知覚動詞というのがある。
知は知る。覚は感覚で、普通は視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚の五感で、第六感は感覚の中に入らない。
さて、 視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚の五感だが、漢語の羅列なので大和言葉をさがしてみる。
他動詞 自動詞
視覚 (を)見る (が)見える
聴覚 (を)聞く (が)聞こえる、(xxの)声がする、(xxの)音がする
味覚 (を)味わう (xxの)味がする
臭覚 (を)かぐ (が)におう、(xxの)香り(におい)がする
触覚 (に)触れる (が)触れる
かなり不規則だが大和言葉があり、日常生活で頻繁に使う大和言葉の代表といえよう。また、他動詞よりも自動詞を多く使い、自己中心的でないのが日本語の特徴だ。
<見せる> は<見る>の使役形で、相手に自分が<見える>ようにさせる(してもらう)ことで、英語の <Let me see (it).>だが、英語では to show という別な動詞があり、これをよく使う - <Please show it to me.>。
<(を)聞く>は英語では< to listen to>。<(が)聞こえる>は <to be heard>ともいえるが、普通は自己中心的な <to hear>、<I hear xxx>だ。
<(を)味わう> は英語では< to taste>。 <xx は yyy の味がする>は<xx tastes yyy (yyy=形容詞または like 体言(名詞)>相当。
<(を)かぐ> は英語では<to smell, to sniff>。<xx は yyy の香り(におい)がする>は<xx smells yyy (yyy=形容詞または like 名詞>相当。
<(に)触れる> は英語では< to touch>。<xx が yy に触れる>は<xx touches yy (someone / something>相当。
<手を触れないでください>という慣用表現もある一方、<手で触れてみる>といった言い方もある。
さて、感覚動詞の代表とも言うべき動詞に<感じる>がある。<感>の発音は<kan>で漢字の音読み、すなわち大和言葉ではない。日本語はどちらかというと一般化、抽象化が苦手で、五感を代表する大和言葉の動詞がない。そこで、便利な<感>を導入したというところだろう。ところで、問題は<感>のあとの<じる>だ。もともとは<感ずる>、<感>+<する>で、(xxの)声がする、(xxの)音がする、(xxの)香り(におい)がすると同類で、<感>を名詞としてとらえ、これに<する>をつなげて、<感ずる>だ。だが、<感ずる>は他動詞だ。<感じる>は<感ずる>のなまったものとも考えられるが、<感>+<知る(しる)>と考えたらどうか。<知る>は知覚動詞の<知>の方の代表だが、かすかに<感じる>の意がある。
痛みを知る
寒さを知る
暑さを知る
かゆみを知る
<感じる>の大和言葉としては<おぼえる>があり、<覚える>とも書く。ただしこの<覚える>発音がやや面倒なためか<感じる>が主流だ。もし<感じる>が<感>+<知る(しる)>だとしたら、きわめて一般的な動詞<する>ではない<感じる>の意がある<しる>を使っていることになる。
xx(体言(名詞)の気がする
xxxな(形容詞、形容動詞)気がする
という表現があるが、この<気>は大和言葉のように見える、聞こえるが、これも<感>と同じく漢語。意味としては<知る>というよりは<思う>、<考える>だ。
視覚は認識活動の大部分をしめるが、あるいはそのためか、視覚に関係した<xxのXXがする>という表現が見当たらない。あえて探してみたが、せいぜい次のような表現だ。
xxのカゲがする
<カゲカタチ>とか<スガタカタチ>という表現があるので
xxのカタチがする
xxのスガタがする
のほうが<カゲ>よりは適当なのだが、こういう表現はほとんど聞かない。
英語では sight が<見る>の名詞形に近く、outlook、appearance、scene、scenery、view が<見える>の名詞形。
ドイツ語では das Gesicht が sehen (見る)の名詞形にあるが、第一番目の訳は<顔(つき)>になっており、例) ein schönes Gesicht で<きれいな顔立ち>。
日本語の方も
いやな顔をする
こまった顔をする
しかめっ面(つら)をする
といった表現があるが<(形容詞、形容動詞、修飾語+)顔をする>で<(xxの)顔がする>ではない。
outlook、appearance の大和言葉には<見ばえ>、<見目(みめ)>、<見栄(みえ)>、<見た目>がある。
<見ばえがする>はいいが、<見る>の一般化にはなっていない。
<見目(みめ)>や<見た目>の方が一般化しているが、
<(xxの)見目(みめ)>がする
<(xxの)見た目>がする
とは言わない。
sptt
Thursday, January 3, 2013
感覚動詞-<感じる>の語源
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こんにちは。
ReplyDelete日本語学習者です。
ブッログを拝読致しました。
ご説明のとおりだと思いますが、
ネットでは、少ないながらも、「修飾語+顔がする」を見かけます。
やはり「顔がする」と「顔をする」を、日本の方は母国語話者の敏感な語感で
うまく使い分けているように思われます。
それとも、単なる入力ミスでしょうか。
「匂いがする、匂いをする」
「顔がする、顔をする」
「形がする、形をする」などなど
上のような「~がする」、「~をする」の違いについて、
ご意見を拝読できれば幸いと思いますが。。
よろしくお願います。。