<sptt やまとことばじてん>の英語版 sptt Native Japanese Dictionary の<Geometry in Native Japanese - 1 - Introduction>で次のように書いた。
I must admit that the geometrical world in ancient Japanese (say more than 1,500 yeas ago) were very poor as compared with the Chinese and Western worlds.
(中略)0) 0D - point Chinese 点 Native Japanese め(me; 目 or eye)
1) 1D - line Chinese 線 Native Japanese すじ(su-ji; 筋 or stripes in muscles, veins)
2) 2D - surface or area Chinese 面 Native Japanese おもて(o-mo-te; 面 or face)
3) 3D - solid or volume Chinese 体(立体) Native Japanese かたまり(ka-ta-ma-ri; 塊 or lump)
1.図形の作成(図形をつくる)
いわば大和言葉の幾何用語は貧弱なのだが、今回は図形の大和言葉について考えてみる。図形(ずけい)は和製漢語だろう。 図(ず)は<え>、 形(けい)は<かたち>と言う和語があるが、<えかたち>はほとんど聞かない。<すがたかたち>は少し長いが響きのいいやまとことばだ。<描く>はほぼ間違いなく<絵(え)がく> だ。<かく>の方は<書く>と言うよりは<引っかく>の意の<かく>だ。もっとも<書く>自体<引っかく>由来だろう。<図をえがく>は<絵をえがく>というよりは<かたちをえがく>の方がいいようだが、あまり使われない。もっとも<えがく>自体に<絵(図)>があるので<えがく>だけでいいのだ。
2.図形の移動(図形を<うつす>)
図形の移動は<図形を移す>が一般的だが、 <図形を写す>、<図形を映す>も可能。 英語では<移す>は to shift、<写す>は to copy (コンピュータ操作では、to copy and paste と二段階になる)、<映す>は to reflect という対応がある。一方大和言葉ではいずれも発音は<うつす>で区別はない。これは日本語の<うつす>という動詞の特徴で、漢字で書けば<移す>、<写す>、<映す>の区別があるが、<うつす>という動詞にはこの区別はないのだ。図形に関していえば、<図形移動>は<図形移し>とはまず言わないが<図面の写し>はよく使う。あまり機会はないが鏡に<うつす>場合は<図面を映す>になるか。
ここで注意したいのは to shift、 to copy、 to reflect は動き、または移動をともなうが<元の図形(かたち)>は変わらないということだ。<うつす>はこの意味をたもっている。未分化とも言えるが一般化が進んだ語とも言える。
<元のかたち>は変わらないが、サイズが変わるのに、拡大、縮小がある。 拡大は<引き伸ばし>と言う語がある。縮小は<ちぢみ>だが、これは使われない。ゲンミツに言うと縮小は<元のかたち>は変わらないことが想像されるが、拡大はそうではない場合が多い。英語では拡大は to enlarge(動詞)、 enlargement(名詞)、縮小は to squeeze(動詞)(名詞も squeeze)。
回転移動も<元のかたち>は変わらないが、<まわしうつす>、<まわりうつる>はほとんど聞かず、<まわす>、<まわる>ですましている。
<元のかたち>は変わる場合は<変形>だ。<かたちがえ>、<かたちがわり>はまず聞かない。変形の英語には to transform, transformation, to deform, deformation がある。もっともやまとことばでは、私が好きなレッキとした物理用語で<ひずむ>、<ひずみ>というのがある。<たわむ>、<たわみ>というのもある。
to transfer, to transmit, to transport も大体<うつす>と訳せる。
日本語の<かわる(かえる)>も未分化の、または一般化が進んだ動詞で、変わる(える)、換わる(える)、替わる(える)がある。
<うつる>は時間次元でも活躍し<時はうつる>のだ。英語は<Time passes>と別の動詞を使う。変化がともなうと<時はうつりかわる>となる。<うつりかわる>、<うつりかわり>は4次元表現と言えるが、いい大和言葉だ。<うつす>は他動詞、<うつる>は自動詞。
<うつす>の否定形は<うつさない>。可能形は<うつせる>、その否定は<うつせない>。受身形は<うつされる>だが、日本語では被害、迷惑の意がある。<席を後ろの方にうつされる>、<写真をうつされる>、<風邪(かぜ)をうつされる>。使役は<うつさす>だが<うつさせる>も可か。<(だれだれ)の席をうつさせてください>。
<うつる>の否定形は<うつらない>。可能形は<うつれる>、その否定は<うつれない>。自動詞なので受身はないようだが、日本語では<うつらされる>がある。これも受身というよりは被害、迷惑の意がある。使役は<うつらさす>、<うつらさせる>が可能のようだが、ほとんど聞かない。間違いか?
名詞形は<連用形の体言化>の<うつし>、<うつり>でよく使われ、こなれた大和言葉だ。
抽象化が進んだ数学ではトポロジー(topology)というのがあり、日本語では漢字を五個も並べた<位相幾何学>が正式訳語のようであるが、トポロジーも位相もわかりにくい、というかピンとこない。上で述べたような<移す>、<写す>作用が多いようなので<うつし幾何学>としたらどうか?
sptt
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