前回のポスト ”<たくみ>と<たくらむ>について” で次のように書いた。
”
<たくらみ>には裏がある。この裏は普通は表に出てこない。 出てきたときは大体<裏切り>になる。<裏切り>の語源はよくわからないが(別途検討)、<裏を返す>は普通は表に出てこない<たくらみ>が<裏を返す>ことによって表に出て来て見えるようになることを指すようだ。
”
忘れないうちに<裏切り>の語源を検討してみる。<裏を切っても><裏切り>の意味は出てこない。そもそも<裏を切る>、あるいは<切る>という漢字を使わない<裏をきる>とはいったいどういういみか?<しらをきる>というのもある。<きる>は<切る>の意か?
<裏を返す>は<裏切り>の意がある。<裏を返す>は<表を裏に、裏を表に><返す>、<ひっくり返す>ことだ。だが文字通りでは、<裏を返す>からは<裏切り>が出てこない。
<裏切り>に関連した言い方に<誓いを破る>というのがある。<誓いを破る>は大体<裏切り(行為)>だ。<破る>は<切る>に近い。だがこれも <裏を破る>、<裏破り>では意味がない。<切る>には<切って離す>の意、あるいは<離す>の意がある。自動詞を使えば<切れる>、<切って離れる>、受身を使えば<切られて離される>か?これをさらに進めると、ある相手に対して<裏を返し>、<裏を見せて>後、それまで仲間だった相手から縁(えん)を <(切って)離れる>と考えたらどうか? 下線部はふつう表にあらわれないが、<裏切り>と言う場合はそれまでの仲間から切ったように離れるのがふつうだ。
<見切り>の<切り>も<裏切り>の<切り>に近い。<見切る>は<見ながら(思い切って)、あることをあきらめる、続けるのをやめる>ことで、<あきらめる>、<やめる>が<切る>に相当する。なお、<見切り>は<見切る>の連用形の体言(名詞)用法。
ところで、<裏をかく>という表現がある。 これは<相手が予想しないようなことをする、またはくわだてる>の意だ。<裏をかく>の<かく>はどういう意味か? この<かく>は<くわだてる>に近い<描(か)く>、<描(えが)く>だろう。
追加
最近文法の<譲歩>を調べているが、非常におもしろい。<譲歩>は、表現された言葉の意味や使い方をあれこれ調べる文法では対処できない。<譲歩>では表現されていない予想、推測、<はず>が活躍する<修辞法>のひとつで、おそらく多くは無意識に使われ、もっともよく使われる修辞法だろう。ここで<裏切り>の語源のヒントを得た。
上で
ある相手に対して<裏を返し>、<裏を見せて>後、それまで仲間だった相手から縁(えん)を <(切って)離れる>と考えたらどうか? 下線部はふつう表にあらわれないが、<裏切り>と言う場合はそれまでの仲間から切ったように離れるのがふつうだ。
と書いたが、こんな遠回りをせず
ある相手に対して<裏を返し>、<裏を見せて>切る(殺す、傷つける)。
でいいのだ。
なにが<譲歩>と関係があるかというと、
カメはウサギよりはるかにのろい。にもかかわらず(譲歩句)かけっこ(長距離走だろう)でウサギに勝った。
のろいカメがウサギに勝った(勝つ)のは一種の裏切りだ。
譲歩句の<にもかかわらず>は汎用性があり、<のろい>、<速い>の対比による予想だけではない。
白ウサギと黒ウサギは同じ速さで走る。 にもかかわらずかけっこ(短距離走が適当)では幾度やってもいつも 白ウサギが勝った。
予想は< 白ウサギと黒ウサギの同時ゴール>だが、結果は予想を<裏切って>いる。<譲歩>は<裏切り>といえる。
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