<惜しむ>は大体次のように使われる。
1)力を出し惜しむ。
2)時間を惜しんで勉強する。
3)XXさんの死を惜しむ。
4)XXさんとの別れを惜しむ。
5)太郎郎は金を惜しんで(惜しんだので)花子にふられた。
6)数字一つ違いで宝くじの一等1,000万円を当てそこなった。惜しいことをした(惜しまれる)。
7)美代子は文学の才能があったが、水準の高い処女作を残して自殺してしまった。惜しまれる(惜しいことをした)。
1)力を(出し)惜しむ。
単に<力をださない>のではなく、<力が出せるのに出さない>のだ。なぜか? <力を出す>と何かが失われるような気がするからだ。
2)時間を惜しんで勉強する。
<時間がなくなる>のをおそれるように、といった意味だ。
3)XXさんの死を惜しむ。
<XXさんがなくなった>こと悲しむ、残念に思う、といった意味だ。残念はこの場合の<惜しむ>の漢語版に近い。
4)XXさんとの別れを惜しむ。
<XXさんと別れて会えなくなる>こと悲しむ、残念に思う、といった意味だ。
5)太郎は金を惜しんで((惜しんだので)花子にふられた。
<金がなくなるの>をおそれて、といった意味だ。
6)数字一つ違いで宝くじの一等1,000万円を当てそこなった。惜しいことをした(惜しまれる)。
<手に入るところだった1,000万円が手に入らなかった>ことをいまいましく思う、といった意味だ。<惜しい>は形容詞で、この例の場合<惜しまれる>は使いそうにない。
7)美代子は文学の才能があったが、水準の高い処女作を残して自殺してしまった。惜しまれる(惜しいことをした)。
<水準の高い作品が期待できるところ、期待できなくなった>こと悲しむ、といった意味だ。
共通している意味は<なにかがなくなる、なくなったことを>いやだと思う、おそれる、いまいましく思う、悲しむ、ということだ。
漢語の<残念(無念)だ>、<残念(無念)に思う>が<惜しむ>の代わりに使える場合もあるが-3)、4)、6)、7)、
1)力を出し惜しむ。
2)時間を惜しんで勉強する。
5)太郎は金を惜しんで(惜しんだので)花子にふられた。
の例ではダメだ。
さて<負け惜しみ>についてだが、
<負けること、負けたこと、を悲しむ、残念に思う>という意味ではない。
<負けること、負けたこと、を恐れる>という意味もイマイチ。
<負けること、負けたこと、をいやだと思う、いまいましく思う>が一番近いようだ。 結局はある意味で<嫉妬>だ。<いまいましい>はコンピュータ辞書では<忌々しい>と出てくるが<忌む>は<嫌う>が元の意味のようだが、単なる<嫌う>でもなさそう。<いまいましい>と<嫌(きら)い>は違う。
<嫉妬>の大和言葉について考えてみる。
1)ねたむ
コンピュータワープロでは、妬む、嫉む、の漢字が当てられている。あわせれば<嫉妬>で<ねたむ>が一番<嫉妬>に近いようだ。
ときに<ねたみ、そねみ>で使われるが <そねむ>はほとんど使われない。
<ねたむ>に相当する英語は to be jealous of、 to become jealous of で jealous は形容詞。
2)うらやむ
コンピュータワープロでは、羨む、の漢字が当てられている。<うらやむ>も嫉妬に近い。他人が持っているモノ、コトが自分が持っていないことを<いやだと思う>ことだ。<なくなること、なくなったこと、をいやだと思う>のが<惜しむ>なので、<うらやむ>は<惜しむ>にやや近い。
<うらやむ>の関連語というか、もとのことばともいえるのに<うらむ>がある。
うらむ。 コンピュータワープロでは、恨む、怨む、憾む、の漢字が当てられている。<うらやむ>は自分に向かっているが、<うらむ>は他人、対象に向かっていおり、やや危険な心理状態だ。<うらやむ>から<うらむ>に発展することがあるようで、嫉妬心理の危険かつ不幸な一面を表している。ときに<うらみ、つらみ>で使われるが <つらむ>はほとんど使われないというか、無いようだ。<つれる>、<つらなる>からの連想か?<うらやむ>に相当する英語は to envy。
さらに関連語らしき言葉に<倦(う)む> (<生む>とはアクセントがことなる、東京アクセント)がある。<倦(う)む>は<飽(あ)きる>と同じような意味だが語感的には<倦(う)む>は暗く、<飽(あ)きる>は文字通り<あかるい>。
<いやみ> という言葉がある。コンピュータワープロでは、嫌味、厭味の漢字が当てられている。この言葉も相当複雑。<いやむ>という動詞ははほとんど使われないというか、ないようだ。<負け惜しみ>の解説の結論として、
<負けること、負けたこと、をいやだと思う、いまいましく思う>が一番近いようだ。
と書いたが、ここに<いや>がでてくる。<いやみ>も嫉妬がらみのようで、嫉妬の複雑さを示している。
<いやみ>に相当する英語はすぐには思い浮かばない。good will(善意) の反対の ill will (悪意)が近いようだ。ラテン語系の malevolent, malicious というのもある。
ところで<負け惜しみ>はいろいろな場面で使われるが、代表例はイソップ物語の中の<すっぱいブドウ>だろう。この話古い日本語版イソップ物語<伊曾保物語>では第一番目に出てくる。
渡邊譯:通俗伊蘇普物語
第一 狐と葡萄の話(1)或日狐葡萄園《ぶだうばたけ》にはいり、赤く熟せし葡萄の高き棚より披鈴《すゞなり》にさがりたるを見て、 是は甘《うま》さうぢやと皷舌《したうち》して賞揚《ほめた》て、幾度となく躍《とび》上り踊上りたれどもとゞかず。 そこで狐が怒《はら》を發《たつ》て、「ヨシ、なんだこんなものを、葡萄はすツぱいぞ。」
これとにかよった<しっぽをなくしたキツネ>という話がイソップ物語のなかにある。これは伊曾保物語の中にはない。やはりキツネがでてくるが、すこし社会性をおびている。下記参照。
<しっぽをなくしたキツネ>
sptt自由訳
ある時キツネが仕掛けたわなにかかってしまったが、しっぽを切って逃げた。このキツネしっぽがない恥ずかしい思いを何とかすることが出来ないかといろいろ考えた。かくして仲間のキツネを集めて皆がしっぽを切ることを提案して言った。
<しっぽというものは、見栄(みえ)のためで、ただのおまけに過ぎず、動き回るのに重くてじゃまになるだけで、まったくいらないものだ。>
仲間のうちのあるキツネが言った。
<そうは言うが、あなた、もししっぽをなくしていなっかたら、わざわざ仲間を集めてこんな提案はしないのとちがうか?>
しっぽをなくしたキツネは何も言わずに去って行った。
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<すっぱいブドウ>の話の場合、上記の定義<負けること、負けたこと、をいやだと思う>の負ける、負けたわけではないが、ブドウをとることに<成功しなかった>ので、<負けた>に近い。
<しっぽをなくしたキツネ>の話の場合はやや複雑で、
<しっぽがない恥ずかしい思い>はいわば劣等感で、これを<負け惜しみ>の発言で克服しようとする。しかしながら結局は<負け惜しみ>発言であることを指摘され、劣等感の克服は失敗に終わる。ところで、しっぽをなくしたキツネの発言は理論的には相当正しく、説得が成功した場合はどうだろうか?劣等感が克服できるだけでなく、提案者としての優越感が出てくるのではないか?
劣等感は英語では inferiority complex、一方優越感は superiority complex で、<complex>がつくように劣等感、優越感も相当複雑。
劣等感、優越感のやまとことばはなにか?
sptt
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