Thursday, March 14, 2013

開(あ)く、空(あ)く、飽(あ)く、明(あ)く


前回のポストで証明のやまとことば<あかし>について書いた。あか(a-ka)、あき(a-ki)、あく( a-ku)、あけ( a-ke) 関連の語群はひとつのファミリーをなしている。

コンピュータワープロ辞書では次のような意味がある。

赤(あか)、垢(あか)、芥(あくた)、明かり、明(あか)るい、証(あか)す、明(あか)す
明(あき)らか(な)、飽きる、あきらめる、秋(あき)
開(あ)く、空(あ)く、飽(あ)く、明(あ)く、灰汁(あく)、悪(あく)
開(あ)ける、空(あ)ける、明(あ)ける

灰汁(あく)と悪(あく): 悪(あく)は中国由来。普通語では悪は<e>(四声は無視)だが、広東語は<ok>(これも六声だか七声は無視)で明らかに 中国由来。一方灰汁(あく)は灰汁抜きの灰汁。垢(あか)の関連語でやまとことば。イントネーションも違う。芥(あくた)も関連語だろう。垢(あか)、灰汁(あく)、芥(あくた)、は他の a-k 語ファミリーとは関連なさそうだ。

他の a-k 語ファミリーは関連がある。

赤(あか)が昔どのあか色をさしたのかわからないが、すくなくとも明るい色だろう。

<証(あか)す>は前回のポストで証明と<あかし>に関して述べたので省略。

 <明(あか)す>は<夜をあかす>の<あかす>。<夜が明ける>という表現と関連する。

 <飽きる>、<飽(あ)く>は<明るい>グループと関連なさそうだが、<あきらめる>が<明(あき)ら>+<める>という語源解説がある(中西進<ひらがなで読めばわかる日本語>)。

<明るい> が<明ける>、<明かす>、さらには<空ける>、<空かす>、<開ける>、<開かす>と関連することはわかる。

<窓をあける>と<窓をひらく>は意味がちがう。<窓をあける>と<あかるくなる>、<空間がひろがる>のだ。<窓をひらく>は物理的な動作、作業に近い。

しかしながら <明るい>グループを<飽きる>、<飽(あ)く>グループと結びつけるのは難しい。なぜなら、<明ける>、<明かす>、さらには<空ける>、<空かす>、<開ける>、<開かす>は empty に関係するのに対して<飽きる>、<飽(あ)く>は反対の full に関係するからだ。磁石の性質として<飽和>というのがあり、full --> empty に似た現象を示すようだが、古代人がそこまで物事を科学的に観察していたかは疑問だ。禅(問答)にあるかどうか調べていないが、老子の教えの道教ではfull <--> empty、言い換えると<空(虚)は実にして、実はこれまた空(虚)なり。<空(虚)実相通じる>という世界の見方が根本にある。

したがって、<あきらめる>は<飽きる>、<飽(あ)く>グループだろう。このグループはあまり使わない。したがって、意味が曖昧になっている。

あぐむ - 攻めあぐむ、 待ちあぐむ、考えあぐむ、言いあぐむ (間違いがありそう)
あぐねる - 考えあぐねる、探しあぐねる、言いあぐねる (間違いがありそう)
 
がある。<飽きる>、<飽(あ)く>の意味は中性を保っているが、<あぐむ>、<あぐねる>は濁音のためか否定的な意味だ。

<あきれる>、<あきれかえる>も関連語だが full というよりは empty にちかいので<飽きる>グループよりも<明るい>グループに近い。あるいはfull --> empty の関係があるのか?

ところで、英語の<xxに飽きる>は <to tire of xx>、<to become tired of xx>が代表だが、<いやになる>、さらには<疲れる>、<疲れた>の意もあり、むしろ<of>以下を省いた<I am tired>(疲れた)は使用頻度が高い -特に日本人の英語。


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証明のやまとことば


sptt やまとことばじてん>第一回ポストで<導出について>といた。しばらく数学から離れていたので今回は数学の最重要作業と思われる<証明>のやまとことばについて考えてみる。<論証>(論理的な証明の略)という言い方もあるが
<証明>のほうが簡潔でいいし十分だ。

 <証明>のやまとことばは<あかし>だろう。<あかし>は耳で聞きいてもいい言葉だが、残念ながら数学の説明のなかで<あかし>が使われているのは見たことがない。<あかし>は大体次のように使われているようだ。 

1)無実の<あかし>をする(たてる)。 身のあかしを立てる
2)手品のたね<あかし>。

どうも1)は理性的というよりは心情的な使われ方、2)は権威が足りないようだ。

動詞は<あかす>で

無実をあかす。
身の潔白をあかす。 
たねをかせば、

さて、以上はひらがなを用いたが、コンピュータワープロの漢字変換では

あかし --> 証
あかす --> 明かす

となり<あかし>、<あかす>で<証明>となる。

なぜ<あかし>が耳で聞きいてもいい言葉なのかは <a-ka-shi>という開口音<a>の多い発音と <あかるい(a-ka-ru-i)>、<あきらか(a-ki-ra-ka)>といった意味の語との連想からだろう。<身のあかしを立てる>もいいやまとことば表現で、この場合<あかし>は<正しさ>になり、<証明>にまさるより根源的な言葉だ。



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