<濡れ衣を着せられる>は比喩表現で、<無実の罪をかぶせられる>の意だ。この場合<かぶせられる>も比喩的な表現。<罪をなすりつけらられる>でもいいが、<なすりつけらられる>も比喩的な表現だ。<罪をなすりつけらられる>はわざわざ<無実の>をつけなくよさそう。
ところで、近いようで遠い国、隣の中国では<冤>という語があり、この一語で<無実の罪をかぶせられる(こと)>の意味がある。<冤罪(えんざい)>の<冤>だ。<無実の罪、罰>、<罪のなすりつけ>。ここはこれでいいが、中国語の<冤>はけっこう複雑で
冤 (yuān)
1.屈枉,无故受到指责(任)或处分:冤枉。冤屈。冤案。冤狱。冤愤。伸冤。鸣冤叫屈。
2.仇恨:冤头。冤家。冤孽。
3.欺骗:不许冤人。
http://xh.5156edu.com/html3/2676.html
という中国語の解説があり(http://xh.5156edu.com/html3/2676.html)、また英語で
冤 - English として
bad luck(不運)、enmity(敵意)、wrong (間違い)、grievance (恨み), injustice (不正)があげられているが上記中国語の冤の解説とは意味が少しずれている。 日本語の方も<無実の罪、罰>のようになって一語では表せないようだ。はじめに書いたが、やまとことばでは<濡れ衣を着せられる>という言い方があり、長い表現だがこれが<冤>にあたるだろう。だが<濡れ衣>は比喩だ。
上記の中国語解説をもう少し詳しく検討してみる。
1.屈枉,无故受到指责(任)或处分:冤枉。冤屈。冤案。冤狱。冤愤。伸冤。鸣冤叫屈。
<屈枉>の中国語解説はよくわからない。ここでとりあげると、長くなりそうなのでやめる、<屈>も<枉>も<曲げる>ことだ。英語解説は<to treat unjustly; wrong>となっている。
指责(指責)は<責任を指摘する>が元の意味のようだが広く<罪、失敗、間違いを指摘する>の意味で、基本的に<いい意味>ではないようだ。したがって<いい意味での><不正を指摘する>はそぐわないようだ。<指責>自体いろいろな意味がまつわりついており、中国では<根が深い>言葉のようだ。下記は<关于指责的成语及解释如下>というタイトルのサイトのコピー。原文は漢字(簡体字)の羅列。日本語部分は sptt の解説。解説はできるだけ<やまとことば>を探して使うようにした。
关于指责的成语及解释如下:
【百般责难】:配电盘:指采取各种办法;责难:指责非难。指用各种办法指责非难人。
責難は<指責非難>の意だろう。指责非难人:人を指責、非難する。したがって、指責はほぼ非難に等しいようだ。日本語では<不正を非難する>はいいが<罪を非難する>は少しおかしい。<失敗、間違いを非難する>はよさそう。<非難する>は<難癖をつける>という相応する言葉があり、<難>を除けばやまとことばだ。一方<難癖>だけではあまり使わない。<難癖をつける>、自体おもしろい表現だが、ここでは深入りをせず、別途検討の予定。非難は100%=難癖ではなさそう。<いいがかりをつける>という100%やまとことばの言い方があるが、これH喧嘩(けんか)の前口上のようだが、<いいがかり>だけを考えると<冤>、そして<濡れ衣>の意に近くなる。
【不置褒贬】:置:安放,这里有“加以”之间。褒:褒奖,夸赞,表扬。贬:贬低,指责。不加以表扬或批评。
後半二字は毀誉褒貶(きよほうへん)の<褒貶>。したがって<褒貶を置かず>で、<褒貶>を表さない、良い悪い(良し悪し)の批評をしない、の意だ。
【草茅危言】:草茅:指民间;危言:直言。指民间敢于指责朝政的正直言论。
説明はいらなそうだが、中国ではいつの時代でも政府批判は<(危険をおかしても)あえてするもの>ということか。
【成事不足,坏事有余】:成:成就;足:足够。指事情不但办不好,反而把事情弄坏。用于指责办事拙劣或故意不让事情办成的人。
不但 xx, 反而yy は英語の<not only xx, but also yy>の中国語版。したがって、<状況への対応がよくないいだけでなく状況をさらに悪くもしている>といった意味。後半部は<やり方がまずいだけでなく人の足を引っ張る>の意。【败事有余,成事不足】:指非但办不好事情,反而常常把事情搞坏。というのもある。
【戳脊梁骨】:在背后指责议论。
戳(chuō): 基本释义有以下几种:1、用硬物尖端触击,刺:~穿。2、因猛触硬物而受伤或损坏:~伤。~了手。
脊梁骨は背骨(せぼね)、脊椎(脊椎)のこと、で字面は<背骨を突き刺す>だが<背后指責議論>は<面と向かって、または表だってではなく、背後で、またはかくれてれて人を批判、非難する>の意。
【雌黄黑白】:雌黄:随便乱说;黑白:黑色和白色。指评头论足,胡乱指责。
雌黄は<口中雌黃 (kǒu zhōng cí huáng)>の四字成語の説明の中に
雌黃:即雞冠石,過去寫字用黃紙,寫錯了就用雌黃塗沫後重寫。隨口更改說得不恰當的話。比喻言論前後矛盾,沒有一定見解。
と言う解説がある。
<評頭論足(píng tóu lùn zú )>の四字成語も日本人には説明が必要だ。
【釋義】:原指輕浮地議論婦女的容貌。現也比喻任意挑剔(tiāo tī :過分嚴格地在細節上指摘)。
【出處】:清·黃小配《大馬扁》第四回:“那全副精神又注在各妓,那個好顏色,那個好太度,評頭品足,少不免要亂哦幾句詩出來了。”
以上から<雌黄黑白>は<筋が通らずに、矛盾だらけに、めちゃくちゃに批判、非難する>の意。
【东怨西怒】:指任意指责别人。
文字通りでは<東に向かって怨(うら)み、西に向かって怒(おこ)る>の意だが、<的外れに関係のない人を批判、非難する>の意。これは<批判、非難される>ひとからみれば、<冤>、<濡れ衣>だ。<東X西Y>という四字成語は他にもけっこうあるだろう。<東奔西走>は日本語になっている。
【多露之嫌】:露:露水;嫌:厌恶。想早晚行走,又怕露水沾湿衣裳。后用以指男女私会。也比喻行为不检点,受人指责。
厌恶: 厭惡(けんお)
<想早晚行走,又怕露水沾湿衣裳。>は<服が露(つゆ)に濡れないよう、夜は早めに出かけたい>という意味だろうが、ここで<濡れ衣(ぎぬ)>が出てくる。後半の説明からするとこれが<濡れ衣>の語源のようだが、<服が露に濡れないよう、夜は早めに出かけたい>と<無実の罪をかぶせられる>は結びつかない。後半の説明を調べてみる。
<男女私会>は<デート>のことだろうが、日本語では<濡れ場>とういう言い方があり、夜に<おりる>露と関連がなくもない。これが<濡れ場>の語源かもしれない。だがこれも<無実の罪をかぶせられる>とは関係ない。
<比喻行为不检点,受人指责。>は<点検しないで、人の指责(非難)を受ける>の意なのでこれが<無実の罪をかぶせられる>と結びつく。しかし<多露之嫌>から<点検しないで、人の指责(非難)を受ける>への意味の変化は大きな飛躍だ。
<多露>だけでも比喩的な意味がある。
多露 : 1.谓露水多。 2.比喻受霜露之苦。 3.比喻遭人议论猜疑。
<受霜露之苦>は文字通りの意。だが<霜露>をいやなものとして考え、頼みもしないのに、知らずうちに<おりて来て>身や服を濡らす、と考えると<遭人议论(議論猜疑(ひとの議論や猜疑に遭遇する)>と結びつく。
日本語では<夜露に濡れる>、<雨露にぬれる>という言い方はあるが、<少しいやだ、少し迷惑だ>ぐらいの意味で、ここでとどまっているようだ。こう考えるのは私だけか?
さて<多露之嫌>から<無実の罪をかぶせられる>の意の<濡れ衣>への発展であるが、もう少し説明が必要だろう。
上で ” <霜露>をいやなものとして考え、頼みもしないのに、知らずうちに<おりて来て>身や服を濡らす、と考えると ” と書いたが、<頼みもしないのに、知らずうちに<おりて来て>服を濡らす>は迷惑、被害意識が強いと、自分はなにも悪いことはしていないのに、いやな、いまいましい(忌々しい)霜露をふらした<天>を怨(うら)む、に発展する。
以上が大体<濡れ衣>の語源と考えられるが、多分に中国由来だ。繰り返しになるが、言い換えると、
霜露が、自分はなにも悪いことはしていないのに、また頼みもしないのに、夜の間に、知らずうちにおりて来て服を濡らして困らせる(難儀する)ように、自分はなにも悪いことはしていないのに<悪いことをした>と人に言われて迷惑だ、困っている、難儀している。
ということになる。
思いがけないところで<濡れ衣>の語源らしきものがみつかった。ところで、このポストは<濡れ衣>の語源探しではなく、<濡れ衣>に関連した中国語の<冤>のやまとことばによる説明を試みているのだ。そこで<冤>に関連した指責(批判、非難)を調べているのだ、<关于指责的成语及解释如下>に出てくる四字成語をさらに調べていく。<濡れ衣>の語源探しでこのポストを読まれている方は、ここで終わりでいいだろう。
关于指责的成语及解释如下: (継続)
【反唇相讥】:反唇:回嘴、顶嘴。受到指责不服气,反过来讥讽对方。
【反唇相稽】:反唇:回嘴、顶嘴;稽:计较。受到指责不服气,反过来责问对方。
【分损谤议】:分:分担;损:损坏;谤:诽谤。同受别人的非难指责,分担责任。
【讽一劝百】:讽:用委婉含蓄的言语批评、指责;劝:劝告,劝戒。委婉含蓄地批评、指责一个,使大家都受到教育。
【负诟忍尤】:忍受指责和怨恨。
【攻过箴阙】:指责过错,针砭缺失。
【狗屁不通】:指责别人说话或文章极不通顺。
【集矢之的】:集矢,指箭射中目标。比喻众人所指责的对象。
【谏尸谤屠】:向尸体劝谏,向屠伯指责杀牲的过失。比喻劝谏无济于事。
【没有说的】:指没有可以指责的缺点。或指不成问题,没有申说的必要。
【面折人过】:面折:当面指责,批评;过:过错。当面指责别人的过失,不宽容,不留余地。
【墨迹未干】:写字的墨迹还没有干。比喻协定或盟约刚刚签订不久(多用于指责对方违背诺言)。
【墨汁未干】:写字的墨汁还没有干。比喻协定或盟约刚刚签订不久(多用于指责对方违背诺言)。
【木秀于林,风必摧之】:秀:出众,突出;摧:摧残。高出森林的大树总是要被大风先吹倒。比喻才能或品行出众的人,容易受到嫉妒、指责。
【千夫所指】:为众人所指责。形容触犯众怒。
【千夫所指,无病而死】:指:指责。被众人所指责将没什么好下场。
【千夫所指,无病自死】:千夫:很多人;指:指责。为众人所指责和反对的,必然趋向灭亡。
【千夫所指,无疾而死】:指:指责。被众人所指责将没什么好下场。
【千夫所指,无疾将死】:指:指责。被众人所指责将没什么好下场。
【千人所指】:千人:众人,许多人;指:指责。为众人所拇。
【群起攻击】:很多人一起反对、指责。
【人言藉藉】:籍籍:纷乱的样子。人们指责、攻击的话哪里都流传着。多用在说有关人家名誉的事。
【十手争指】:指人如有不善,众人则争相指责。
【廷争面折】:廷争:在朝廷上争论;面折:当面指责别人的过失。指直言敢谏。
【无可非难】:无可指责。
【无可非议】:非议:责备,批评。没有什么可以指责的。表示做得妥当。
【无可指摘】:指摘:责备,批评。没有什么可以指责的。表示做得妥当。
【无瑕可击】:瑕:比喻事物的缺点。完美无缺,无可指责。
【以为口实】:作为谈资。也指作为指责、攻击他人的把柄。
【溢美溢恶】:溢:水满外流,引伸为过度。过分夸奖,过分指责。
【引为口实】:作为谈资。也指作为指责、攻击他人的把柄。
【予人口实】:予:给予;口实:话柄。给人留下指责的话柄。
【责有所归】:指责任有所归属。
【责重山岳】:指责任之重如山岳。形容责任重大。
【止谤莫若自修】:止:停止,平息;谤:指责。要阻止别人毁谤,最好的方法是修身。
【指佞触邪】:佞:花言巧语的小人;邪:邪恶。指责申斥奸佞之人,抵制邪恶势力,
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