Tuesday, December 29, 2015

<めく>、<めかす>動詞


<めく>動詞の代表は<春めく>だろう。なぜか<夏めく>、<冬めく>はほとんど聞かず、<秋めく>もまれに聞く程度だ。

<めく>動詞を探してみる。≪アイウエオ≫順。

田舎(いなか)めく (昔は<鄙(ひな)めく>と言ったようだ。)
言い訳めく (言い訳めきますが、実はこうです)
口実めく  (口実めきますが、理由はこうです)
冗談めく
都会めく (昔は<都(みやこめく>と言ったようだ。)
皮肉めく (皮肉めいた発言、言い方)
貧乏めく

以上は<春めく>と同じ構造<名詞(体言)+めく>だが、意味としては同じようなグループで、<春めく>のように単純ではない。ただし意味としては<XX(名詞)のようになる、見える、聞こえる>、漢語をつかえば<XX(名詞)の様相を呈する>の意だ。いずれも意味的には否認(disapproval)が内包(implied)されている。<めく>の<め>は<目(め)>由来だろう。


うごめく (手元の辞書によると ”<動く>と<めぐめく>の合成となっているが、この辞書に<めぐめく>の見出しがない。
さんざめく - これは<燦燦(サンサン)>+ <めく>とすると<春めく>グループのようだ。
ざわめく - これは<ざわ>のところが耳によく響き、<ざわめき>ともに私の好きな言葉だ。
ときめく - 他動詞は<ときめかす>
めくるめく  - これは<目がくるくるまわるような>の意で形容詞的に使われる。
よろめく - これは<よろよろ(する)>+ <めく>か?


<めく>動詞の他動詞形、使役形とも考えられる動詞語尾<めかす>がある。

めかし込む

冗談めかす
ときめかす (心、胸をときめかす) <ときめかす>と<どきどき>する。
ほのめかす
よろめかす

sptt

Monday, December 28, 2015

混む-困る-込める


<混む-困る-込める>は漢字を使うとしれぞれ違うが、ひらがなだと<こむ-こまる-こめる>で関連がありそう。

<混む-込める>は関連性が強い。<混む>は<ヒトやモノ(建物など)が詰め込まれた>状況だ。<こ(混)む>は自動詞、<込める>は他動詞。<まるーめる>動詞とすると、<こまる-こめる>となるが、<こまる>には<混まる>、<込まる>の意の自動詞で使われることはごくまれで、普通は<困る>の<こまる>の意だ。この<こまる>は<ヒトが詰め込まれた>状況というより<ヒトが何かに込められて身動きできない、行き場がない>状況の意に近い。したがって、<困(こま)る>も<込める>関連の語だ。こう見ると、<困る>はいかにも当て字で、本来のやまとことばから言えば<込まる>の方がいいのだが、長年の習慣で字面(づら)からは<困る>の字のは方が<こまった>感じが出るようだ。

<困る>、<困った>の英語で一般的なのは to be in trouble か。英語に embarrassment という語があり、これは名詞形で、動詞は to embarrass だが、to be embarrassed という受身形や embarrassing という形容詞がよく使われる。to be embarrassed は<困った>とは違う。どちらかというと<困惑する>(正確には<困惑させられる>だが、翻訳文以外はまずこうは言わないだろう)、<(どう対応していいかわからず)どぎまぎする>の意だ。やまとことばらしいのでは<恥ずかしい思いをする>、<気まずいおもいをする>、<ばつが悪い思いをする>などがある。ここで注意したいのは<困る>、<困った>は短期的な場合にも長期的な場合にも使えるのに対して to be embarrassed は短期的な場合に限られ、<困惑する>、さらには<恥ずかしい思いをする>、<気まずいおもいをする>、<ばつが悪い思いをする>もどちらかというと短期的な場合に使われる。また多くはくは<予期せぬことが発生して>というよいうな状況下で使われる。<どぎまぎする>、<たじろぐ>というやまとことばもある。embarrassment の関連のやまとことばはけっこう豊富だ。

<困る>、<困った>と似たような言葉に<弱(よわ)る>、<弱った>がある。

面白いのは中国語で embarrassment (to embarrass, embarrassing) を調べると日本語ではまずお目にかからない<难堪、尴尬>というのが出てくる。<难堪>は文字通り<堪(た)え難(がた)い>の意だ。面白いのは<尴尬>(中国語では ganga と発音する、ピンイン無視)で、初めてこの字を見た時に<おそれおののいた>た記憶がある。この<尴尬>は、使うのを聞いたことがあるが embarrassment (to embarrass, embarrassing) に近いようだ。もっとも当時は何のこただかわからなかったが。

embarrassment と似て非なる語に bashful、shy というのがある。こちらは名詞ではなく形容詞。日本語では<恥ずかしい>ではなく<恥ずかしがり屋の>といった人の性格をあらわす。<恥ずかしい>は<私ははずかしい>といった言い方はせず、<恥ずかしいこと>、<恥ずかしい思い>で、<わたしは恥ずかしい思いをした>は、状況にもよるが普通は<I was embarrassed.>で、<I was bashful. I was shy>ではない。

欧米人にかぎらず、日本人以外のアジア人も含めて比べると日本人の<恥(はじ)>の意識はやや特殊なところがある。恥(はじ)の文化、恥(はじ)の社会などと言うが、相対的なものと見た方がいい。

英語辞書の bashful は次のようになっている。

bashful
  1. reluctant to draw attention to oneself; shy.


    "everything you need to know but have been too bashful to ask"


    synonyms:shy, reserved, diffident, retiring, self-conscious, coy, demure, reticent, reluctant, shrinking, timid, timorous, meek; More


    "many men are bashful about discussing their feelings"
    antonyms:bold, confident

この違いは言葉の違いによるとことがあるようだ。日本語では<はじ(恥)じる>も<はず(恥)ずかしい> も<ha-ji (hazi)- ru>、<hazu-kashi-i>で同根。英語では、上記のインターネット辞書に見られるように、オーバーラップするところもあるが、<はじ(恥)じる>の方は shame 系統、<はず(恥)ずかしい>はやや複雑で

a)bashful、embarrassed、embarrassing

このグループは上記 embarrassed で説明したように短期的な<困惑する>、<どぎまぎする>。ただし bashful は shy の意にちかい。

b)shy、hesitant、nervous、self-conscious、introvert

introvert は上記に辞書コピーにはないが、よく使われる。文字通りでは<内向的な>だが、やまとことばでは<内気(うちき)な>というのがある。このグループは上記の<恥ずかしがり屋の>といった人の性格をあらわす。

c) timid、unconfident

このこのグループは<臆病>、<気が小さい>といった人の性格をあらわす。b)とはやや違う。

d) ashamed

shamefaced は<恥ずかしい(表情をした)>といった意味だろう。

<恥(はじ>、<恥ずかしい>はかなり明らかに違うグループ。英語では<恥(はず)ずかしい>は程度の違いで差があるようだ。参考に ashamed という形容詞の英語辞書の解説はつぎのとおり。


ashamed
embarrassed or guilty because of one's actions, characteristics, or associations.


"you should be ashamed of yourself"


synonyms:sorry, shamefaced, abashed, sheepish, guilty, conscience-stricken, guilt-ridden, contrite, remorseful, repentant, penitent, hangdog, regretful, rueful, apologetic; More
embarrassed, mortified, red-faced, chagrined, humiliated, uncomfortable, discomfited, distressed;
in sackcloth and ashes;
informalwith one's tail between one's legs;
rarecompunctious;
blush to think of


"she was ashamed of the way she had behaved"
antonyms:proud, unabashed

reluctant to do something through fear of embarrassment or humiliation.


"I'm ashamed to say I followed him home"


synonyms:reluctant, loath, unwilling, disinclined, hesitant, indisposed, slow, afraid;


"he was ashamed to admit it"


guilty, conscience-stricken, guilt-ridden となるとかなりシリアスだ。

やまとことばでは<恥知らず(の、な)>がかなりシリアスだが<罪の意識>よりは軽く、また自意識というよりは他人の目、世間体(てい)、道徳が強くからんでおり、社会性がある。<恥ずかしい>は<恥知らず>よりやや軽いようだ。この恥(はじ)は社会規範になっており、よく使われる。

恥じ入る - <恥知らず>の意に近い場合も<恥ずかしい>の意に近い場合もある。
恥をかく (<恥を欠く>とは意味もイントネーションも違う) - 恥かき
恥をさらす - 恥さらし
恥を知る
恥のかき捨て

漢語由来のようだが日本語に<卑怯(ひきょう)>、<卑怯な>という語がある。も違う。英語では shameless が近いか?

e)reserved

これは<ひかえめな>、<つつしみぶかい>、<つつましやかな>といったやまとことばがあり、日本の社会では男女を問わず一般的に良いこと、よい性格ということになっている。上記の bashful の意味(同義語)の中にはなぜかないが、英語には humble、modest という言葉があり(形容詞)、これは reserved(ひかえめな)の意に近い。

e) meek

英語辞書では overly submissive という解説がある。やまとことばでは<(いやに)へりくだった>というのがある。

f) mauvaise honte 

おまけにフランス語(英語圏でも使われる)の mauvaise honte というのを紹介する。やや high-brow または snobbish な語だ。インターネット Oxford Dictionary の解説は次の通り。

mauvaise honte
Pronunciation: /məʊˈveɪz ˈɒ̃t/


Definition of mauvaise honte in English:

noun

False shame or modesty.


Origin

Early 18th cent.; earliest use found in Mary Wortley Montagu (bap. 1689, d. 1762), writer. From French mauvaise honte from mauvaise, feminine of mauvais bad + honte shame.


文字通りでは bad shame (悪い恥)だが、そうでもなさそうで False shame or modesty となっている。False shame の意味がよくわからないので、調べてみたがよくわからない。D.H. Lawrence の小説 Women in Love の中にmauvaise honte が使われている。

 "

So there was quite a little festivity on Winifred's account, the day Gudrun returned to Shortlands.
'You should make a bunch of flowers to give to Miss Brangwen when she arrives,' Gerald said smiling to his sister.
'Oh no,' cried Winifred, 'it's silly.'
'Not at all. It is a very charming and ordinary attention.'
'Oh, it is silly,' protested Winifred, with all the extreme MAUVAISE HONTE of her years. Nevertheless, the idea appealed to her. She wanted very much to carry it out.

 "


 これからすると、<はにかみ屋>といった意味だ。したがって False shame は<必要のない恥>、<まちがった恥>となる。したがって、西欧人にとっては<はにかみ屋>(shy, shyness)は<まちがった恥>なのだ。またこの小説のなかには< meek と女性>の論議がある。


こう見てくると英語でも shy (shyness) と ashamed (shame) は微妙につながっている。

(追記)

実を言うと、上で<おまけにフランス語(英語圏でも使われる)の mauvaise honte というのを紹介する>と書いたが、このポストは上述のD.H. Lawrence の小説を読んでいるときに mauvaise honte という語に出会って書いたもの。

sptt



Sunday, December 27, 2015

<いじめ>と<いやがらせ>について


A. <いじめ>について

<いじめ>は名詞(体言)で動詞が<いじめる>。<まる-める>動詞とすると、<いじまる>という自動詞があるはずだが、<いじまる>は聞かない。<いじめる>は<xx をいじめる>で純他動詞だ。

<まる-める>動詞の例では

からまる - からめる (からむ、からみ)
くるまる - くるめる (くるむ、くるみ)
たまる - ためる (たむ、ため) 溜(貯)める

があるが、片方しかない動詞もある。

XXX - 眺(なが)める (ながむ 、ながめ)
はさまる - XXX  (はさむ、はさみ)


<いじめる>は昔は<いじむ>と言っていたかもしれない。

さて<いじめる>の意味だが、<自分よりも弱いもの(動物、ひと)を力ずくで、いやがることをむりやり xx させてたのしむ>といった意味だ。<(相手が)いやがること>、<(自分が)たのしむ>があるのが特徴的だ。英語では to bully がほぼ相当するが、英語では名詞の<いじめ>も同形の bully だ。数えにくいし、直接目には見えず、さわることもできないので、文法的には不加算抽象名詞か。<いじめる>は人間特有の行為のようだ。心理的にもう少し詳しく言うと<自分よりも弱いもの(動物、ひと)を意図的に、意識して力ずくで、むりやり xx させてたのしむ>ということになる。

<いじ>関連では<意地が悪(わる)い>、<意地悪(わる)>がある。<意地悪をする> の行為は<いじめる>に近い。だが<いじめる>の<いじ>はこの<意地>に関連しているのか。<意地>は発音からすると漢語由来のようで、やまとことばではなさそう。一方<いじむ>の<む>、<いじめる>の<める>に<悪(わる)>の意はない。おそらく<いじめる>は<意地悪(わる)>の<意地>とは関係ないだろう。


<意地>関連では<意地が汚(きたな)い>、<意地汚い>、<意地を張る>、<意地っ張り>があるはが否定的な意味合いだ。中立なのでは<意地を通す>、<(男としての)意地がある>がある。<意地>がないのは<意地ない>ではなく<意気地(いくじ)がない>、<意気地なし>だが、この場合の<意地>、<意気地>は肯定的な意味になっている。人の心理は複雑だが、<意地>を使った表現も複雑だ。


B. <いやがらせ>について

<いやがらす>、<いやがらせる>という動詞はありそうだが、ほとんど聞かない。<いやがらせ>の動詞は<いやがらせをする>だ。<いやがらせをする>は<他人のいやがることをする>の意で、これまた人間特有の行為のようだ。これまた心理的にもう少し詳しく言うと<他人のいやがることを意図的に、意識して、わざわざする>ということになる。

<いや>の品詞は調べていないが、<xx は(が)いや>は何か。<xx は(が)いやだ>は<いや>を語幹として<だ>がついたいわゆる形容動詞。<いやな奴>の<いやな>、<いやになる>の<いやに>と形容動詞の活用になる。これは<xx は(が)好き>、<xx は(が)好きだ>の<好き>に対応する。

<いやみ>は<いやむ>という動詞がないので連用形の名詞(体言)用法というよりは<いやな味>の意か?<いやがらせ>の意と似かよったところがある。

いやみな奴
いやみで言う

というような使い方だ。


<いじめ>も<いやがらせ>も人間性にもとる好ましくない言動だが、しばしば耳にし、目にする。人間のサガか?世間一般のみならず国際間でもある。少ない方が住みやすい。


sptt




Monday, October 19, 2015

<Die Gedanken sind frei>のやまとことば


<Die Gedanken sind frei>というドイツの歌がある。直訳すれば<思想は自由>。ニュアンスが違ってくるが思いは自由>とも訳せる。<自由>のやまとことばはすぐには浮かばない。前回のポスト ”童謡<山の音楽家>のやまとことば” の<Ich bin eine Musikante>同じく古い歌で、500年くらい前までさかのぼれるらしい。

現在歌われるドイツ語とそのほぼ直訳英語は次の通り。

インターネットでいろいろ聞いてみた。メロディは比較的簡単でどれも同じだが(末尾参照)歌詞はバリエーションがある。


Die Gedanken sind frei, wer kann sie erraten,
sie fliegen vorbei wie nächtliche Schatten.
Kein Mensch kann sie wissen, kein Jäger erschießen
es bleibet dabei: Die Gedanken sind frei!

Ich denke was ich will und was mich beglücket,
doch alles in der Still', und wie es sich schicket.
Mein Wunsch und Begehren kann niemand verwehren,
es bleibet dabei: Die Gedanken sind frei!

Und sperrt man mich ein im finsteren Kerker,
das alles sind rein vergebliche Werke.
Denn meine Gedanken zerreißen die Schranken
und Mauern entzwei: Die Gedanken sind frei!

Drum will ich auf immer den Sorgen entsagen
und will mich auch nimmer mit Grillen mehr plagen.
Man kann ja im Herzen stets lachen und scherzen
und denken dabei: Die Gedanken sind frei!

Ich liebe den Wein, mein Mädchen vor allen,
sie tut mir allein am besten gefallen.
Ich sitz nicht alleine bei meinem Glas Weine,
mein Mädchen dabei: Die Gedanken sind frei!
Thoughts are free, who can guess them?
They fly by like nocturnal shadows.
No man can know them, no hunter can shoot them
with powder and lead: Thoughts are free!

I think what I want, and what delights me,
still always reticent, and as it is suitable.
My wish and desire, no one can deny me
and so it will always be: Thoughts are free!

And if I am thrown into the darkest dungeon,
all these are futile works,
because my thoughts tear all gates
and walls apart: Thoughts are free!

So I will renounce my sorrows forever,
and never again will torture myself with whimsies.
In one's heart, one can always laugh and joke
and think at the same time: Thoughts are free!

I love wine, and my girl even more,
Only her I like best of all.
I'm not alone with my glass of wine,
my girl is with me: Thoughts are free!

ドイツ語の方は脚韻を踏んでおり、聞いて耳に心地よい。

一方英語で歌われる場合は次のようになる。英語歌詞の方もいくつかバリエーションがある。

Die Gedanken Sind Frei (Thoughts Are Free)

Die Gedanken sind frei, wer kann sie erraten,
sie fliegen vorbei wie nächtliche Schatten.
Kein Mensch kann sie wissen, kein Jäger erschießen
mit Pulver und Blei: Die Gedanken sind frei!

Die Gedanken Sind Frei, my thoughts freely flower,
Die Gedanken Sind Frei, my thoughts give me power,
No Scholar can map them, no hunter can trap them,
No man can deny, Die Gedanken Sind Frei!


Ich denke was ich will und was mich beglücket,
doch alles in der Still', und wie es sich schicket.
Mein Wunsch und Begehren kann niemand mir wehren,
es bleibet dabei: Die Gedanken sind frei!

I think as I please and this gives me pleasure,
My conscience decrees this right I must treasure,
My thoughts will not cater to duke or dictator,
No man can deny, Die Gedanken Sind Frei!


Und sperrt man mich ein im finsteren Kerker,
das alles sind rein vergebliche Werke.
Denn meine Gedanken zerreißen die Schranken
und Mauern entzwei: Die Gedanken sind frei!

And should tyrants take me and throw me in prison,
My thoughts will burst free like blossoms in season,
Foundations will crumble and structures will tumble,
And free men will cry, Die Gedanken Sind Frei!


Drum will ich auf immer den Sorgen absagen
und will mich auch nimmer mit Grillen mehr plagen.
Man kann ja im Herzen stets lachen und scherzen
und denken dabei: Die Gedanken sind frei!

And now I renounce forever my sorrows,
And never again to fret my tomorrows,
I'll always have laughter and joy ever after,
For in my heart I'll sing, Die Gedanken Sind Frei!

今度は英語の方も脚韻を踏んでいる。ドイツ語のオリジナル版は古いせいか意味が曖昧、あるいはよく<筋が通らない>箇所があるが、英語版歌詞の方は新しくつくらたので筋が通っている。日本でも<筋が通らない>古い話おとぎ話や民話はめずらしくない。

初めの引用では最後に<ワインと女性が出てくる>一節があるが、二番目の引用のように歌われない場合があるようだ。私もそうだが、この一節の内容は<思想は自由>とはほとんど関係がないので<なくもがな>だ。長い歴史のなかで後から追加されたものだろう。

さて本題はこの歌の日本語版だ。ごく簡単に調べたかぎりでは見つからなかったのであえて試みる。<思想の自由>が基本的に許されていない中国だが、どういうわけか簡体字の中国語版はあり、次のようになっている。


思想是自由的
有谁可以猜测呢?
他们如夜间的影子飞翔
没有猎人可以射杀 
以火药及铅字子弹
思想是自由的

我想我爱的,想令我高兴的
但思想都是沉默
而它本来就是这样的
我的希望和愿望,而没人能阻止我
而它永远是这样的
思想是自由的

我爱酒,更爱我的女孩子
而只有我最爱她的
我并不孤单因有一杯酒
和我的女孩陪我
思想是自由的

如果我被关进最黑暗的大牢
但这一切都将是徒劳无工
以为我的思想能冲破牢门
和粉粹墙壁
思想是自由的

我将永远离我的悲伤
也再不想一些奇特的东西来折磨自己
在一个人的心内,总是可以大笑和开玩笑
并在同一时间来思想
思想是自由的

日本語の漢語から推測すれば大体意味は分かるのでないか。ただし意味不明なところがいくつかある。最初に取り上げたドイツ語(歌詞)-英語訳併記を並べてみる。


1)他们如夜间的影子飞翔 - They fly by like nocturnal shadows. (sie fliegen vorbei wie nächtliche Schatten.)
  
2)但思想都是沉默、而它本来就是这样的 - still always reticent, and as it is suitable. (doch alles in der Still', und wie es sich schicket.

3)而它永远是这样的 - and so it will always be. (es bleibet dabei)

4)并在同一时间来思想  - and think at the same time: (und denken dabei


1)他们如夜间的影子飞翔

Schatten を相良独和大辞典を調べてみると<影>とともに<闇(やみ)>の意があり、 nächtliche Schatten  は<夜の影>(nocturnal shadows、夜间的影子)というよりは<夜の闇>ではないか。
相良独和大辞典: die Shatten der Nacht で<夜の闇>となっている。Shatten はここで男性単数 der Shatten の複数形。ただし独英辞典(German-English Revrso)では闇の意が見当たらない。また<sie fliegen vorbei wie nächtliche Schatten.>の sie は die Gedenken のことでこれは複数形。 fliegen も複数形だ。英語は shadows と複数形になっているnächtliche Schatten は冠詞がないが形容詞の語尾変 nächtlicheからこれは複数形。中国語はここでは思想は<他们>と複数になってる。

他们如夜间的影子飞翔 - <思想は夜の影のように飛んでいく>は抽象詩のようでもあるが、何百年も前の歌詞としては抽象化度合いが高いので、意味不明と言えよう。<思想は夜の闇のように飛んでいく>であれば<とらえどころがない>のような意味になる。また Schatten には<まぼろし>、幻影(げんえい)の意もあり、これは影よりこの歌詞にふさわしい。この個所のもう一つの問題は vorbei で、英語では fly by で<飛び去る>、<飛び去って行く>感じだ。飞翔には<去る>の意はない。vorbei は<過ぎて>、<過ぎ去って>という意味の副詞だ。


2)<但思想都是沉默>はder Still が沉默の意であれば<都>には<べて>の意があるのでドイツ語の訳に近い。英語では reticent というやや改まった語がつかわれているが、この語は基本的に<沈黙の>、<沈黙を守りたがる>の意の形容詞だ。またドイツ語ではalles in der Still とあるが、この alles は必ずしも Gedenken (thoughts, 思想)とはかぎらない。したがって、少なくとも英語版はドイツ語の意味とかなり違う。

而它本来就是这样的>の<>は思想のことだろうが<>は単数だ。複数は上記の他们。意味は and as it is suitable よりはドイツ語の und wie es sich schicket に近い。この es は特に意味のない es で英語(it)もそうだがドイツ語も主語がないと文が成り立たないので使われる es だ。<es sich schicket>は慣用句で<就是这样的(こんなものだ)、なるようにになる>といった意味だ。これも中国語はドイツ語に近い。英語の and as it is suitable は何のことだかよくわからない。<思想は沈黙を守りたがるが、その方がいい>といった意味か。

3)<并在同一时间来思想>は英語の and so it will always be の訳だ。ドイツes bleibet dabei は一番目の歌詞では第一節と第二節の繰り返し出てくる。第一節の英語版は with powder and lead で、これは二番目ドイツ語歌詞で mit Pulver und Blei となっている。だがこの mit Pulver und Blei はその前の kein Jäger erschießen と相応するがややとってつけた観があり、後代の変更だろう。es bleibet dabei の方が<繰り返し(リフレイン)>効果もあり歌詞らしい。さて es bleibet dabei の意味は難しい。英語では and so it will always be となっている。bleiben dabei をそのままの意味で<そこらあたりにとどまっている>とすれば and so it will always beでもいいが、それでは意味が曖昧だ。bleiben は<とどまる>が原意だが、相良独和大辞典によると<es bleibet dabei.>は慣用句で<それでよし、そう決めた>といった意味で、このほうが筋が通る。

4)<并在同一时间来思想>は英語の and think at the same time に近い。ドイツ語は und denken dabei でまた dabei がでてくる。 しいて訳せば<そしてそれについて思う>だが、これでは何のことだかわからない。

さて、これからやまとことば化を試みるのだが、その前にまだ講釈が少しある。まず問題は

die Gedanken - thoughts - 思想

の違いだ。die Gedanken は形からして denken という動詞の意味が強く残っている。die Gedanken は sind が続くことから複数形。英語の動詞 to think の過去形、過去分詞形は thought だが thoughts と複数形になっていることもあって名詞の感じが強い。<思想>は名詞形で、中国語の柔軟性からして動詞にもなるだろうが、現代中国語では動詞は>の一語だ。またこれまた中国語の柔軟性からして<思想是自由的>ではなく<想是自由的>ともいえるだろう。もちろん意味はズレてくる。やまとことばでは<考える>、<考え>があるが、歌詞として長すぎる。また別のところで書いたが、純やまとことばではなさそう。歌詞としては<思う>、<思い>が適当だろう。ただし日本語の<思う>、<思い>は純思想的な、哲学的意味になれない。<われ思う、故にわれあり>は悪くないと思うが、思想臭、哲学臭が薄いというか、なにか軽いのだ。

spttやまとことば訳

思いに囲いはない

思いに囲いはない。これはだれも拒(こば)めない。 
思いは飛び去って行く。夜(よる)の闇のように。
思いはつかめない。狩人(かりうど)も撃ち落とせない。
それでいいのだ。 思いに囲いはない。

われは好きなように思う。楽しくなることを思う。
ものみな静かだ。なるようになるのだ。
わが望みと願いは誰も拒めない。
それでいいのだ。 思いに囲いはない。

誰かがわれを岩のほろ穴に閉じ込めようと 
それはまったく空しい仕事だ。
わが思いは岩をも真っ二(ぷた)つに打ち砕(くだ)く。
思いに囲いはない。

われは悩みからとこしえに解き放(はな)たれた。
もうくだらぬことに苦しむことはない。
そこで、心から笑い、遊び楽しむのだ。
そして思いを馳(は)せる。
思いに囲いはない。

以上はほぼ直訳。歌にあわせた歌詞も試みてみる。


思いは馳(は)せる

思いは飛び去る。空(そら)飛ぶ鳥のよ(う)に。
空(そら)に囲はない。 思いに囲いはない。
だれもつかまえられない。かりうどさえも
撃ち落とせない。 思いは飛び去る

思いは跳びまわる。野走るウサギのよ(う)に。
野原に囲はない。 思いに囲いはない。
だれもつかまえられない。かりうどさえも
撃ち取れない。 思いは跳びまわる

思いは気まま。大空の雲のよ(う)に。
形(かたち)はない。 思いに形はない
だれもつかまえられない。お日様さえも
つかまえられない思いは気まま。

思いはゆれる。振り子のよ(う)に。
思いはくだける。ガラスのよ(う)に。
でもあきらめない。願いと望(のぞ)みと
夢あるかぎり。 思いは続く



末尾


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  \key c \major   \time 3/4   \partial 4   \autoBeamOff
  g8 g  |  c4 c e8[ c]  |  g2 g4  |  f d g  |  e c
  g'  |  c c e8[ c]  |  g2 g4  |  f d g  |  e c
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\addlyrics {
  \set stanza = #"1. "
  Die Ge -- | dan -- ken sind | frei, wer | kann sie er -- | ra -- then?
  Sie | flie -- gen vor -- | bei wie | nächt -- li -- che | Schat -- ten.
  Kein | Mensch kann sie | wis -- sen, kein | Jä -- ger sie | schie -- ßen.
  Es | blei -- bet da -- | bei: Die Ge -- | dan -- ken sind | frei.
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  \context { \Score  tempoWholesPerMinute = #(ly:make-moment 132 4) }
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sptt