Thursday, May 15, 2014

<はばかる>の意味、語源


<はばかる>は漢字で書くと<憚る>で<遠慮する>、<避ける>といった意味になるが、実際の使われ方は相当混乱している。

人目をはばかる
世間をはばかる

以上は確かに<人目を遠慮する、避ける>、<世間に遠慮する、世間を避ける>の意に近いようだが、実際には<人目をはばかってxxする>、<世間をはばかってxxxxする>のように使われるのが多い。つまり<人目をはばかる>、<世間をはばかる>こと自体が重要なのではなく<xxする>の方が重要なのだ。<人目をはばかる>、<世間をはばかる>は副詞的な使われ方なのだ。<はばかり>が便所(トイレ)なのはこの使い方に準じている。

また少しあらたまって、あるいは場合によって諧謔的に<はばかりながら>で使われる場合がほとんどだろう。

はばかりながら、私はこれでも大学卒だ。
はばかりながら、会社は小さいが、私はこれでも社長だ。

この<はばかりながら>は<遠慮していますが>ではなく<遠慮しながら言うのを(あなたに)知っていてもらいたいのですが>といったかなり複雑、ねじ曲がった話者の心理、心算段がある。

はばかりながら、ひとこと言わせてもらいます。

これも<はばかりながら>は<言いたくはないのですが>、<言うべきではないの知っていますが>あるいは<言うことは遠慮すべきなのは知っていますが>といった意味だ。いづれにしてもこの<はばかりながら>は逆接的な枕詞(まくらことば)で、結局のところ<言うこと>が目的だ。

手もとの辞書(三省堂)には

<にくまっれ子世にはばかる>の<はばかる>は<はびこる>の混用といわれる。

と言う辞書の解説があるが、そうだろうか?

上記の見方からすれば<にくまっれ子世にはばかる>でいい。つまり、にくまっれ子は<世間に遠慮して、世間を避けて>目的を達するのだ。

またこの辞書には死語として<はばかりさま>の解説がある。死語であり、また私は聞いたことがないのでここで紹介しないが、<はばかりさま>の意味するところは<遠慮>と<遠慮の裏返し>が交錯した話者の心理、心算段の表(あらわ)れだ。

さて語源は何か?

<追記>
漱石の小説<門>の中で、御米(およね)が子六(ころく)に用事を頼むときに <はばかりさま>が出て来るのをみつけた。まあ、<遠慮しながらも(あるいは遠慮しているように見せて)そこそこ強く頼む>ことのようだ。
また<猫>にも主人が一番嫌う金田夫人も同じような(<遠慮しながらも(あるいは遠慮しているように見せて)そこそこ強く頼む>)使い方をしている。さらに、主人の奥さんが主人の姪(めい)雪江に寒月にお茶を出すように頼む場面でも使われている。どうも当時の中年女性専用言葉のようだ。


sptt

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