Friday, August 29, 2014

図形のやまとことば - 1、うつる、うつす


<sptt やまとことばじてん>の英語版 sptt Native Japanese Dictionary の<Geometry in Native Japanese - 1 - Introduction>で次のように書いた。

I must admit that the geometrical world in ancient Japanese (say more than 1,500 yeas ago) were very poor as compared with the Chinese and Western worlds. 

(中略)

0) 0D - point                     Chinese    点       Native Japanese め(me; 目 or eye)

1) 1D - line                       Chinese  線      Native Japanese すじ(su-ji; 筋 or stripes in muscles, veins)

2) 2D - surface or area      Chinese  面      Native Japanese おもて(o-mo-te; 面 or face)

3) 3D - solid or volume     Chinese  体(立体)  Native Japanese かたまり(ka-ta-ma-ri; 塊 or lump)


1.図形の作成(図形をつくる)

いわば大和言葉の幾何用語は貧弱なのだが、今回は図形の大和言葉について考えてみる。図形(ずけい)は和製漢語だろう。 図(ず)は<え>、 形(けい)は<かたち>と言う和語があるが、<えかたち>はほとんど聞かない。<すがたかたち>は少し長いが響きのいいやまとことばだ。<描く>はほぼ間違いなく<絵(え)がく> だ。<かく>の方は<書く>と言うよりは<引っかく>の意の<かく>だ。もっとも<書く>自体<引っかく>由来だろう。<図をえがく>は<絵をえがく>というよりは<かたちをえがく>の方がいいようだが、あまり使われない。もっとも<えがく>自体に<絵(図)>があるので<えがく>だけでいいのだ。

2.図形の移動(図形を<うつす>)

図形の移動は<図形を移す>が一般的だが、 <図形を写す>、<図形を映す>も可能。 英語では<移す>は to shift、<写す>は to copy (コンピュータ操作では、to copy and paste と二段階になる)、<映す>は to reflect という対応がある。一方大和言葉ではいずれも発音は<うつす>で区別はない。これは日本語の<うつす>という動詞の特徴で、漢字で書けば<移す>、<写す>、<映す>の区別があるが、<うつす>という動詞にはこの区別はないのだ。図形に関していえば、<図形移動>は<図形移し>とはまず言わないが<図面の写し>はよく使う。あまり機会はないが鏡に<うつす>場合は<図面を映す>になるか。

ここで注意したいのは to shift、 to copy、 to reflect は動き、または移動をともなうが<元の図形(かたち)>は変わらないということだ。<うつす>はこの意味をたもっている。未分化とも言えるが一般化が進んだ語とも言える。

<元のかたち>は変わらないが、サイズが変わるのに、拡大、縮小がある。 拡大は<引き伸ばし>と言う語がある。縮小は<ちぢみ>だが、これは使われない。ゲンミツに言うと縮小は<元のかたち>は変わらないことが想像されるが、拡大はそうではない場合が多い。英語では拡大は to enlarge(動詞)、 enlargement(名詞)、縮小は to squeeze(動詞)(名詞も squeeze)。

回転移動も<元のかたち>は変わらないが、<まわしうつす>、<まわりうつる>はほとんど聞かず、<まわす>、<まわる>ですましている。

<元のかたち>は変わる場合は<変形>だ。<かたちがえ>、<かたちがわり>はまず聞かない。変形の英語には to transform, transformation, to deform, deformation がある。もっともやまとことばでは、私が好きなレッキとした物理用語で<ひずむ>、<ひずみ>というのがある。<たわむ>、<たわみ>というのもある。

to transfer, to transmit, to transport も大体<うつす>と訳せる。

日本語の<かわる(かえる)>も未分化の、または一般化が進んだ動詞で、変わる(える)、換わる(える)、替わる(える)がある。

<うつる>は時間次元でも活躍し<時はうつる>のだ。英語は<Time passes>と別の動詞を使う。変化がともなうと<時はうつりかわる>となる。<うつりかわる>、<うつりかわり>は4次元表現と言えるが、いい大和言葉だ。<うつす>は他動詞、<うつる>は自動詞。

<うつす>の否定形は<うつさない>。可能形は<うつせる>、その否定は<うつせない>。受身形は<うつされる>だが、日本語では被害、迷惑の意がある。<席を後ろの方にうつされる>、<写真をうつされる>、<風邪(かぜ)をうつされる>。使役は<うつさす>だが<うつさせる>も可か。<(だれだれ)の席をうつさせてください>。
<うつる>の否定形は<うつらない>。可能形は<うつれる>、その否定は<うつれない>。自動詞なので受身はないようだが、日本語では<うつらされる>がある。これも受身というよりは被害、迷惑の意がある。使役は<うつらさす>、<うつらさせる>が可能のようだが、ほとんど聞かない。間違いか?

名詞形は<連用形の体言化>の<うつし>、<うつり>でよく使われ、こなれた大和言葉だ。

抽象化が進んだ数学ではトポロジー(topology)というのがあり、日本語では漢字を五個も並べた<位相幾何学>が正式訳語のようであるが、トポロジーも位相もわかりにくい、というかピンとこない。上で述べたような<移す>、<写す>作用が多いようなので<うつし幾何学>としたらどうか?


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Wednesday, August 27, 2014

<はしたない>について


このポストは前回のポスト ”<言葉(ことば)>の<葉)>とは何か?” の続編で<はし>についての話だ。

 <はしたない>は<はした>+否定の<ない>の意味ではない。 手もとの辞書によると<はしたない>は<はし>+接辞の<た>+形容詞語尾の<ない>。<はし>は前回のポストで説明した<はしくれ>、<きれはし>、<かたはし(かたすみ)>、<東京のはし(*) (東京のはずれ)>などのように使われ、中心(やまとことばは<かなめ>か)の反義語で、<あまり重要でない>ところ、モノ、コトをあらわす<はし(端)>だ。これで<はしたない>という形容詞になる。

形容詞語尾の<ない(なし)>の例としては次のような形容詞がある。

きたない - これも<き>+接辞の<た>+形容詞語尾の<ない>で<き>に<きたない>の意があるのか? <きらう>の<き>、<きれはし>、<ぼろきれ>の<き>が関連あるかも。
あどけない - 語源不詳 (インターネットの語源由来辞典参照)
かたじけない  - 語源不詳 (インターネットの語源由来辞典参照)
かなし(い) - 語源不詳、というよりは純形容詞 (インターネットの語源由来辞典参照)
はかない(はかなし) 語源不詳。<はしたない>の<は>と関係がありそう。
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むなし(い) - <む> +<なし>のようだ(インターネットの語源由来辞典参照)

(追加予定)


ところで否定の<ない> は文法書や辞書の文法説明では助動詞と説明されている。他の品詞との接続は

1)動詞につく場合は、動詞の仮定形につく。例) 行かない。

2)形容詞につく場合は<く>活用、<しく>活用のやはり未然形につく。ただし<く>、<しく>は連用形でもあり、<く>、<しく>を無理やり未然形としている感がある。例) 多くない。美しくない。

3)形容動詞は現代語の<だ>活用の場合は適当なのがない。しいてあげれば連用形の<で>につくが、文法的な法則性からすると<ない>は一般動詞とも見れる。(末尾参照) 例) 静かでない、綺麗(きれい)でない。古語では<静かならず>で<静かならば>とともに未然形につき文法的な法則性がある。


 (末尾)

ダ型活用 (wiki-Japan, 2014-08-27)

未然形 だろ
連用形 だっ・で・に
終止形 だ
連体形 な
仮定形 なら
命令形 ×







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<言葉(ことば)>の<葉(は)>とは何か?


<言葉(ことば)>は<ことのは>の略といわれているが、<こと>はごく一般的なモノ、コトのコトではなく<ひとこと>、 <かたこと>と言うように<こと>だけで<ことば>の意がある。<こと(koto)>は<かたる(kata-ru)>の音韻変化とも考えられ、関連語だろう。<かたこと>の<かた>は<かたほう(片方>、<かたはし(片端)>の<かた>で、<一方のはし(端)>の意味に近い。それでは<ことのは>の<は>はいったいなにか?<ことば>は漢字で書くと<言葉>で<言 の葉>、すなはち<ことの葉>となるが、<葉>は当て字だろう。<ことば>と<木の葉>は結びつきにくい。やまとことばの名詞の<は>には、葉以外に歯、刃が ある。歯は口にあるので物理的に、または人体器官で関係があるが、<こと>自体に物理的に、または人体器官とは関係のない<ことば>の意があるので、検討の余地がある。するどい言い方や、人を殺したり、傷つけたりする<ことば>もあるが、刃も<ことば>と結びつきにくい。ただし、葉、歯、刃がまったく関係ないとはいえない。もっとも<やまとことば>の特徴でいえば、葉(は)、歯(は)、刃(は)は元来(大昔)は同類だったのだ。

<はし>という言葉がある。<はし>は意味によって橋、端、嘴、箸の漢字が当てられる。最後の箸は東京アクセントではイントネーションが違う。嘴(はし)はほ とんど独立しては使われず、実際使われるのは<口ばし>の<ばし>ぐらいだ。長い<口ばし>は箸(はし)と同じよう役目をする。ところで、手もとの辞書に よると端の<はし>の<し>は接辞で<は>が端の意味をになっている。橋は、川の両岸にかぎらず、離れた二つの端(はし)-を結びつける役目があり、<橋 をつくる>ではなく<橋をかける>という言い方が普通で、<かけ橋>とも言う。<かけ橋>は長すぎるにで<はし>になったと考えられる。<はしけ>という モノがあるが、これは同じ辞書によると<はしけ>の<はし>は<橋>ではな<く端>の意、<け>は接辞という説明だ。話が少しそれたが、<はし>の元来の 意味は<端>の意で 、<し>が接辞であるので、<は>が<端>の意ということになる。<ことのは>の<は>はかなりの高確率でこの<は>だろう。

<はし(端)>は物理的には<線状のものの終わり、または終わりに近い部分>のことを指す。また<はしくれ>、<かたはし(かたすみ)>、<東京のはし(*) (東京のはずれ)>などのように使われ、中心(やまとことばは<かなめ>か)の反義語で、<あまり重要でない>ところ、、モノ、コトをあらわすようだ。こ の<はし(端)>が言葉の<こと>とどう結びつくのか? 実際に言葉を話す場合を考えると、

1)時間の経過とともにいった言葉は過ぎ去っていく。時間軸(線状)で考えれば、端の方へどんどん離れていく。おもしろいのは方向で、前の方でも後ろの方でも言いようだ。

2)面(2次元)、立体(3次元)で考えると、まわりの端の方へどんどん離れていく。

2) の場合は円状、球面状に離れていくのだが(出所からの距離は半径になる)、この場合は<はし(端)>というよりは<へり>というやまとことばがいいが、これ以外にも<ふち>、<まわり>、 <さかい>、<きわ>などがある。もっともこれは円状、球状にかぎらず、四方形、立法体の周辺にも使われる。<窓ぎわ>は<窓のきわ>ではなく、<窓があるきわ>の意で、窓は<きわ>にあるのが普通で、窓は内外(うちそと)の堺(さかい=きわ)になっている。<へり立つ>という言葉はないが<きわ立つ> はある。<きわ立つ>は<アウトラインが目立つ>で、<はっきり見える>ことだ。

あえて結論をいうと、<ことのは>の<は>は<あまり重要でない>ところ、モノ、コトをあらわす<はし>。<言葉の尻をとらえる>という言い方があるが、<言葉のはしをとらえる>ともいう。いい意味ではないが、上で述べた<かたこと>とともに言葉の特徴をうまくあらわている。言葉はウソも本当も伝える、伝えてしまうのだ。言葉は使い、役立てることができる反面使われてしまわれ、害をもたらす面もある。


 (*)<東京物語>(古いほう)の中国語版(ビデオ)を見たことがあるが、足立区か荒川区の住まいの場所<東京のはし>を<東京的橋>と訳していた。<端>は<橋>ほどの具体性がない。


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