<ゆとり>については、少し前のポスト
<ゆとり>について
でごく簡単に触れた。
”
<ゆとり>はやまとことばらしい言葉だ。
”
物事に余裕があり窮屈でないこと。余裕。「経済的にゆとりがない」「心にゆとりを持つ」
”
<時間にゆとりがある、ない>もよく使う。「心にゆとりを持つ」とはどういうことか?<ゆとり>のコンセプトは何か?
”
物事に余裕があり窮屈でないこと。余裕。
はコンセプトとしては簡単すぎる。<ゆとり>=余裕では言葉の遊びだ。
<ゆとり>の反義語として<あせり>、<せわしい、せわしない>がある。ここでは<あせり>をとりあげる。<ゆとり>と<あせり>のコンセプトとを得るため<余り>と<残り>のコンセプトとを考えてみる。少しよく調べてみたが、<余り>と<残り>の違いはたいそう複雑だ。用例は数が多い方が分析結果が正確になる傾向があるので、できるだけ用例を探してみた。
前段として
まだはもうなり、もうはまだなり。
をとりあげる。これは主に株式投資家への警句。これは別のところで取り上げたことがある。
株価は<まだ上がる、下がる>と言う、思うが、どっこい。もう上げ終わり、下げ終わりだ。
株価は<もう上がらない、下がらない>と言う、思うが、どっこい、まだ上がる、下がる。
という意味だ。
<まだ上がる、下がる>は言い換えると<まだ上がる、下がる余地がある>。
<もう上がらない、下がらない>は言い換えると<もう上がる、下がる余地がない>。
という意味だ。ここでは<余地> を使っているが、
まだ上がる、下がる<ゆとり>がある
もう上がる、下がる<ゆとり>がない
とは言えるが
まだ上がる、下がる<余り>がある
もう上がる、下がる<余り>がない
とは言いそうにない。 必ずしも<ゆとり>=<余り>ではないようだ。
<余り>に似て非なる語に<残り>がある。
まだ上がる、下がる<残り>がある
もう上がる、下がる<残り>がない
とも言いそうにない。 だが
まだ上がる、下がる<余地>が残っている
もう上がる、下がる<余地>が残っていない
と言える。<残っている、remains>は<ある、exists>、<残っていない、does not remain>は< (あら) ない、does not exist>で、主要語は<余地>の方だ。
<余り>と<残り>の違い
<余り>は英語では excess、<残り>は remaining と言える。
<余り>、 excess は必要以上のモノ、必要以上のモノがある状態。そして背後には<達成している>、<十分以上にある>、<十二分にある>の意識がある。これらは重要なコンセプトだ。
more than needed, necessary 必要以上
more than enough 十分以上
次のような言い方もある。
more than expected 期待以上more than wanted 欲しい以上
more than required 要求以上
<残り>、remaining はやっかいで
場合によっては
<余り>、 excess と同じくは必要以上のモノ、必要以上のモノがある状態。
<売れ残り>は、必要以上のモノ、必要以上のモノがある状態。
と言えるが、<売り切ること>を<必要なこと>とすれば、<必要以下>で終わる、言い換えると<未達>、あるいは<不十分>を表している。背後に<未達>、あるいは<不十分>の意識がある。これも重要なコンセプトだ。<未達>の<未>中国語では重要で、<いまだxxせず>。未完、未熟。<背後に<未達>、あるいは<不十分>の意識がある>と書いたが、<達成>、<完了>, の意識があるとも言える。
<ゆとり>は <余り>、 excess 、すなわち
は必要以上のモノ、必要以上のモノがある状態、<十分以上にある>状態から生まれる。だが
more than needed, necessary 必要以上
more than enough 十分以上
more than expected 期待以上
more than wanted 欲しい以上
more than required 要求以上
がすぐには<余り>にならない。 ここはややこしいところだ。
必要以上のモノ、必要以上のモノがある状態、<十分以上にある>状態以外に何かがありそう。
<余り>は基本的には
1)<好ましいもの>が対象になる。代表は<お金>。
金に余りがある。金が余っている。金は余るほどある。余るほど金がある。
時間は<好ましいもの>の場合もあるが、基本的にはは中立だ。
時間に余りがある。時間が余っている。時間は余るほどある。余るほど時間がある。
という。必要以上の時間に<ヒマ>がある。
ヒマは余るほどある。
はいいが
ヒマに余りがある。ヒマが余っている。余るほどヒマがある。
はおかしい。 <ヒマ>は<持て余している時間>とも言え、<余る>が重複することになる。
<仕事>も基本的にはは中立だ。
仕事が余っている。
これは、人が足りない、人が十分にいない、ためにこうなるようだが、 普通は
仕事が余っている。
とは言わない。
仕事は十分ある。
<仕事が残っている>は別で仕事の内容が違う。
すべき仕事が残っている。
<すべき仕事が余っている>はおかしい。
すべき仕事は十分ある。
も何かおかしいが、間違いではないだろう。
(仕事が余っている。) 仕事は十分ある。
と
仕事が残っている。
では<仕事内容に違いはないか?
仕事が残っている。
の仕事は<すべき仕事>で特定化されている。
仕事は十分ある。
の仕事は一般的に人がする仕事。特定化されていないため
一般的に人が足りない状況、人手不足の状況では
仕事は十分ある。さらには
仕事が余っている。仕事は余るほどある。
と言えそうだ。
一般的に人はもう足りている、人は十分いる(達成済み、十分)場合では
仕事は十分ある。仕事が余っている。仕事は余るほどある。
はおかしい。 中立と見える<仕事>でも状況によりけりだ。
さて、見方を変えて対象が<好ましいモノ>と<好ましくなモノ>に分けて考えてみる。
金 (カネ) - 好ましいモノ
時間、仕事 - 中立
機会、チャンスも中立だ。成功するチャンス、失敗するチャンス
成功する、失敗するチャンスが余っている - ダメ
成功する、失敗するチャンスが残っている - OK
好ましいモノ
幸福、しあわせ、成長、発展、進歩、成功
<幸福、しあわせ、成長、発展、進歩、成功>が余っている。
は基本的にダメだ。
<幸福、しあわせ、成長、発展、進歩、成功>が残っている。
<成長、発展、進歩、成功>が残っている。
はいいが
<幸福、しあわせ>>が残っている。
は何かおかしいが、全くダメだ、というわけではない。
好ましくなモノ
宿題、問題、不幸、失敗、没落、悩み
<宿題、問題、不幸、失敗、没落、悩み>が余っているはダメ。
<宿題、問題、不幸、失敗、没落、悩み>が残っているはOK。
対象が<好ましいモノ>と<好ましくなモノ>の違いによる<余り>と<残り>の使い分けはどうもはっきりしない。<余り>がやっかいだ。
<好ましいモノ>でなおかつ<使う、する予定のないモノ、コト>はどうか?
金 (カネ)、食べ物、文房具、家具、薬 (くすり) 、力、気力、元気
<金 (カネ)、食べ物、文房具、家具、薬 (くすり) 、力、気力、元気>が余っている。
すべてOKだ。
時間、仕事は中立だが<使う、する予定のない>場合は
<時間、仕事>が余っている。
でOKだ。
機会、チャンスも中立だがどうか? <使う、利用する予定のない>場合でも
<機会、チャンス>が余っている。
とは言わない。これは<機会、チャンス>が保存、ためておくことができないためだろう。もっとも時間もためておくことができないが、割り当てることはできる。 時間は特別だ。
以上から<余り>、<あまる>は
1)好ましいモノ、コト
2)使う、する予定のないモノ、コト
3) 保存、ためておくことができるモノ、コト
に限って使える、といえよう。
一方<残り>、<残る>はこのような制約はない。
<宿題、問題、不幸、失敗、没落、悩み>が残っている。 好ましくなモノ、コト
<金 (カネ)、食べ物、文房具、家具、薬 (くすり) 、力、気力、元気>が残っている。ー
使う、予定があっても、なくても<残っている>が使える。
<機会、チャンス>が残っている。
<あせり>
一方<あせり>は<残り>、remaining のうち
<未達>は<不十分>と感じる心理状態、未達感、不十分感から生まれる。言い換えると、達成しようとする、十分になろうとする、<残り>、remaining を埋めようとする心理状態から生まれる。
<ゆとり>も<あせり>も状況や程度による。
ウサギとカメの競争では、ウサギは必要以上に<ゆとり>を持ってしまった。
<急がば回れ>、<急 (せ) いてはことを仕損じる>も状況や程度による。急いで、特に<あせって>やると、ミスが多くなる傾向にはある。
<あせり>は動詞<あせる>の連用形の体言 (名詞) 用法。<あせる>は<せく、急く>、<せる、競る>由来だろう。何かに<追われている>感じで<ゆとり>がない。
次の話は上の<まだはもうなり、もうはまだなり>の関連するが、英語で
(The glass is) Half empty.
(The glass is) Half full.
という言い方がある。中立的には
(The glass) Half remains.
と言えるが、日本語では
半分残っている。
もう半分しか残っていない。(The glass is) already half empty.
まだ半分残っている。(The glass is) still half full.
これは<残り>のことを言っていて<余り>についてではないようだが、例えば
もう十二分にビールを飲んでいる場合には (達成済み、十分)
まだグラスに半分余っている、と言える。残っている、でもいい。
ビールがまだ飲み足りない場合には (未達、不十分)
もうグラスに半分しか余っていない。
はダメで
もうグラスに半分しか残っていない。
<もうグラスに半分しか余っていない>に似た表現に
仕事が余っている。
がある。これも<もうグラスに半分しか余っていない>と同じく、あまり聞かな言い方だ。普通は
人が余っている。
これは、仕事が足りない。 仕事が十分にない、ためだ。
仕事が余っている。
これは、反対に人が足りない、人が十分にいない、ためにこうなるようだが、
仕事が余っている。
とはいわない。 普通は
仕事は十分ある。
<仕事が余っている>がおかしいのは
もう人は足りている、人は十分いる(達成済み、十分)場合
人は余っている
<余計 (よけい) >は漢語だが、
余計なことはするな、言うな。
などとしてよく使う。
やまとことばでは
いらぬことはするな、言うな。
で済む。 <いらぬ>は<要 (い) らない>、<必要のない>の意で、上の
”
<余り>、 excess は必要以上のモノ、必要以上のモノがある状態。言い換えると<達成している>、<十分以上にある>、<十二分にある>を表している。これらは重要なコンセプトだ。
”
が使えそうだが
<余りな)ことはするな、言うな。
は聞いたことがない。だが
<達成している>、<十分以上にある>、<十二分にある>のだから、それ以上することはない、という意味にはなる。言い換えると<必要以上のこと>になり、<あまり>は<必要以上のこと>と言えるのだ。それではなぜ
<余りな)ことはするな、言うな。
と言えない、言わないのか?
ーーーー
<余り>と<残り>の慣用表現
<余り>
苦情を言っても余りあり (余りがある) 苦情は言い切れない、言い果たせない、山ほどある
あまりない そう多くはない、そう頻繁ではない、まれだ
あまりにひどい、あまりにもひどい excessively
<余す>
余すところなく、すっかり
<残り>
残りなく、すっかり
残り物に福あり 余り物に福あり、とは言わない
居残り <ー 居残る
<残す>
言い残す 未達
食べ残す 未達のことだが、量が多過ぎる場合は<食べ余す>と言えそうだ。
やり残す 未達
末尾
せく
学研全訳古語辞典
せ・く 【急く・逼く】
活用{か/き/く/く/け/け}
① いそぐ。あわてる。あせる。
出典禁野 狂言
「そなたがその様(やう)におしゃると心がせくによって」② いらだつ。嫉妬(しつと)する。
出典出世景清 浄瑠・近松
「はっとせきたる気色(けしき)にて」
[訳] はっといらだったようすで。