前回のポスト<蓼食う虫も好き好き>に関連して植物(学)用語の花序のやまとことばについて調べてみた。
花序は<かじょ>と読み、耳で聞いただけでは何のことだかわからない。関連語と思われるやまとととばの<はなぶさ>をネットで調べてみると
”
大辞林 第三版の解説
はなぶさ【花房・英】
① 花が房状に群がり咲いているもの。また、その花。
② 花の萼がく。
〔和名抄〕
精選版
日本国語大辞典の解説
はな‐ぶさ【花房・英】
〘名〙
② ふさのようになって咲く花。また、単に花。《季・春》
※枕(10C終)八八「色あひふかく、花ぶさ長く咲きたる藤の花の」
③ 植物「すずしろそう(蘿蔔草)」の異名。
”
となっている。昔は萼(がく)のことであったこともあるようようだが(注)、今日では<はなぶさ>は
① 花が房状に群がり咲いているもの。また、その花。
(<房状>は<ふさ状>と読みまたその意味だろう。)
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② ふさのようになって咲く花。また、単に花。《季・春》
※枕(10C終)八八「色あひふかく、花ぶさ長く咲きたる藤の花の」
の意が普通だろう。つまりは<はなのふさ>というよりは<ふさ(のように)なっている花>ということだろう。<ふさ>は漢字では<房>に字があてられているが、少し調べた限りでは<房>は<部屋>の意味で<ふさ>の意味がない。一方<総>は多義語だが<ふさ>の意味があるようだ。さてこの<はなぶさ>だが、植物(学)用語では広い意味で花序になる。逆に<はなぶさ>は花序のやまとことば候補だ。一方<花序>をこれまたネットで調べて見ると、多くは図が出てくる、簡単なのもあればやや詳しいのもある。やや詳しいのをコピー(ペイスト)すると、
花序 総状、穂状、散房、(散形)複散形、単2出集散、複2出集散、円錐、肉穂、
頭状、かま形、扇形、巻散、互散
”
以上は総状花序、穂状花序、散房花序、散形花序、 集散花序、. . . .
となる。いずれにしても漢字の羅列で、<かま形(がた)>を除くと、耳で聞いただけでは何のことだかわからない。扇形も<おうぎがた花序>ならいいが<せんけいかじょ>だと何のことだかわからない。
もう一つ
”
https://yumesaibito.at.webry.info/200703/article_84.html
植物 樹木 ■花のつき方:花序
複数の花が集まってまとまりのある形をつくっているとき、その配列様式を花序という。
”
花のつき方:花序
複数の花が集まってまとまりのある形をつくっているとき、その配列様式を花序という。
という簡潔な解説があり、<花序:花のつき方>、つまりは花序のやまとことばは<花のつき方>なのだ。だがこの<花のつき方>の図もやはり漢字の羅列だ。つまり総状花序、集散花序、穂状花序、散房花序、散形花序、. . . . だ。総を<ふさ>、穂を(穂状は<すいじょう>と読むようだが<水上>がまず頭に浮かんでだろう)を<すい>ではなく<ほ>とよめば何とかなりそうだが、集散花序、散房花序、散形花序は<しゅうさんかじょ>、<さんぼうかじょ>、<さんけいかじょ>は耳で聞いてはもちろん読んでも何のことだかわからない。集散は<集まって散る>だが上記の集散花序の図に見られる配列はどう見れば<集まって散る>になるのか。何のことだかわからない名前の原因は<漢字制限>にあるようだ。上記の花序の名前は中国由来のようで、中国の花序名を調べて見ると
http://tc.wangchao.net.cn/baike/detail_61788.html
図はなぜか簡体字になっているが、解説は繁体字だ。ふつうは二次元図だが、この
図は三次元のイラストで立体的だ。傘房花序や傘形花序や頭狀花序は三次元イラストのほうが誤解をまねかない。
。
簡單花序
1、總狀花序(raceme)
花軸單一,較長,自下而上依次著生有柄的花朵,各花的花柄大致長短相等,開花順序由下而上,如紫藤、荠菜、油菜的花序。
2、穗狀花序(spike)
花軸特別肥大,凹陷呈囊狀,僅在上端有1小孔與外界相通,很多無柄小花著生在凹陷的腔壁上,小花單性,雄花分布在內壁的上部,雌花分布在內壁的下部,從外面看,所有的花幾乎隱沒不見,故得名,如無花果的花序。如禾本科、莎草科、苋科和蓼種中許多植物都具有穗狀花序。
3、柔荑花序(catkin)
花軸較軟,其上著生多數無柄或具短柄的單性花(雄花或雌花),花無花被或有花被,花序柔韌,下垂或直立,開花後常整個花序一起脫落。如楊、柳的花序;栎、榛等的雄花序。
4、傘房花序(corymb)
或稱平頂總狀花序,是變形的總狀花序,不同于總狀花序之處在于花序上各花花柄的長短不一,下部花花柄最長,愈近花軸上部的花花柄愈短,結果使得整個花序上的花幾乎排列在一個平面上。花有梗,排列在花序軸的近頂部,下邊的花梗較長,向上漸短,花位于一近似平面上,如麻葉繡球、山楂等。如幾個傘房花序排列在花序總軸的近頂部者稱複傘房花序,如繡線菊。一種變形的總狀花序。開花順序由外向裏。如梨、蘋果、櫻花等的花序。
5、頭狀花序(capitulum)
花軸極度縮短而膨大,扁形,鋪展,各苞片葉常集成總苞,花無梗,多數花集生于一花托上,形成狀如頭的花序。如菊、蒲公英、向日葵等。
6、隱頭花序(hypanthodium)
花序軸特別膨大而內陷成中空頭狀,許多無柄小花隱生于凹陷空腔的腔壁上,幾乎全部隱沒不見,整個花序僅留頂端一小孔與外方相通,爲昆蟲進出腔內傳布花粉的通道。小花多單性,雄花分布內壁上部,雌花分布在下部,如無花果、薜荔等。
7、傘形花序(umbel)
花軸縮短,大多數花著生在花軸的頂端。每朵花有近于等長的花柄,從一個花序梗頂部伸出多個花梗近等長的花,整個花序形如傘,稱傘形花序。每一小花梗稱爲傘梗。如報春、點地梅、人參、五加、常春藤等。
8、肉穗花序(spadix)
基本結構和穗狀花序相同,所不同的是花軸粗短,肥厚而肉質化,上生多數單性無柄的小花,如玉米、香蒲的雌花序、有的肉穗花序外面還包有一片大型苞葉,稱佛焰苞(spathe),因而這類花序又稱佛焰花序,如半夏、天南星、芋等。
以上所列各種花序的花軸都不分枝,所以是簡單花序。另有一些無限花序的花軸具分枝,每一分枝上又呈現上述的一種花序,這類花序稱複合花序。常見的有一下幾種:
複合花序
1、圓椎花序(panicle)
又稱複總狀花序。長花軸上分生許多小枝,每個分枝又自成一總狀花序,如南天竺、稻、燕麥、絲蘭等。
2、複傘形花序(compound umbel)
花軸頂端叢生若幹長短相等的分枝,各分枝又成爲一個傘形花序,一分枝又自成一傘房花序,如胡蘿蔔、前胡、小茴香等。
3、複傘房花序(compound corymb)
花序軸的分枝成傘房狀排列,每一分枝又自成一傘房花序,如花楸屬。
4、複穗狀花序(compound spike)
花序軸有1或2次穗狀分枝,每一分枝自成一穗狀花序,也即小穗,如小麥、馬唐等。
5、複頭狀花序(compound capitulum)
單頭狀花序上具分枝,各分枝又自成一頭狀花序,如合頭菊。
(もっと詳しく知りたければ https://slidesplayer.com/slide/11304517/)
集散花序、散房花序、散形花序は元来(多分)中国では
集散花序 -> 衆傘花序、衆撒花序 (撒=傘) (これは上に中国語版にはない)
(集散花序[cyme]。もっと詳しく知りたければ https://ww1.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/keitai/kajo_junjo.html)
散房花序 -> 傘房花序
散形花序 -> 傘形花序
集は衆でともに<集まり>の意があるが、散に傘の意味はない。傘の意味があるのは<撒>でこれが繁体字では出てくる。
總狀花序(raceme) - racemus
穗狀花序(spike) - spike
傘房花序(corymb) - corymbus
傘形花序(umbel) - umbel (umbrella の関連語)
圓椎花序(panicle) - panicle
中国名は英語(西洋語)の影響をうけていると考えられる。ちなみに
racemus (ラテン語) racēmus m (genitive racēmi); second declension cluster or bunch of grapes, berries or similar fruits quotations
spike - とげ
corymbus (ラテン語)corymbus m (genitive corymbī); second declension
cluster of fruit or flowers
umbel - umbrella
panicle (英語)- Borrowed from Latin pānicula, diminutive of pānus (“ear of millet, literally 'thread wound on a bobbin'”), from Ancient Greek πῆνος (pênos, “web”), πηνίον (pēníon, “bobbin”).
panicle (plural panicles) (botany) A compound raceme.
Hyponyms tassel (ふさ(飾り))
しつこいようだがまだ続く。<はなぶさ>は響きのいいやまとことばだが、花序のやまとことばとしては<はなぶさ>よりも<花の付き方>の方がいい。
花の付き方; 複数の花が集まってまとまりのある形をつくっているとき、その配列様式(並び方の姿)を花序という。
でいいと思うが<序>は<序列(配列)>以外に<順序>の<序>の意がある。英語では<花の付き方>に相当する学術用語inflorescence というのがある。florescence だと<花の(集まりの)配列)>だがあたまに in がついたinflorescence と時間的に見た花の咲き方、咲く順序だろうから漢語だが<花序>がふさわしい。一方やまとことばの<花の付き方>は配列(の様式)のみならず時間の差による花の付き方を含む<花の付き方>とも言えるので一般的だ。
集散花序[cyme] は上に述べたように上に中国語版にはない。下記の英語版の資料のよれば、
集散花序[cyme] は傘房花序(corymb)ににているが、花の付き方の時間的順序が違うようだ。
https://www2.palomar.edu/users/warmstrong/terminf1.htm
具体的な<花の付き方>のやまとことば候補
總狀花序(raceme) - racemus 子総(こふさ)形
穗狀花序(spike) - spike 稲穂(いなほ)形 上の中国語の解説に ”禾本科、莎草科、苋科和蓼種中許多植物都具有穗狀花序” というのがある。<禾本科>は<イネ科>。
傘房花序(corymb) - corymbus これは難しい。傘房が何だかわかないのだ。図は二次元だが実際は三次元で、<じょうご>のような形だ。また頭(上部)が平らに近い<子総(こふさ)形>だ。<じょうご>は純やまとことばではなさそうだが<じょうご形>としておく。
傘形花序(umbel) - umbel (umbrella の関連語) - 傘(かさ)形
圓椎花序(panicle) - panicle -大総(おおふさ)形
集散花序[cyme] <じょうご形>だが、傘房花序(corymb)との区別が必要だ。
(注)
萼(がく)は北京語では<è>(曖昧母音の<エ>)だが広東語では<ngok>でこれは<ゴク>に近い、さらには<ガク>に近い。したがって、ほぼ間違いなく、萼(がく)は漢語由来でやまとことばではない。<萼(がく)は>の意の<はなぶさ>は漢語の<がく(萼)に>に取って代わられ、意味が<はなぶさ>に移っていったのだろう。
似かよった字の<鰐(わに)>も
と発音する。
この<はなぶさ>の意味の移転はおもしろい。萼(がく)の意味での<はなぶさ>の<ふさ>は<ふさぐ>に関連があるのではないか?昔(いにしえ)の人々の自然の観察力は、テレビやスマホに目も頭も奪われていてはこの自然の観察力は育たない。萼(がく)は大体葉お同じ緑色で花のもと(下、元、基)で花を<ふさぐ>ように支えている。<花ざさえ>ともいえる。
sptt
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