<見とれる>を<見取れる>と書くのはまちがい。 <見とれる>は<見て><取れる>ではない。問題は<とれる>で、これが何だかよくわからない。調べてみると、複雑で<見とれる>は<見とろける>という意味なのだ。意味が先にくれば<美人に見とれる>がなるほど、とわかる。
<とろける>は<とける>の関連語だが、砂糖が水(お湯)にとけてもすぐにな<とろけ>ない。<水あめ>をどういうふうにつくるのか知らないが、<水あめ>はねばねばしていて、とろけた状態とは言い難い。<水あめ>をお湯で適当にとけば<とろけた>状態になりそうだ。
一般には<かたいモノ>が<とける>と<とろけた>状態 になる。かたいといっても石のようなものはダメだ。肉を煮ると柔らかくなるが、<とろ>火で煮るのがよさそうだ。かたい鉄も高熱でとろけた状態になる。石も超高熱でとろけた状態になるか。石はくだきつぶす、またはすりつぶせそうで、粉にしてから水かお湯でかきまぜればとろけた状態になるか。鉄や石はとろけた状態にしても食べられないが、かたい穀物は熱でとろけた状態にしてから食ることが少なくない。
<とろける>は自動詞で、他動詞は<とろかす>、<とろけさす>。 <見とれる>のもと<見とろける>は<見て、かたい自分がやわらかくなるような、とけていくような>様子の形容だ。とろけると外部からの力で変形し、固定した形がなくなる。つまりは、固定した形の自分がなくなるのだ。
似たようで、ややこしい言葉に
みいる: 見入る - 魅入る
みせられる: 見せられる - 魅せられる
がある。これもしらべてみたら、もとは、ほとんど使わない<みする>。<み>はやまとことばではなく、魅力の<魅(み)>で、この<魅(み)>に<する>がついた<魅(み)する>。<魅(み)する>の受身形が<魅せられる>。
<魅(み)する>は漢字に意味を借用した外国語の翻訳だろう。というのは他動詞だからだ。英語で言えば
to charm
to enchant
でこれを受身形にすると
to be charmed
to be enchanted
となる。to be charmed はあまり聞かない、見ないが、形容詞の charming は日本語にもなっており、これが<魅(み)する>に関連しているか。だが to enchant = 魅(み)する、がぴったりだ。
さて、このような重箱の隅をつつくような話をしているかというと、英語の entranced という語に出くわしたからだ。どこで出くわしたかというと、イタリア語の童話<ピノキオ(の冒険)>の英訳だ。イタリア語と英語を並べると、
http://ercoleguidi.altervista.org/pinocchio/
第3章
"Piglialo! piglialo!" urlava Geppetto; ma la gente che era per la via, vedendo
questo burattino di legno, che correva come un barbero, si fermava incantata a guardarlo,
e rideva, rideva e rideva, da non poterselo figurare.
"Catch him! Catch him!" shouted Geppetto; but the people in the street, seeing this
wooden marionette running like a barbero, stood entranced to stare, and laughed, laughed and
laughed as no one could ever imagine.
第4章
Il povero burattino rimase lì, come incantato, cogli occhi fissi, colla bocca aperta e
coi gusci dell'uovo in mano.
The poor marionette stood there, as if entranced, his eyes fixed, his mouth agape and the
egg-shell in his hand
原文のイタリア語の方は動詞 incantare の過去分詞 incantato で、これなら英語の方も enchanted でよさそうだが、なぜか entranced が使われている。
これは名詞の<入り口>の entrance と少しは関係があるかもしれないが、動詞 to entrance の過去分詞形だ。動詞 to entrance の意味は大体 to enchant と同じだが、 entranced だと
みいる: 見入る - 魅入る
と関係が出てくりかもしれない。前後の状況から、entranced の状況では少しの間だが動きがとまっている。このあたりにわざわざentranced という語を使った理由があるのか知れない。
日本語の方も<魅入る>はほとんど聞かず使わずで、使われるのは受け身形の<魅入られる>、<魅入られて>だ。また意味からすると<見入る>、<見入られる>でいい、というか本来これだろう。
sptt
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