Friday, March 28, 2014

<だらしがない>の語源


<だらしがない>という言い方があるが、手もとの辞書によると<だらし>は<しだら>を並べ換えたもの、となっている。<ふしだら>と言う言葉があり、純やまとことばにいいかえると<しだらがない>となる。だがこの辞書に<しだら>の説明はなく、また<しだ ら>の見出し語もない。これでは親切な説明とは言えない。

<だらし>は<だらけ>と関連があろう。<だらけ>は<好ましくないモノ、コトにつく接尾辞>という説明がこの辞書にある。

<だらけ>

ごみだらけにする(なる)
借金だらけにする(なる)
血だらけににする(なる)
つぎはぎだらけにする(なる)
どろだらけにする(なる)
ほこりだらけにする(なる)
---
うそだらけの報告
キズだらけの青春
失敗だらけの人生
にきび(しわ)だらけの顔
まちがいだらけの答案
---
幸せだらけの青春
成功だらけの人生
正解だらけの答案

とは言わない。
 

<好ましくないモノ、コトにつく>接尾辞だから、<だらけ>自体に悪い(よくない、好ましくない)意味はないはずだがだが、連想が働いて<だらけ>が悪い意味があるように思えるのだ。また<だらける>という動詞や形容詞まがいの<だらけている>という表現もある。<堕落(だらく)>は<だらけ>と関係のない漢語だが、文字から離れて耳で聞く限りは何らかの連想が働きそうだ。

言語上に見られる<二重否定の単純否定>というややこしいのがあるが、これとの連想で<だらし(<だらけ>由来)>の<好ましくない、よくないモノ、コト>という否定的な感じにひかれて<だらしない>は二重否定になる。だがこの場合二重否定は肯定で、これまたややこしいが<だらし>(好ましくない、よくないモノ、コト、という否定的意味)があることにになる。これと似たのに<せわしい>、<せわしない>がある。

sptt

Wednesday, March 26, 2014

灣仔(湾仔)の軟音、硬音、メチャクチャな<たちつてと>


よく調べたわけではないので自信はないが、香港の広東語と本場広州の広東語の違いの一つに軟音と硬音の差があるようだ。香港と広州ラジオのアナウン サーの発音を聞く限り、香港のアナウンサーの場合は軟音と硬音が入り混じっている。これは個人差が大きい。すなわち軟音が圧倒的に多いアナウンサーと硬音 が圧倒的に多いアナウンサー(こちらのほうが多いようだ)。広州では硬音が圧倒的に多い。軟音と硬音の差は何か? 例をあげよう。

灣仔(湾仔)(香港にある地名)はどう発音されているか。

軟音では湾仔は Wanchai 発音される。カタカナでは<ワンチャイ>だ。

地下鉄の駅があり、英語表示は Wan Chai となっているので、香港政府は軟音派ということになる。

硬音では湾仔は Wancai (c は北京語ピンインの c)またはWanzai または Wantsai と表記される。カタカナでは<ワンツァイ>だ。

日本語の<あ、い、う、え、を ......>では <チャ、チュ、チョ>で<チャ>はあるが(小学生の時に発音させられるが)<ツァ>はない。

政府関係の人たちを含め、私の見るところ(聞くところ)香港人は軟音、硬音半々だ。若い日人たちは軟音が多いような気がする。

こう書いたが、香港政府は軟音派と言うのはおそらく間違いだろう。

香港に沙田と言う場所がある。駅があり、英語表示は Sha Tin だ。カタカナでは<シャーティン>だろう。しかしこれは湾仔(Wanchai)と違って、香港人であれば100% Satin (サーティン)と発音する。Shatin(シャーティン)ではないのだ。これはどういうことか?香港政府は硬音派か?

もう一つ例をあげよう。

香港に太古城と言う場所がある。日本人住民が比較的多い地区。ここにも地下鉄の駅があり、英語表示は Tai Koo Shing だ。<Koo>は<クー>と発音する。問題は最後の<Shing>の発音だ。これはカタカナでは<シン>ではなく<セン>となる。ただし<ン>は<ng>なので鼻音(鼻にかかった<ン>)になる。日本語では<n>と<ng>の書き分けがなくなっているので注意。さて<Shing>の<Shi>の方は沙田(Sha Tin)の<Sha>と同じく、香港人であれば100% <セン>と発音する。<shi>を軟音とするとこれに対応する硬音は<si>だ。この<si>のカタカナ表記は難しい、というかないのだ。<スィ>ではない。これは香港広東語の英語表示のルールで

kin - キン
king - ケン

sin - スィン(swin)ではなく、syntax の syn だ。
shing (sing はないようだ) - セン

tin - ティン
ting - テン

nin - ニン
ning - ネン

hin - ヒン
hing - ヘン

min - ミン
ming - メン

yin - イン
ying - イェン (イェはイエではなく短く発音する。yen の ye に近い)。これには例外がある。英国だ。英国の香港で英語つづりは見たことがないが、おそらく ying kok だろう。したがって<イェンコク>になるはずだが、ほぼ100%<インコク>と発音されている。ほかにも例外がありそう。

lin - リン (注)参照
ling - レン  Fanling (紛嶺)


win - ウィン
wing - これはウェン

(注)
1) -ng は鼻音。
2) 広東語では<l>と<r>の区別がない。だいたい<l>で英語やスペイン語の<r>の発音はない、また信じ難いが<l><n>の区別がない。

さて Tai Koo Shing の<Shing>にもどるが、<セン>の発音なら<Sing>でもよさそうなところを<Shing>としているのいはなぜか。こらはShatin が Satin (サーティン)と発音するされるのと関連がある。<h>は結局のところ硬音をあらわすのだ。したがって、香港政府は硬音派で、湾仔 Wanchai は香港政府指導によれば軟音<ワンチャイ>ではなく硬音の<ワンツァイ>と発音されるべきなのだ。おそらく、湾仔 Wanchai は漢字が読めない(発音できない)外国人が多く、したがってWanchai の字を見て発音される機会が多く、この場合英語の字面(じづら)から<ワンツァイ>ではなく<ワンチャイ>と発音されるのが多くなったという次第だろう。


<たちつてと>の秘密

ここから話がようやく<やまとことば>になる。

<たちつてと>をローマ字であらあしてみる。

Ta
Chi
Tsu
Te
To

英語のただしい発音を勉強させられた人なら、つぎの発音はそれほど難しくない。

Ta
Ti
Tu
Te
To

カタカナでもなんとか表示できる。

Ta (タ)
Ti (ティ)
Tu (トゥ)
Te (テ)
To (ト)

Ta、Ti、Tu、Te、To はすべて硬音で統一されている。<たちつてと>ではわかりにくいが、Chi(ち)とTsu(つ)は硬音ではなさそうなのだ。Chi(チ)グループ<たちつてと>は

Chya (チャ)
Chi (チ)
Chyu (チュ)
Chye (チェ)
Chyo (チョ)

で、<チャ、チュ、チョ>に<チェ>が加わっている。これまでの論議から軟音グループといえる。耳で感じる音は軟(soft)だ。一方Tsu(つ)グループの<たちつてと>は

Tsa (ツァ)
Tsi  (ツィ)
Tsu (ツ)
Tse (ツェ)
Tso (ツォ)

だ。 このTsu(つ)グループは軟音ではなく耳で感じる音は硬(hard)だ。 Wanchai の<ワンチャイ>ではなく<ワンツァイ>の方だ。

今回はとりあえず、これまで。

つづく予定。

ーーーーー

続き(2022年)

地下鉄の駅名表示は変化がある。

調景嶺は Tiu Keng Leng と表示されている。調景嶺の広東語の発音は<ティウ ケン レン>。本来ならば Tiu King Ling だが香港人以外だとこれを読んで発音すると大体は<ティウ キン リン>となり<ティウ ケン レン>とは発音しないだろう。中国本土の人は調景嶺を中国語で読み発音するので Tiu Keng Leng の表示はいらないだろう。したがって中国人以外の外人対象の表示ということになる。

この変化(配慮)は<調景嶺は Tiu Keng Leng>だけではなさそうだが、この表示方法がふえてくると従来表示も残るので混乱になる。

 

 
sptt

Thursday, March 20, 2014

話して聞かせてあげる、広東語<我話啤你聴>

かなり前のポスト<感覚動詞-<感じる>の語源>で次のように書いた。

 ”
<見せる> は<見る>の使役形で、相手に自分が<見える>ようにさせる(してもらう)ことで、英語の <Let me see (it).>だが、英語では to show という別な動詞があり、これをよく使う - <Please show it to me.>。

<(を)聞く>は英語では< to listen to>。<(が)聞こえる>は <to be heard>ともいえるが、普通は自己中心的な <to hear>、<I hear xxx>だ。



ところで、日本語に<聞かせてあげる> という表現がある。基本的には<言う>、<話す>と同じような意味だ。これを使うのは、お母さんが子供に、小学校の先生が生徒に、のような場合に限られているようだ。いわば少し年齢が上の幼児語だ。

<聞かせてやる(やろう)>という言い方もある。幼児語ではないが、これまた使う場面は限られているようだ。<聞かせてあげる>、<聞かせてやる(やろう)>は言い手と聞き手の間に<上から下に向かって言う>というような関係がある場合に限られ手ているようだ。

まれに念を入れて<話して聞かせてあげる>、<話してきかせてやる(やろう)>と言う場合もある。

現代中国語(普通語、北京語)で<言う>は大体<告诉(ピンインは gao su)>が相当し<告诉你> と<你>付きでよく使われる。

一方私の住む香港の広東語では<我話啤你聴 >が普通によく使われる。<啤(正しい字かどうかは?マーク)>は日本語の<あなたに、君に>の<に>に相当。いわば助詞だ。したがって意味は<あなたに話して聞かせてあげる>となる。主語の<我(わたし)>を加えると<わたしはあなたに話して聞かせてあげる>となるが、日本語ではまずこうはいわない。女性なら場合によって<わたし、あなたに話して聞かせてあげる(わ)>とは言いそうだ。いずれにしても日本語はかなり長い。ちなみに<我話啤你聴 >はどう発音するかと言うと<ngo-wa-pei-nei-ten>で、5音節ですむ。 <わたしはあなたに話して聞かせてあげる>はなんと19音節にもなる。また広東語にも普通語(北京語)のピンインみたいなものがあるが、<ngo-wa-pei-nei-ten>はそれではなく私が勝手に発音をまねて書いてみたもの。なお、ngo は<んお>の発音に近いが香港の若い人の発音は (ng)o で限りなく <o (お)>の発音に近い。本場の広州ではまだ ngo がのこっている。また広東語にも普通語(北京語)にもピッチ(音声高低)があるが、これも無視している。ピッチを無視して平板な<(ng)o-wa-pei-nei-ten>では通じないおそれがある。普通語(北京語)は4声だが広東語は最低6声といわれていて、相当耳がよく、また何度か失敗を重ねないとまねができない。我話啤你聴<(ng)o-wa-pei-nei-ten>はおそらく、wa は低く、ten はかなり高く発音されているようなので、これをまねする必要がある。

                                     ten
                   pei        
(ng)o                   nei
           wa


上記はあくまで私の推測。興味のある人は辞書をひくなり、広東語が母国語の人に聞いて確認してください。


sptt





Wednesday, March 12, 2014

ぬく、ぬける、ぬぐ、ぬげる、にげる、のける、のこる


<ぬく>(他動詞)、<ぬける>(自動詞)について考えてみる。さらには<ぬかす>という使役的な他動詞もある。

漢字では普通<抜 く>、<抜ける>と書くが、これは英語で言えば他動詞<抜く>は to pull (out) の意で、自動詞<抜ける>は to go off, to come off が相当。to be pulled out は受身形で自動詞あるいは自発ともいえる<抜ける>の意にならない。<ぬく>、<ぬける>は to pull 以外の意味がけっこうあり、また慣用的な言い方も多くかなりのやまとことばだ。

釘(くぎ)を抜く - 釘が抜ける (釘抜き)
白髪(しらが)を抜く (髪を抜く、はダメだろう、毛を抜くはいい、毛抜き)‐ 髪が抜ける
歯を抜く - 歯が抜ける (歯抜け)
あく(灰汁)を抜く (あく抜き)
あか抜けた - <あか抜けた>は<垢抜けた>だが<垢>も<灰汁>も同類だ。
ナイフを鞘(さや)から抜く。
太郎が一番先にA組から抜けた。
花子の成績はクラスの中でズバ抜けている。
美代子の美貌は会社の中で抜け出てている。
次郎の数学の才能は飛びぬけている。
えり抜きの美女たち
飛車角抜きで、カタイこと抜きで
手を抜く (手抜き工事)

以上は to pull, to be pulled out, to go off, to come off の意で<抜>の漢字を使ってもいい。

トンネルをぬけると雪国だった。 (<トンネルを>と<を>を使うので他動詞のようだだが<を>をとる移動の自動詞ともいえる)
この通りをぬけて行けば早く着く。 (<トンネルを>と同じ)
この文には主語がぬけている。
次郎はどこかぬけいる。
力がぬける。力をぬく。
腰をぬかす。 腰がぬける。(経験がないとどういうことだかわかりにくい)

以上は言葉に繊細なひとは<抜>の漢字をつかうのに勇気がいる。

トンネルをぬけると雪国だった。
トンネルを過ぎると雪国だった。  
トンネルを通ると雪国だった。

以上は同じような意味だが<トンネルをぬけると雪国だった>が一番いい。

複合動詞

優秀な太郎をA組から引き抜いた。
完成品の中から特に出来のいいのを抜き取る。

これは<抜>の漢字じを使ってもいいが、

壁(困難)を突きぬけてついに成功した。
この道を通りぬけて行けば早く着く。 
太郎は次郎を途中で追いぬいた。 太郎は次郎を途中でぬき去った。
生きぬく、やりぬく、考えぬく 

以上も<抜>の漢字を使うのに勇気がいる。

上記のうちいくつかは(とくに移動動詞)英語(ドイツ語)でいえば through (durch) 前置詞、副詞に相当する<ぬく>、<ぬける>がある。

トンネルをぬけると雪国だった。    - to go (pass) through
この道を通りぬけて行けば早く着く。   - to go (pass) through
壁(困難)を突きぬけてついに成功した。 - to break through
切りぬける - to go through

生きぬく、やりぬく、考えぬく  - これらは through からさらに out の意が加わっている。

生きぬく - to live out (ただしあまり聞いたことがない)
やりぬく - to carry out, to work out
考えぬく - to think out
切りぬける - to go through (<切りぬく>は別の意味なる)

<つらぬく>は漢字で書くと<貫く>になってしまうが through の<ぬく>だ。

<知りぬいた> <知りぬく>は to know through というよりは to know thoroughly。

またいくつかは英語でいえば to miss, missed / missing (形容詞)、without (前置詞)の意がある。

この文には主語がぬけている。
次郎はどこかぬけいる。
飛車角抜きで、カタイこと抜きで

without は前置詞だが、過程を見ての動詞として<なくす>、<なくなる>(to lose,  to be lost, to become (get) lost )の意もある。

力がぬける。
腰をぬかす。腰がぬける。

<ぬく>、<ぬける>の慣用的な言い方。

息ぬき
勝ちぬき
気がぬけない
尻ぬけ
出(だ)しぬく
筒(つつ)抜け 
抜き差しならぬ
ぬけ駆け
ぬけ目ない
ぬけぬけと
ババぬき(トランプゲーム)
まぬけ(<間抜け>は当て字だろう)
見ぬく ( これはいい大和言葉で、英語の insight に近い)
目ぬき通り
もぬけの殻(から)、ぬけ殻

またすでに取り上げたが

手を抜く (手抜き工事)
力がぬける。
腰をぬかす。腰がぬける。

もかなり慣用的な言い方だ。

ま た、<ぬぐ(脱ぐ)>、<ぬげる(脱げる)>は同じ仲間だ。英語で言えば to take off, to loose, to become (get) loose、さらに<ぬける>と同じく to go off, to come off が相当する。さらには<にげる>、<のがれる>、<のける>も関連ありそう。さらにまた、気がつきにくいが<のこす>、<のこる>も関連ありそう。

たとえば

打ちぬく
切りぬく (<切りぬける>は別の意味)
染めぬく

は<ぬく>という作業よりは<ぬい>た後(跡)のほうに目が向いている。

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<こぼす>、<こぼれる>は語源的には<ぬく>、<ぬける>と関係ないが、意味上は重なるところがある。もとの意味は<あふれ出さす>、<あふれ出す>、<あふれ出る>だが、

取りこぼす
落ちこぼれる

といった言い方がある。英語で言えば loose, to become (get) loose がさらに進んで to lose (負ける)の意だ。ただ単に<負ける>というよりは loose, to become (get) loose の意がからんでいる。

<ぬかす>という他動詞もあるが<す>から使役のように見えるが<ぬく>とかさなるところがある。<ぬかす>の使役形は<抜かさす>だ。<抜かさす>の受身形は<抜かされる>。この辺はかなり入りくんでいる。

A君を抜かして話を進めよう。-A君を抜いて話を進めよう。
B君はC君に抜かされた。 -  B君はC君に抜かれた。

B君はC君に(わざと)抜かさせた。
A君はB君に(わざと)C君に抜かされるようにと頼んだ。
A君はB君に(わざと)C君に抜かすようにと頼んだ、でも、よさそうだが、A君はB君に(わざと)C君抜かすようにと頼んだ、でもよさそうだが微妙に意味が違うが、まずこうは言わないだろう。


ぬく、ぬける、ぬかす、ぬぐ、ぬげる、ぬがす、にげる、にがす、(さらには、のがれる, のく、のける、のかす)、そして、こぼす、こぼれる、には何か共通した意味がありそうだ。大まかにいえば(大和言葉の探索ではこれが肝心)、<何かから離す、離れる>の意がある。 through の意味合いにしても<なにかを通りぬける>とは時間はかかるが<何かから離れる>ことだ。

これに関しては、興味と時間のあるひとは別のところで書いた<Tsuku (つく) and Hanereru (はなれる)>を参照。

http://spttejd.blogspot.hk/2012/11/blog-post.html


繰り返しになるが

トンネルをぬけると雪国だった。
トンネルを過ぎると雪国だった。  
トンネルを通ると雪国だった。

の<ぬける>、<過ぎる>、<通る>は文学的には微妙に違うが共通した意味がある。

過ぎる= to pass の意のほかに、動詞ではないが over の意味の意味がある。
通る = 動詞ではないが through  の意味の意味がある。

<ぬける>が一番やっかいだが一番味がある。


sptt