査予定。



sptt