Wednesday, March 12, 2014

ぬく、ぬける、ぬぐ、ぬげる、にげる、のける、のこる


<ぬく>(他動詞)、<ぬける>(自動詞)について考えてみる。さらには<ぬかす>という使役的な他動詞もある。

漢字では普通<抜 く>、<抜ける>と書くが、これは英語で言えば他動詞<抜く>は to pull (out) の意で、自動詞<抜ける>は to go off, to come off が相当。to be pulled out は受身形で自動詞あるいは自発ともいえる<抜ける>の意にならない。<ぬく>、<ぬける>は to pull 以外の意味がけっこうあり、また慣用的な言い方も多くかなりのやまとことばだ。

釘(くぎ)を抜く - 釘が抜ける (釘抜き)
白髪(しらが)を抜く (髪を抜く、はダメだろう、毛を抜くはいい、毛抜き)‐ 髪が抜ける
歯を抜く - 歯が抜ける (歯抜け)
あく(灰汁)を抜く (あく抜き)
あか抜けた - <あか抜けた>は<垢抜けた>だが<垢>も<灰汁>も同類だ。
ナイフを鞘(さや)から抜く。
太郎が一番先にA組から抜けた。
花子の成績はクラスの中でズバ抜けている。
美代子の美貌は会社の中で抜け出てている。
次郎の数学の才能は飛びぬけている。
えり抜きの美女たち
飛車角抜きで、カタイこと抜きで
手を抜く (手抜き工事)

以上は to pull, to be pulled out, to go off, to come off の意で<抜>の漢字を使ってもいい。

トンネルをぬけると雪国だった。 (<トンネルを>と<を>を使うので他動詞のようだだが<を>をとる移動の自動詞ともいえる)
この通りをぬけて行けば早く着く。 (<トンネルを>と同じ)
この文には主語がぬけている。
次郎はどこかぬけいる。
力がぬける。力をぬく。
腰をぬかす。 腰がぬける。(経験がないとどういうことだかわかりにくい)

以上は言葉に繊細なひとは<抜>の漢字をつかうのに勇気がいる。

トンネルをぬけると雪国だった。
トンネルを過ぎると雪国だった。  
トンネルを通ると雪国だった。

以上は同じような意味だが<トンネルをぬけると雪国だった>が一番いい。

複合動詞

優秀な太郎をA組から引き抜いた。
完成品の中から特に出来のいいのを抜き取る。

これは<抜>の漢字じを使ってもいいが、

壁(困難)を突きぬけてついに成功した。
この道を通りぬけて行けば早く着く。 
太郎は次郎を途中で追いぬいた。 太郎は次郎を途中でぬき去った。
生きぬく、やりぬく、考えぬく 

以上も<抜>の漢字を使うのに勇気がいる。

上記のうちいくつかは(とくに移動動詞)英語(ドイツ語)でいえば through (durch) 前置詞、副詞に相当する<ぬく>、<ぬける>がある。

トンネルをぬけると雪国だった。    - to go (pass) through
この道を通りぬけて行けば早く着く。   - to go (pass) through
壁(困難)を突きぬけてついに成功した。 - to break through
切りぬける - to go through

生きぬく、やりぬく、考えぬく  - これらは through からさらに out の意が加わっている。

生きぬく - to live out (ただしあまり聞いたことがない)
やりぬく - to carry out, to work out
考えぬく - to think out
切りぬける - to go through (<切りぬく>は別の意味なる)

<つらぬく>は漢字で書くと<貫く>になってしまうが through の<ぬく>だ。

<知りぬいた> <知りぬく>は to know through というよりは to know thoroughly。

またいくつかは英語でいえば to miss, missed / missing (形容詞)、without (前置詞)の意がある。

この文には主語がぬけている。
次郎はどこかぬけいる。
飛車角抜きで、カタイこと抜きで

without は前置詞だが、過程を見ての動詞として<なくす>、<なくなる>(to lose,  to be lost, to become (get) lost )の意もある。

力がぬける。
腰をぬかす。腰がぬける。

<ぬく>、<ぬける>の慣用的な言い方。

息ぬき
勝ちぬき
気がぬけない
尻ぬけ
出(だ)しぬく
筒(つつ)抜け 
抜き差しならぬ
ぬけ駆け
ぬけ目ない
ぬけぬけと
ババぬき(トランプゲーム)
まぬけ(<間抜け>は当て字だろう)
見ぬく ( これはいい大和言葉で、英語の insight に近い)
目ぬき通り
もぬけの殻(から)、ぬけ殻

またすでに取り上げたが

手を抜く (手抜き工事)
力がぬける。
腰をぬかす。腰がぬける。

もかなり慣用的な言い方だ。

ま た、<ぬぐ(脱ぐ)>、<ぬげる(脱げる)>は同じ仲間だ。英語で言えば to take off, to loose, to become (get) loose、さらに<ぬける>と同じく to go off, to come off が相当する。さらには<にげる>、<のがれる>、<のける>も関連ありそう。さらにまた、気がつきにくいが<のこす>、<のこる>も関連ありそう。

たとえば

打ちぬく
切りぬく (<切りぬける>は別の意味)
染めぬく

は<ぬく>という作業よりは<ぬい>た後(跡)のほうに目が向いている。

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<こぼす>、<こぼれる>は語源的には<ぬく>、<ぬける>と関係ないが、意味上は重なるところがある。もとの意味は<あふれ出さす>、<あふれ出す>、<あふれ出る>だが、

取りこぼす
落ちこぼれる

といった言い方がある。英語で言えば loose, to become (get) loose がさらに進んで to lose (負ける)の意だ。ただ単に<負ける>というよりは loose, to become (get) loose の意がからんでいる。

<ぬかす>という他動詞もあるが<す>から使役のように見えるが<ぬく>とかさなるところがある。<ぬかす>の使役形は<抜かさす>だ。<抜かさす>の受身形は<抜かされる>。この辺はかなり入りくんでいる。

A君を抜かして話を進めよう。-A君を抜いて話を進めよう。
B君はC君に抜かされた。 -  B君はC君に抜かれた。

B君はC君に(わざと)抜かさせた。
A君はB君に(わざと)C君に抜かされるようにと頼んだ。
A君はB君に(わざと)C君に抜かすようにと頼んだ、でも、よさそうだが、A君はB君に(わざと)C君抜かすようにと頼んだ、でもよさそうだが微妙に意味が違うが、まずこうは言わないだろう。


ぬく、ぬける、ぬかす、ぬぐ、ぬげる、ぬがす、にげる、にがす、(さらには、のがれる, のく、のける、のかす)、そして、こぼす、こぼれる、には何か共通した意味がありそうだ。大まかにいえば(大和言葉の探索ではこれが肝心)、<何かから離す、離れる>の意がある。 through の意味合いにしても<なにかを通りぬける>とは時間はかかるが<何かから離れる>ことだ。

これに関しては、興味と時間のあるひとは別のところで書いた<Tsuku (つく) and Hanereru (はなれる)>を参照。

http://spttejd.blogspot.hk/2012/11/blog-post.html


繰り返しになるが

トンネルをぬけると雪国だった。
トンネルを過ぎると雪国だった。  
トンネルを通ると雪国だった。

の<ぬける>、<過ぎる>、<通る>は文学的には微妙に違うが共通した意味がある。

過ぎる= to pass の意のほかに、動詞ではないが over の意味の意味がある。
通る = 動詞ではないが through  の意味の意味がある。

<ぬける>が一番やっかいだが一番味がある。


sptt

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