Monday, August 2, 2021

エンジン、エンジニアのやまとことば

 

エンジン(engine)とエンジニア(engineer)は関連語。昔はエンジンを発動機と言っていたようで、ひと昔まえまではヤマハはヤマは発動機、ダイハツは大阪発動機と言っていたようだ。自動車を汽車という中国でも発動機は通じるようだ。だが日本ではいまは車のエンジン。最近は電動自動車をかなり見かけるが、こちらはエンジンではなく電動モータで動くが、モータも発動機と言うようだ。発動機のやまとことばはないだろう。発動機の<機>は機械の機で、<からくり>とうやまとことばがある。電動モータは<からくり>の感じが少しあるが、エンジンは音と力と動きが先にきて<からくり>の感じがうすい。発動は文字通りでは<動きを発する(出す)>で、発動機は<動き出しからくり>とるが、まず使う人はいないだろう。<動き出し>は<<動き出す>の連用形になってしまう。<動きを出すからくり>が正しいのだが長すぎる。エンジニアは<技術者>で、エンジニアと技術者は大体同じ意味、そして同じくらいの割合で使われているか。エンジニア、技術者のやまとことばはなにか?昔は<(たくみ(匠)>という言葉あったようだが、今は<たくみな>、<たくみに>で使われる程度だ。職人という言葉があるが、エンジニアと技術者とは別格で、エンジニアと技術者は<学>や<学問>や<学歴>が関係するが、職人は実践や修行をへて職人になる。一人前の職人になるためには実践や修行が必要だ。職人のやまとことばも見つからない。昔は一人前の職人に<(たくみ(匠)>が使われていたかもしれない。XX師(指物師、鍛冶師(鍛冶屋)、教師)というのもあり、専門職。だがこれまたやまとことばではない。師匠という言葉があるが<ししょう>で<したくみ>ではない。技術の<技>は<わざ>とも読む。<わざ>はいい意味でも使われるが、日常語で<わざ師>、<わざと>、<わざわざ>のようにあまりよくない意味でも使われる。職業の名前にはなぜかやまとことばが少ない。

さてエンジニアにもどると engine、engineer の関連語を調べてみると ingenious という言葉がある。 ingenious は褒め言葉だ。genius は天才。genius (天才)は知能指数が高いだけでなく、ときに独創性を要求される。ingenious のネット辞書の解説は

"

ingenious

/ɪnˈdʒiːnɪəs/

adjective
(of a person) clever, original, and inventive.
 
"he was ingenious enough to overcome the limited budget"
 
synonyms: inventive, creative, imaginative, original, innovative, resourceful, enterprising, insightful, inspired, perceptive, intuitive, clever, intelligent, bright, smart, brilliant, masterly, talented, gifted, skilful, capable, sharp, astute, sharp-witted, razor-sharp, quick, quick-witted, shrewd, elaborate, sophisticated, trailblazing, pioneering, on the ball, thinking outside the box, genius

 "

でほぼ言いことずくめだ。 shrewd が例外か。これは<(たくみ(匠)>の<たくみな>、<たくみに>が例えば

言葉たくみに人をだます

のように shrewd の意味があり、よく使われる。また。<わざ>も<わざ師>や<わざと>で悪い意味でよく使われるんとは対照的だ。

ところがイタリア語の ingegniere (エンジニア)の関連語、というかもとの語の動詞で ingegnare というのがあるが、これを少し詳しい辞書(Treccani)で調べてみると、 ingegnare では使われないようだが再帰用法の ingegnaresi の解説がある。

Treccani



ingegnarsi
v. intr. pron. [der. di ingegno] (io m’ingégno, ... noi c’ingegniamo, voi v’ingegnate e, nel cong., ingegniamo, ingegniate). – 1. Adoperarsi con l’ingegno per superare difficoltà e raggiungere il fine voluto: i. a (o per) trovare una soluzione; anche per fini non lodevoli: s’ingegna in ogni modo per mettere in cattiva luce i colleghi. Nell’uso ant., con sign. più generico, sforzarsi e sim.: Io era come quei che si risente Di visïone oblita e che s’ingegna Indarno di ridurlasi a la mente (Dante); E par ben ch’io m’ingegni Che di lagrime pregni Sien gli occhi miei sì come ’l cor di doglia (Petrarca). 2. Nell’uso com., adoperarsi a un fine ricorrendo a ripieghi o a espedienti (talora anche non onesti), fare del proprio meglio, industriarsi: ingegnarsi per vivere, per tirare avanti con la famiglia; ingegnarsi per guadagnare qualche cosa; anche in usi assol.: nella vita, bisogna sapersi ingegnare; non ha grandi mezzi, ma s’ingegna, fa quello che può.

とあり、いい意味での使用とあまりよくない意味での使用が半々と言ったところで、日本語の<たくみ>、<わざ>に似たようなところがあり、おもしろい。古い用法としてDante、 Petrarca が出てくるが、むずかしいのでこの箇所は省略。、イタリア語の勉強をかねて、少し詳しく見てみる。

1. Adoperarsi con l’ingegno per superare difficoltà e raggiungere il fine voluto: i. a (o per) trovare una soluzione; anche per fini non lodevoli: s’ingegna in ogni modo per mettere in cattiva luce i colleghi.

 adoperare はa + operare で to operate の強調みたいなもので<(一生懸命)働かす>。これまた再帰用法の adoperarsi で<(一生懸命)働く>になる。ingegno はもとの語(名詞)で ingenuity 相当(もっとも由来は逆で、英語の ingenuity が ingegno 由来なのだ。 superare difficoltà は困難を克服する。raggiungere il fine voluto は所期(望むところ)の目的を達する。 trovare una soluzione は解決策をみつける。anche per fini non lodevoli あるいはまた、ほめられたことではない目的のため。

s’ingegna in ogni modo per mettere in cattiva luce i colleghi.  

これは例文で<mettere in cattiva luce>は慣用表現、文字通りでは<仲間を悪い光の中に入れる>で、つまりは<仲間を悪く見えるようにする>といった意味のようだ。その前に s’ingegna in ogni modo あらゆる手(手段)を使って<(一生懸命)働く>が、あるので、かなり悪意をもった行動だ。

2. Nell’uso com., adoperarsi a un fine ricorrendo a ripieghi o a espedienti (talora anche non onesti)

Nell’uso com. = common use
ricorrendo - using
ripieghi -> ripiego (<(再び)包む>が原意- expedient (a makeshift solution)
espedienti - gimmicks
talora - talvolta (sometimes)

その場しのぎの方法やゴマカシ(gimmicks)を使って(一生懸命)働く(時として不正直に)

ということ。

fare del proprio meglio、 industriarsi

は慣用表現で、1)最善をつくす、2)できるかぎりやる、3)できるだけやる(やってみる)。 この1)2)3)は同じようだが、少し考えて見ると大きな違いがある。<できるだけやる(やってみる)>と言われてもあまり期待しない方がいい場合が少なくない。

industriarsi も再帰動詞(イタリア語では再帰動詞が大活躍する)。英語の industry  は産業と訳されるが、関連形容詞のindustrial <産業の>以外に industrious という形容詞があり、人の形容として<勤勉な,よく働く>の意だ。

ingegnarsi per vivere, per tirare avanti con la famiglia 

生きる(生活する)ために、家族をを率いて行く(何とか生活する)ために、<(一生懸命)働く>

ingegnarsi per guadagnare qualche cosa

何かを手に入れるために<(一生懸命)働く>

anche in usi assol.: nella vita, bisogna sapersi ingegnare; non ha grandi mezzi, ma s’ingegna, fa quello che può.

頭の in usi assol. の assol. は assolute の略で最上級表現(il più)といえる。<できるかぎり>と言った意味。この文の意味は

人生では<(一生懸命)働く>ことを知るべきだ。大きなやり方ではなく、出来るかぎり<(一生懸命)働く>ことを。

さてまたエンジニアにもどると、日本では英語のままではあまりいい意味では使われないが technology (これまた技術と訳される)関連語の technician(テクニシャン)、technique というのがあり、これまた技術者と訳されているようだ。 technician、technique の方は専門知識や経験はあるが、修理屋の感じがある。自動車や機械に問題があった時に正常な状態に戻してくれる。

本来の意味のエンジニアは問題解決に加えて(これまで世に中にないことの)創造、設計能力が要求されるようだ。これはtechnician(テクニシャン)には要求されない。ここが大きな違いでエンジニアは単なる専門知識や経験がある修理屋的な技術者とは違う。冒頭の ingenious の同義語を訳してみると

synonyms: inventive(発明創意的), creative(創造的), imaginative(想像豊かな、創造性豊かな、工夫が多い), original(独創的), innovative(革新的), resourceful(<資源豊かな>ではなく臨機応変な), enterprising(企業的、創業的), insightful(見方が深い), inspired (創造的な霊感がよく働く), perceptive(創造的な感受性が高い), intuitive(直観的), clever(かしこい), intelligent(知能が高い、よくないニュアンスのインテリの意味はない), bright(頭がいい), smart(頭がよく働く), brilliant(すぐれて頭がいい), masterly(職人のように器用な、熟練の), talented(才能ある), gifted(才能に恵まれた), skilful(手先が器用な、何でもうまくこなす), capable(有能な), sharp(するどい、頭が切れる), astute(臨機応変な、機敏な), sharp-witted(するどい機敏な知恵がある), razor-sharp(カミソリの刃のようにするどい、頭が切れる), quick(反応が速い), quick-witted機敏な知恵がある、気のよく利く), shrewd(ずるがしこい), elaborate(よく働く), sophisticated(洗練された。<世故にたけた>が辞書にあるが適切ではない。a sophisticated woman はいい意味だ。), trailblazing(道を切り開く), pioneering(先駆者的な、先進的), on the ball(ボールの上に乗るように巧みにxxする), thinking outside the box(常識から抜けだして考える), genius(天才がある)

 "

学校の成績がいいのは clever ではなく bright、 smartbrilliant。社会生活では smart、clever、shrewd の順で意味が悪くなる。

これを調べているうちにわかったが、<着こなしがうまい、スマートな姿>の smart は英国英語、<頭がいい、知能的な>の smart はアメリカ英語ということだが、日本でも今はアメリカ英語の smart が優勢か。

<wit >を一語で表わす、説明するのは難しい。 これは英国英語。

さて上の訳では、できるだけやもことばを使おうとしたが、実際に使時の簡潔さを考えると漢語が多くなる。 中国では技術者は一般的に工程師という。別に工場で製造工程をする人を指すわけではなく、広くエンジニア、技術者のこと工程師というようだ。香港では<xx工程公司>という会社名も見かける。一方専門的に電気、水道(水回り)の仕事をする人、修理屋、さらにはバスの運転手(運転手は普通<司机>という)も時として师傅(師傅)(shi-fu)と呼ばれる(これは北京語も広東語も同じような発音だ)。大体は自分ができないことをやってくれる専門家を<傅>とよぶようだ。中国の工程師がどう見られてているかよくわからないが一般的には若くても一目おかれており、給料も高いようだ。だが ingenious 、すなわち inventive(発明創意的), creative(創造的), imaginative(想像豊かな、創造性豊かな), original(独創的), innovative(革新的)であることは要求されていないようだ。

さてまたエンジニアにもどっとてやまとばを考えてみる。

問題解決 - 切り抜ける、ときには目新しい、かしこい、たくみなやり方を生み出して 

問題を未然に防ぐ - 工程師の仕事だ。何事(なにごと)もうまくことをはこぶ

設計 - 新しいことを考えだしてやる(実行する、させる)。設計のやまとことばも適当なのがない。<新しいことを考えだす>だけではダメで、実行できるように具体化しないといけない。設計図は具体化した例だ。実行、実施の責任はまた別だが、実行、実施が設計通りになっているかのチェックはエンジニアの仕事だろう。計画は設計に似ているが、これまた漢語だ。計画は文字通りでは<計る(図る)><画く(描く)>だ。

設計、計画: うまくはからう 

難しいことをやる - 考えて難しいこともうまくこなす 

<問題解決と設計>がエンジニアの二大仕事だろう。これをやまとことばで表わすと<切り抜け>と<考えだし>だ。さらにかしこい、たくみなやり方を使わないといけない。

エンジニア: 切れ者こなし屋(や)

 

関連のやまとことば

creative(創造的): 作り出す、描き出す、彫(ほ)り出す

inventive(発明創意的)、innovative(革新的): 切り開く

発明と発見は違うが

発見: 探し出す、見つけ出す、掘(ほ)り出す

masterly(職人のようなに器用な), skilful(手先が器用な、何でもうまくこなす), capable(有能な): 

うまくこなす、切り抜ける

insightful(見方が深い): 深く切り込む

<出す>、<切る>が重要語のようだ。

clever(かしこい), intelligent(知能が高い), bright(頭がいい), smart(頭がよく働く), brilliant(すぐれて頭がいい) : かしこい - 語源を調べていないがいいやまとことばだ。悪い意味の<かしこい>は<ずるがしこい>があるので、<かしこい>は基本的に言意味だ。また高い知能の意味だけではない。<かしこくきり抜ける>は問題がうまく解決しそう。<かしこくはからう>もコトがうまく運びそうだ。

漢語になるが日本語では知恵と悪(わる)知恵も区別があるのはいいことだ。<知恵と工夫を凝らす>は大体言い意味だ。


次のポスト予定

<切る>は カット(to cut)だけではない。(頭の)切れるエジニア

<xx 出す>は創造動詞

 

sptt


 


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