Friday, December 7, 2018

イデアル(環論)のやまとことば


このポストは ”<環論(Ring Theory)>のやまとことば” の追記(かなり長くなっている)の一部コピーに手を加えたもの。


Wiki- Japan <イデアル(環論)>

冒頭の解説に続いて<イデアル>の定義があるが、定義よりも冒頭の解説がの方が直観的で分かりやすい。

<イデアル(環論)>の冒頭の解説

"
抽象代数学の分野である環論におけるイデアル: ideal, : Ideal)はの特別な部分集合である。整数全体の成す環における、偶数全体の成す集合や 3 の倍数全体の成す集合などの持つ性質を一般化したもので、その部分集合に属する任意の元の和と差に関して閉じていて、なおかつ環の任意の元を掛けることについても閉じているものをイデアルという。



さて中国が出てきたところで。中国版Wiki の Ideal を見ておく。


理想 (环论)
维基百科,自由的百科全书

理想(Ideal)是一个群论中的概念。 若某环之一子集与原先的加法自成一群,且该子环内所有元素与原环之元素相乘的结果均在其内,则称其为原环的理想通俗地说,一环的理想在加法上成群且在乘法上表现如同一个黑洞。 


大体察しがつくと思うが

子集: subset
 该子环: subring
 黑洞:black hole

下線部は英語版、日本語版にない。<俗説では環のイデアルは加法では群をつくるが乗法ではブラックホールの如きモノを表現する>とでもなるか。最後の箇所は<イデアルは乗法ではブラックホールをつくる>と言い換えられるが、この意味の理解にはイデアルの作用をわかっている必要があり、しゃれた表現だ。英語ではこのイデアルの作用を multiplicative absorption とか multiplicative absorbent と呼んでいる。ブラックホールはなんでも<吸い込んで>しまうものだろう。

中国語では<理想>の二字ですませて抽象代数の ideal の訳語でさほど違和感がないようだ。日本語ではダメだろう。それではイデアルのやまとことばはなにか?原語のままイデアル(ドイツ語の発音)で使っているのは適当な日本語がみつからなかったためだろう。難題なのだ。検討してみる。

理想は<望む、欲する好ましいこと、姿(すがた)>といえる。

理想は文字通りでは<理を想(おも)う>、<理想(おも)い>だが、これでは何のことだかわからない。<理にかなう>という表現があるが、この<理>は理想とほとんど関係ない。理念の<理>は理想の<理>に通じるところがある。
<望(のぞ)む>の名詞(体言)形<のぞみ>はいいやまとこことばだが、理想とはズレがある。<望ましい>という形容詞がある。
<欲しい>は形容詞でふつうは<xx が欲しい>となる。<欲する>は漢文口調だ。<ほしがる>は<xx を欲しがる>で他動詞だが漢文調他動詞<欲する>とは意味が少しズレる。<欲する>、<欲しがる>の名詞(体言)形は<欲(ほっ)し>、<欲しがり>だが独立した名詞(体言)としては聞いたことがない。
<好(この)む>の名詞(体言)形<好み>は<好き嫌い>の<好き>で理想ではない。イデアルの訳語としてはダメだ。
<好み>はよく使うが動詞(他動詞)の<好(この)む>はあまり使われず<好き>が<xxが好き>の形で使われる。<好き>は何詞?おそらくあまり使われない他動詞<好(す)く>の連用形<好き>の名詞(体言)用法 +<だ>、<に>、<で>、<な>の形の用法だろう。<名詞(体言)用法>なので<好きは(が)xxxx>は可能で<好きこそものの上手なり>が思い浮かぶ。<好きにしろ>というのもある。だがイデアルの訳語として<好き>はまずダメだ。
<姿(すがた)>はいいやまとことばだ。これを<xxxx 姿(すがた)>として使いたいが<姿(すがた)>は静的で<作用>機能があるイデアルにそぐわない。

イデアルのやまとことばはなにか?難題だ。(別途再検討予定)



と書いたのでさらに再検討しておく。

語源はWiki-環論の<歴史>の項目で次のような記述がある。


. . . . . . .  。 クンマーは、x 2 + 1 の分解のためには -1 の平方根を含むより広い領域が必要となるように、R の元が上のように完全に分解されるより広い領域が存在すると考えた。そしてこの A, B, C, D のような理想的な分解を与える因子を理想(複素)数 (ideale complexe Zahl ) あるいは理想因子 (ideal Primfactor) と名付けて、理想数の理論を築いた。
クンマーの理想数の理論は非常に形式的で、とても難解なものであった。後になってデデキントは理想数の理論を整理することによってイデアルを考案した。歴史的には、ヒルベルトの『数論報告』の中で、デデキントのイデアル概念が取り上げられたことから、イデアルという名称が採用されることになった。イデアル (Ideal) とは、明らかに理想数に由来する名前である。



なぜか日本語版がないが、Wiki-英語版にはIdeal number(理想数)というが独立してある。また歴史的には上記のように<理想因子>というのがある。数字に限っていえば<理想>よりは<理想数>の方が数学らしい。だが<理想数>もやまとことばではない。<数(すう)>は<かず>でやまとことばだ。イデアルは<xxxx 数(かず)>、または(集合、群、)環になっているので<xxxx 組数(くみかず)>、ひっくり返して<xxxx 数組(かずくみ)>でよさそう。問題は<xxxx>のところだ。

イデアルの内容を重視すると

<掛け増し数組(かずぐみ)>  掛け増し:倍数全体の成す集合
<組づくり数組(かずぐみ)>組(くみ)=群、Group
<吸い込み数組(かずぐみ)>

が考えられるが、発音すると長すぎる。

<掛けまし>は<望まし(い)>に発音が似ている。

<理想数>のやまとことばは<望まし数(かず)>でどうだろうか。

イデアル(理想)のやまとことばは難しい。<理想>は<最も(一番)望まれること、姿>で<最も(一番)>(絶対的な最上級)が必要なのだ。<最も望まれ(る)姿>が<理想>のやまとことばに近い。

このポストを書いているうち芋づる式に、文法上おもしろい(大げさに言うと、重大な)発見をした。

繰り返しになるが


<望(のぞ)む>の(連用形)名詞(体言)形<のぞみ>はいいやまとこことばだが、理想とはズレがある。<望ましい>という形容詞がある。

.
.


<好(この)む>の(連用形)名詞(体言)形<好み>は<好き嫌い>の<好き>で理想ではない。イデアルの訳語としてはダメだ。


のぞむ - のぞみ - のぞましい
このむ - このみ - このましい

以上は

動詞 - 連用形の名詞(体言)用法 - 形容詞

に一般化 できる。<一般化>は抽象代数あるいは数学全般でよく出てくる重要作業。

長くなりそう文法的なことなので sptt Notes on Grammar のポストとして書く予定。


sptt







No comments:

Post a Comment