Monday, December 28, 2015

混む-困る-込める


<混む-困る-込める>は漢字を使うとしれぞれ違うが、ひらがなだと<こむ-こまる-こめる>で関連がありそう。

<混む-込める>は関連性が強い。<混む>は<ヒトやモノ(建物など)が詰め込まれた>状況だ。<こ(混)む>は自動詞、<込める>は他動詞。<まるーめる>動詞とすると、<こまる-こめる>となるが、<こまる>には<混まる>、<込まる>の意の自動詞で使われることはごくまれで、普通は<困る>の<こまる>の意だ。この<こまる>は<ヒトが詰め込まれた>状況というより<ヒトが何かに込められて身動きできない、行き場がない>状況の意に近い。したがって、<困(こま)る>も<込める>関連の語だ。こう見ると、<困る>はいかにも当て字で、本来のやまとことばから言えば<込まる>の方がいいのだが、長年の習慣で字面(づら)からは<困る>の字のは方が<こまった>感じが出るようだ。

<困る>、<困った>の英語で一般的なのは to be in trouble か。英語に embarrassment という語があり、これは名詞形で、動詞は to embarrass だが、to be embarrassed という受身形や embarrassing という形容詞がよく使われる。to be embarrassed は<困った>とは違う。どちらかというと<困惑する>(正確には<困惑させられる>だが、翻訳文以外はまずこうは言わないだろう)、<(どう対応していいかわからず)どぎまぎする>の意だ。やまとことばらしいのでは<恥ずかしい思いをする>、<気まずいおもいをする>、<ばつが悪い思いをする>などがある。ここで注意したいのは<困る>、<困った>は短期的な場合にも長期的な場合にも使えるのに対して to be embarrassed は短期的な場合に限られ、<困惑する>、さらには<恥ずかしい思いをする>、<気まずいおもいをする>、<ばつが悪い思いをする>もどちらかというと短期的な場合に使われる。また多くはくは<予期せぬことが発生して>というよいうな状況下で使われる。<どぎまぎする>、<たじろぐ>というやまとことばもある。embarrassment の関連のやまとことばはけっこう豊富だ。

<困る>、<困った>と似たような言葉に<弱(よわ)る>、<弱った>がある。

面白いのは中国語で embarrassment (to embarrass, embarrassing) を調べると日本語ではまずお目にかからない<难堪、尴尬>というのが出てくる。<难堪>は文字通り<堪(た)え難(がた)い>の意だ。面白いのは<尴尬>(中国語では ganga と発音する、ピンイン無視)で、初めてこの字を見た時に<おそれおののいた>た記憶がある。この<尴尬>は、使うのを聞いたことがあるが embarrassment (to embarrass, embarrassing) に近いようだ。もっとも当時は何のこただかわからなかったが。

embarrassment と似て非なる語に bashful、shy というのがある。こちらは名詞ではなく形容詞。日本語では<恥ずかしい>ではなく<恥ずかしがり屋の>といった人の性格をあらわす。<恥ずかしい>は<私ははずかしい>といった言い方はせず、<恥ずかしいこと>、<恥ずかしい思い>で、<わたしは恥ずかしい思いをした>は、状況にもよるが普通は<I was embarrassed.>で、<I was bashful. I was shy>ではない。

欧米人にかぎらず、日本人以外のアジア人も含めて比べると日本人の<恥(はじ)>の意識はやや特殊なところがある。恥(はじ)の文化、恥(はじ)の社会などと言うが、相対的なものと見た方がいい。

英語辞書の bashful は次のようになっている。

bashful
  1. reluctant to draw attention to oneself; shy.


    "everything you need to know but have been too bashful to ask"


    synonyms:shy, reserved, diffident, retiring, self-conscious, coy, demure, reticent, reluctant, shrinking, timid, timorous, meek; More


    "many men are bashful about discussing their feelings"
    antonyms:bold, confident

この違いは言葉の違いによるとことがあるようだ。日本語では<はじ(恥)じる>も<はず(恥)ずかしい> も<ha-ji (hazi)- ru>、<hazu-kashi-i>で同根。英語では、上記のインターネット辞書に見られるように、オーバーラップするところもあるが、<はじ(恥)じる>の方は shame 系統、<はず(恥)ずかしい>はやや複雑で

a)bashful、embarrassed、embarrassing

このグループは上記 embarrassed で説明したように短期的な<困惑する>、<どぎまぎする>。ただし bashful は shy の意にちかい。

b)shy、hesitant、nervous、self-conscious、introvert

introvert は上記に辞書コピーにはないが、よく使われる。文字通りでは<内向的な>だが、やまとことばでは<内気(うちき)な>というのがある。このグループは上記の<恥ずかしがり屋の>といった人の性格をあらわす。

c) timid、unconfident

このこのグループは<臆病>、<気が小さい>といった人の性格をあらわす。b)とはやや違う。

d) ashamed

shamefaced は<恥ずかしい(表情をした)>といった意味だろう。

<恥(はじ>、<恥ずかしい>はかなり明らかに違うグループ。英語では<恥(はず)ずかしい>は程度の違いで差があるようだ。参考に ashamed という形容詞の英語辞書の解説はつぎのとおり。


ashamed
embarrassed or guilty because of one's actions, characteristics, or associations.


"you should be ashamed of yourself"


synonyms:sorry, shamefaced, abashed, sheepish, guilty, conscience-stricken, guilt-ridden, contrite, remorseful, repentant, penitent, hangdog, regretful, rueful, apologetic; More
embarrassed, mortified, red-faced, chagrined, humiliated, uncomfortable, discomfited, distressed;
in sackcloth and ashes;
informalwith one's tail between one's legs;
rarecompunctious;
blush to think of


"she was ashamed of the way she had behaved"
antonyms:proud, unabashed

reluctant to do something through fear of embarrassment or humiliation.


"I'm ashamed to say I followed him home"


synonyms:reluctant, loath, unwilling, disinclined, hesitant, indisposed, slow, afraid;


"he was ashamed to admit it"


guilty, conscience-stricken, guilt-ridden となるとかなりシリアスだ。

やまとことばでは<恥知らず(の、な)>がかなりシリアスだが<罪の意識>よりは軽く、また自意識というよりは他人の目、世間体(てい)、道徳が強くからんでおり、社会性がある。<恥ずかしい>は<恥知らず>よりやや軽いようだ。この恥(はじ)は社会規範になっており、よく使われる。

恥じ入る - <恥知らず>の意に近い場合も<恥ずかしい>の意に近い場合もある。
恥をかく (<恥を欠く>とは意味もイントネーションも違う) - 恥かき
恥をさらす - 恥さらし
恥を知る
恥のかき捨て

漢語由来のようだが日本語に<卑怯(ひきょう)>、<卑怯な>という語がある。も違う。英語では shameless が近いか?

e)reserved

これは<ひかえめな>、<つつしみぶかい>、<つつましやかな>といったやまとことばがあり、日本の社会では男女を問わず一般的に良いこと、よい性格ということになっている。上記の bashful の意味(同義語)の中にはなぜかないが、英語には humble、modest という言葉があり(形容詞)、これは reserved(ひかえめな)の意に近い。

e) meek

英語辞書では overly submissive という解説がある。やまとことばでは<(いやに)へりくだった>というのがある。

f) mauvaise honte 

おまけにフランス語(英語圏でも使われる)の mauvaise honte というのを紹介する。やや high-brow または snobbish な語だ。インターネット Oxford Dictionary の解説は次の通り。

mauvaise honte
Pronunciation: /məʊˈveɪz ˈɒ̃t/


Definition of mauvaise honte in English:

noun

False shame or modesty.


Origin

Early 18th cent.; earliest use found in Mary Wortley Montagu (bap. 1689, d. 1762), writer. From French mauvaise honte from mauvaise, feminine of mauvais bad + honte shame.


文字通りでは bad shame (悪い恥)だが、そうでもなさそうで False shame or modesty となっている。False shame の意味がよくわからないので、調べてみたがよくわからない。D.H. Lawrence の小説 Women in Love の中にmauvaise honte が使われている。

 "

So there was quite a little festivity on Winifred's account, the day Gudrun returned to Shortlands.
'You should make a bunch of flowers to give to Miss Brangwen when she arrives,' Gerald said smiling to his sister.
'Oh no,' cried Winifred, 'it's silly.'
'Not at all. It is a very charming and ordinary attention.'
'Oh, it is silly,' protested Winifred, with all the extreme MAUVAISE HONTE of her years. Nevertheless, the idea appealed to her. She wanted very much to carry it out.

 "


 これからすると、<はにかみ屋>といった意味だ。したがって False shame は<必要のない恥>、<まちがった恥>となる。したがって、西欧人にとっては<はにかみ屋>(shy, shyness)は<まちがった恥>なのだ。またこの小説のなかには< meek と女性>の論議がある。


こう見てくると英語でも shy (shyness) と ashamed (shame) は微妙につながっている。

(追記)

実を言うと、上で<おまけにフランス語(英語圏でも使われる)の mauvaise honte というのを紹介する>と書いたが、このポストは上述のD.H. Lawrence の小説を読んでいるときに mauvaise honte という語に出会って書いたもの。

sptt



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