Wednesday, December 23, 2020

<たいへん>について、”問題” のやまとことば

 

以前に<たくさん>の語源(語源不詳)を考えて書いたことがあるが、<たくさん>と似ておおいに非なる言葉に<たいへん>がある。<たいへん>の語源は語源というほどのことまもなく漢語の<大変>でほぼ間違いないだろう。<大変(たいへん)は漢語の意味を意識しないでたいへんよく使っていて、やまとことばと言えるくらいだ。

1)大変(たいへん)失礼しました。      

この<大変(たいへん)>はもうやまとことばだろう。この大変(たいへん)は動詞<失礼する>にかかかる副詞で程度、大きな程度をあらわしている。英語では very much, so much に相当する。

大変(たいへん)ありがとう(ございます)。    

も同じようだが、何にかかるのか? 大変<ございます>はおかしく、<ございます>はなてくもいいので<ありがとう>にかかることになる。<ありがとう>は<ありがたい(ありがたし)>で形容詞だ。副詞は形容詞も修飾するので文法的には問題ない。最近は変な日本語が公式の場やネット上で使われているが

うれしいです。
悲しいです。
大変(たいへん)ありがたいです。

は聞きずらい。 

大変(たいへん)ありがとうです。

はもちろんダメだ。

<です>はいらない。だがなぜか<ございます>ならいい。

うれしゅうございます。
悲しゅうございます。
大変(たいへん)ありがとうございます。

2) これからが大変だ。

この<大変>もほぼやまとことばになっている。だが1)の大変(たいへん)とは違う。副詞としてかかるべき動詞や形容詞がなく、問題はあるが断定の助動詞といわれている<だ>で断定されているので

体言(名詞)の<大変>。言い換えると<大変であること>、<大変なこと>になるが

これからが大変であることだ。

はおおいにおかしい。

これからが大変なことだ。

もまだおかしい。 

そうすると、この<大変>はなにか。考えられるのは<たいへんなxx>の<xx>が省略されているとみて、この大変は1)の<程度、大きな程度をあらわす>大変(たいへん)とする。すうすると、省略されている<xx>は何かということになる。

<xx>はおそらく、問題、困難(こまりごと)、障害(さまたげごと)、難儀(つらいこと)、苦労(くるしいこと)。実質的には同じだが、最近は見方を変えた挑む(いど)むべき、立ち向かうべき<挑戦>とい言葉がはやっている。なぜか<問題>の適当なやまとことばがみつからない。この<問題>は question ではなく problem だ。question も problem も解決すべきものなのだが、question は解(と)いたり、答えたりできるが problem は解いたり、答えたりできないところに違いがある。 question は質問とも訳される。質問と問題ではおおいにことなる。質問は<たずねごと>、<問い合わせ>というやまとことばがある。

問題のやまとことば候補

a)こまりごと   <こまった、こまった>といって頭をかく。

人生相談所の看板には<こまりごと、やまみごと相談>とある。

b)よわりごと   <つよい>の方は<<つよる>という動詞がない。<よわった、よわった>といって頭をかく。また<よわりめにたたりめ〉という言い方がある。<たたりごと>は問題というよりは天災か。

c)さまたげ

3)大変なことになった。  (関西では<えらいことになった>というか?)

この<大変>はまだ漢語の意味<大変=大きな変化>がまだ残っているようだ。変化はモノゴトが順調に、問題なく進んでいるのを妨(さまた)げる。大きな変化は大きく妨げることになる。これが大変のもとの意味だろう。2)に関連するが

大変なことになった。

大変な問題になった。

でもよさそうだが<こと>ほどの凡用性はない。 <大変な問題>は<大きな問題>より<さらに、もっと大きい問題>のように聞こえる。これまた見方を変えると、<変化>はモノゴトが順調に、問題なく進んでいるのを妨(さまた)げるが、失敗と同じく<改善、進歩の>母だ。したがって<大変なこと>はたいして恐れるとことはない。

ところで、以上の文では意識して<おおいに>というやまとこばを使っている。関西版の<えらく>でもいいだろう。

 

sptt

 


 

Sunday, December 20, 2020

病(やま)いのやまとことば

 

<やまい>はよくないが<やまいのやまとことば>は語呂がい。

頭が痛い
歯が痛い
腰が痛い
膝(ひざ)が痛い
胃が痛い

頭痛(ずつう)、腰痛(ようつう)、胃痛(いつう)はよく聞くが<歯痛(しつう)>、<膝痛(何と読むのか?)>は聞いてもすぐにはわからないだろう。<痛い>は形容詞だ。英語でいえば painful。動詞は<痛(いた)む>で

頭が痛む
歯が痛む
腰が痛む
膝が痛む
胃が痛む

で問題なく移行する。意味は形容詞よりシリアス、あたりまえだが<動詞的>だ。英語は to pain で My head pains. となりそうだが、My head aches. あるいは My head hurts. とも言えるだろう。英語でも<動詞的>だ。だが My head is painful. が普通だろう。さらには I have a headache. がもっと普通によく聞く。日本語の体言(名詞形)は<痛(いた)み>で

頭の痛み
歯の痛み
腰の痛み
膝の痛み
胃の痛み

でこれまた問題な体言(名詞形)に移行する。英語では、多分

 I have a headache (toothache, pelvis ache, knee ache, stomach ache). だろう。 また<I>以外はあまり使わないだろう。 他人の痛みは基本的にわからない。

<痛み>は<感じたり>、<あったり(存在)>、<出たり(出現)>する。表現方法は

頭の痛み(歯の痛み、腰の痛み、膝の痛み、胃の痛み)感じる

<感じる>は他動詞で、<を>をとるが、形式ばっていてなにか日本語らしくない。

頭に痛み(歯に痛み、腰に痛み、膝に痛み、胃に痛み)感じる

ともなるが、これもなにか日本語としては変だ。存在は

頭に痛み(歯に痛み、腰に痛み、膝に痛み、胃に痛み)ある。

となる。出現は

頭の痛み(歯の痛み、腰の痛み、膝の痛み、胃の痛み)が出る

変なのもあるが<腰の痛みが出る>はなんとかなりそう。

痛み(歯に痛み、腰に痛み、膝に痛み、胃に痛み)出る

も変なのもあるが<腰に痛みが出る>、<膝に痛みが出る>はよさそうだ。

以上ざっと見た限りでは、他動詞を使った<痛みを感じる>より形容詞の<痛い>を使った<xx が痛い>、さらには自動詞を使った<xx が痛む>がやまとことばらしい。<あたま>、<は>、<こし>、<ひざ>はやまとことばだ。 

その他の例

咳(せき)がでる -せきをする
熱がでる - 熱がある
吐き気がする
寒気がする
めまいがする


病ではないが、日常的な生理現象も自動詞表現が使われる。

元気がある - 元気がでる - 元気だ  <元気をする>は<頭痛をする>、<エンジョイをする>に近い。
くしゃみがでる - くしゃみをする
げっぷがでる - げっぷをする
あくびがでる - あくびをする
鼻水がでる
くそがでる - くそをする
おしっこがでる - おしっこをする
へ(おなら)がでる -  へ(おなら)をする
いびきをかく - いびきをする
息(いき)をする 

<xx をする>の<する>は他動詞か自動詞か?

他動詞では

xx を痛める

自分で痛めるわけではないが

頭を痛める  主に比喩用法
腰を痛める

xx をわずらう (長いわずらい=長(なが)わずらい、が多い)

糖尿(病)をわずっらっている

xx を悩(なや)ます 

これまた自分で悩ます、悩まさすわけではないが

頭を悩ます

xx をこわす 

今胃をこわしているのでおかゆを食べている

ためしてみればわかるが、以上の他動詞の受身形は基本的に具合がわるい。

(例) 

腰を痛める ->

だれかに腰を痛められる (の意味ではない。ダメ)

痛められている (ダメ)

 ということは

だれかが<(だれだれの)腰を痛めている、痛めさしている>わけではないということになる。

だが

糖尿(病)をわずっらっている  ->

糖尿(病)をわずらわされている

は可能だが、被害意識がある。


sptt


Friday, December 18, 2020

炊事のやまとことば、調理動詞アスペクト

 

<料理のやまとことば>でもいいのだが食べる料理ではないので<炊事のやまとことば>とした。また調理でもいいのだが料理屋が連想されるため家事的な炊事にした。炊事、調理に相当する適当なやまとことばがみつからない。<お勝手のやまとことば>ならすべてやまとこばになる。

炊事、調理関連の動詞には

1)炊(た)く、焼く、煮る、ゆでる(うでる)、蒸(む)す、揚(あ)げる、炒(いた)める、あぶる、漬(つ)ける、ひたす、湯がく

2)切る、たたく、ねじる、つつむ

3)溶(と)かす(溶く)混ぜる。

炊事は1)の<動詞>内容の化学変化を利用して、さらには2)物理的な力をかけて分離、変形し、3)調合させたりして料理を<つくる>創造的な作業だ。炊事化学変化動詞-上記の1)をチェックしてみる。上で取り上げたのは他動詞で、料理人から調理されるモノを見た動詞だ。調理されるモノの立場から見ると他動詞の受け身形もあるが、それとは別に自動詞がある。ならべて検討してみる

炊(た)く - 炊かれる(受身)  - 炊ける(自動詞) (炊けている)
焼(や)く - 焼かれる  - 焼ける (焼けている)
煮(に)る - 煮られる  - 煮える (煮えている)
ゆでる(うでる) - ゆでられる(うでられる)  - ゆだる(うだる)(ゆだっている、うだっている
蒸(む)す - 蒸される  - (蒸す - 蒸している)
揚(あ)げる - 揚げられる  - 揚がる (揚がっている)
炒(いた)める - 炒められる - (炒まる)
あぶる - あぶられる - あぶれる (あぶれている)
漬(つ)ける - 漬けられる  - 漬かる (漬かっている)
浸(ひた)す  - 浸される  - 浸たる (浸っている)
湯がく - 湯がかれる  -  (湯がける あるいは<湯がく>)(湯がけている)(湯がいている)(湯がきてあり)

よく見るとおもしろいところがいくつかある。

1)<蒸す>の自動詞は<蒸す>だろう。<まんじゅうが蒸す>で変ではない。したがって<蒸す>は自他兼用動詞だ。<炒まる>もあまり聞かないが、使えるだろう。<湯がく>は適当な自動詞みつからないが<湯がける>が相当するか?あるいは<湯がく>が自動詞も兼ねるか?

2)実際の炊事の場面では<受け身>はまれにしか使われないだろう。さかなや野菜の身になれば多用されるだろうが、一般には考えにくい。

3)一方自動詞は実際の炊事の場面でもよく使われる。

ごはんはもう炊けたか? - はい、もう炊けています。
肉じゃがはもう煮えている。
サンマがうまく焼けた。

4)自動詞は人が主語になると可能の意になる。

花子はまだ小さいがちゃんとご飯が炊ける。(今は知能電気釜(がま)があるので比較的簡単だが、むかしはカマ(釜)ドで炊き、うまく炊くにはコツの習得が必要だった。)

太郎はサンマがうまく焼ける。

<煮える>はだめで<美代子は肉じゃががうまく煮れる>と<煮れる>になる。だが<煮える>でも通じそう。さらには<煮えれる>でもよさそう。この辺は微妙というかまだ決まっていないようだ。

調理自動詞にならない<蒸せる>は可能になる。<次郎はイモがうまく蒸せる、蒸せれる>。

佐藤は肉があぶれる。  <仕事にあぶれる>という言い方をよく聞く。この<あぶれる>はチェクしたところ<あふれる>由来で<あぶる>は関係ない。だが<あぶられる>と仕事が見つからないように<つらい>だろう。

鈴木はそばやうどんがうまく湯がける。

だが、<ゆだる、揚がる、炒める、漬かる、浸(ひた)る>はだめで

ゆでられる、ゆでれる
揚げられる、揚げれる
炒められる、炒めれる
漬けられる、漬けれる
浸(ひた)せる、浸せれる (ひてられる、ひてれる、にならない) 

になる。さて、自動詞だが、以上の炊事、調理用語は他動詞が<主>、自動詞は他動詞から派生したものが多いようだ。少なくとも<炊く、焼く、煮る>は二音節の他動詞で日本語の原(元)動詞といえる。

炊(た)く - 炊ける(自動詞
焼(や)く - 焼ける
煮(に)る - 煮える
----
溶く - 溶ける

は同じ母音交替の他自動詞だ

他動詞<溶く>は今は<溶かす>が多用されているようだが、もとは<溶く>は自他兼用動詞。<溶く>の使役形<溶かす>が他動詞化したものだろう。

ゆでる  - ゆだる
揚(あ)げる - 揚がる
炒(いた)める - (炒まる)
漬(つ)ける - 漬かる
-----
混(ま)ぜる - 混ざる

も同じ母音交替の他自動詞だ。さて自動詞を並べてみる。

ごはんがうまく炊(た)ける。
魚が、肉が焼(や)ける。
肉じゃががもうすぐ煮(に)える。
たまごが、ジャガイモがゆだる。
まんじゅうが蒸(む)している。
肉がちょうどよくあぶれている。
てんぷらがまもなく揚(あ)がる。
大根が漬(つ)かる。
このうどんが湯がけるまでには時間がかかる

以上の内実際によく使われるのは

ごはんがうまく炊(た)ける。
肉じゃががもうすぐ煮(に)える。
肉がちょうどよくあぶれている。
てんぷらがまもなく揚(あ)がる。

で<うまく>とか<もうすぐ>とか<ちょうどよく>とか<まもなく>などの副詞を加えたものだ。このような副詞がないのは文法的には正しいが文法書のなかの現実離れした発話だ。副詞を除いてみると

ごはんが炊(た)ける。
肉じゃががぐ煮(に)える。
肉があぶれる。
てんぷらが揚(あ)がる。 

で現実味がない発話だが、少しよく考えて見ると共通したところがある。

1)逆戻り繰り返しになるが、<炊(た)ける>、<煮(に)える>、<あぶれる>、<揚(あ)がる>などの調理自動詞は

<うまく>、<もうすぐ>、<ちょうどよく>、<まもなく>など

の副詞と相性がいい。

2)参考のため手もとの辞書にあったみたがこのような調理自動詞の解説は概して簡単だが、多くは

<十分食べられる状態になる>

を使って解説されている。これは大きな発見で、調理動詞アスペクトといえる。つまりは

ごはんが<十分食べられる状態に>炊(た)ける。
魚が、肉が<十分食べられる状態に>焼(や)ける。
肉じゃがが<十分食べられる状態に>煮(に)える。
たまごが、ジャガイモが<十分食べられる状態に>ゆだる。
まんじゅうが<十分食べられる状態に>蒸(む)している。
肉が<十分食べられる状態に>あぶれている。
てんぷらが<十分食べられる状態に>揚(あ)がる。
大根が<十分食べられる状態に>漬(つ)かる。
このうどんが<十分食べられる状態に>湯がける(湯がく)までには時間がかかる

の<十分食べられる状態に>が表(おもて)に出てこないがこの意味が内包されている(implied)、ということ。

もう一つの調理動詞の特徴は<xx もの>という体言(名詞)がほぼ例外なくあることだ。

炊(た)きもの
焼(や)きもの
煮(に)もの
ゆでもの (これはあまり聞かない)
蒸(む)しもの
揚(あ)げもの
炒(いた)めもの
あぶりもの
漬(つ)けもの
浸(ひた)す - おひたし(これは例外)
湯がきもの (これはあまり聞かない)

以上は他動詞の連体形ではなく連用形の体言(名詞)用法に<もの>がついたもの。<連体形+もの>とすると

炊(た)くもの
焼(や)くもの
煮(に)るもの
ゆでるもの
蒸(む)すもの
揚(あ)げるもの
炒(いた)めるもの
あぶるもの
漬(つ)けるもの
浸(ひた)すもの
湯がくもの

で調理材料、食材になる。遊びをかねて自動詞の連用形に<もの>をつけてみる。

炊(た)けもの
焼けもの
煮えもの
ゆだりもの
蒸しもの
揚(あ)がりもの
炒(いた)まりもの    <炒まる>は自動詞でよさそう。
あぶれもの
漬かりもの
湯がけもの、湯がかりもの  <ゆがかる>が自動詞か。

<ゆだりもの>、<揚(あ)がりもの>、<炒(いた)まりもの>、<漬(つ)かりもの>はわるくない。料理人が表に出てこないところが、ひかえめというか、自然本意でいい。自動詞のなせるわざだ。

 

sptt

Monday, December 14, 2020

おまかせメニュー、<まかす>の語源

 

<たよる>を手もとの辞書で調べていたら、<たよる>の<た>は接頭語と書いてあった。これは納得できる。<よる>に<たよる>の意味があるからだ。

同じような意味の動詞に<たのむ>がある。<たのむ>の<た>は接頭語ではないのか。<のむ>が<飲む>ではナンセンスだ。だが<のむ>の意味を広げて<のみこむ>の<のむ>とすればなんとか説明がつきそうだ。

さて<まかす>だが<おまかせメニュー>という言い方がある。料理屋や寿司屋で聞きそうだ。セットメニューとは違うだろう。自動詞と他動詞の違いを調べていたら<だれだれに xx をまかす>の<まかす>の自動詞が見つからないのを発見した。<まかす>の使役形は<まかさす>、<まかせる>、<まかさせる>だが、<まかす>と<まかせる>はほぼ同じ意味(ニュアンス)で使役性が薄い。もっとも<まかさす>、<まかさせる>も使役性が薄いといえる。これは<まかす>の意味内容に関連しているからだろう。

ともっともらしく書いたが、手もとの辞書では<まかせる>の見出しと解説があるが、<まかす>が見出し語にない。よく見ると<まかせる>の解説の最後に<まかす(他、五段)>とごく簡単に書いてある。<まかす>は方言か?<まかせる>よりは一音節短いので、こちらが本家ではないか?

名詞(体言)用法の<おまかせ(メニュー)>は下一段活用の<まかせる>連用形<まかせ>由来だ。五段活用の<まかす>だと<まかし>で<おまかし>になる。<おまかしメニュー>でもよさそうだが、ほとんど聞かない。使い分けがありそうだが、ここではこれ以上詮索しない。さて<まかす>の自動詞だが<巻(ま)く>が自動詞候補だ。<巻く>は自他兼用動詞で、しかもいろいろな意味がある。

風が巻く。竜(たつ)巻きか?
水(の流れ)が巻く。渦巻きか?

だが関連が見つけられるのは他動詞の<巻く>で<いろいろなモノを巻いてまとめて渡して頼む>。つまりは<一括請負させる>-><まかせる>。だがかなりのコジツケだ。

<まく>にはイントネーションが違うが<種を、水を、宣伝ビラをまく>の<まく>がある。こちらの方は他動詞だ。これだと<まかす>、<まかせる>は他動詞の使役ということになるが<誰々に種を、水を、宣伝ビラをまかす、まかせる>で意味上問題ない。この<まく>は<ある特定の広い範囲にあるモノをまんべんなく、均一に置く、くばる>と言った意味だ。<ある特定の広い範囲>は<一括>に近い意味だ。<ある特定の広い範囲に>を残して一般化すれば<まかす>になる。一般化する>のところがまやかしみたいだが、<かなりのコジツケ>というほどのことはない。

もう一つは、<まかす>の<ま>は接頭辞で、意味は<かす>にある。<かす>は現代語大和言葉では<貸(か)す>として使われているが、

カネを貸す

とは信頼できる人(ほぼまちがいなく貸したカネを返してくれる人)にカネを<まかす>、<まかせる>ことで、カネの使い方は問わない。これだと解説に矛盾が出るので、カネを<預ける>、<預からす>こととする。

カネ(モノ)を貸(か)す - 返してくれることを前提にカネ(モノ)を人に預(あず)ける

となる。 <預(あず)ける>も預けたモノ(カネ)を返してもらえることが前提になっている。

この状況はかなり<まかす>に近い。<xx をまかす>は

花子に仕事をまかす。
太郎に赤ん坊(の世話)をまかす。
次郎に重大任務をまかす。

で まかしたことの<十分期待できる返り>がある。<かす>は二音節で日本語動詞の基本形といえる。基本形ということは、ほぼ日本語ができたころに使われ始めたとかんがえられる。このような言語創成期に<かす>が<返してくれることを前提にモノを人に預(あず)ける>(日本語創成期にカネはなかったろう)という複雑な意味があったとは思われない。おそらく<まかす>のような意味があっただろう。つまりは<かす>が言葉はなかったがより一般的な<まかす>の意で使われていた。このより一般的な意味をもつ<かす>が<返してくれることを前提にモノを人に預(あず)ける>に特化されていったため、本来のより一般的な<まかす>の意のある言葉が必要になったきた。<ま>には<まこと(ま+こと)>の接頭辞の<ま>で、単なる<おと>だけの接頭辞ではなく<返してくれることが十分期待できる>の意もありそうだ。こちらの説は<かなりのコジツケ>ではない。

 

sptt

Friday, December 11, 2020

やまとことばのおもしろさ <かす>動詞-2


<かす>動詞はおもしろい。

以前に ” ごまかす、たぶらかす、そそのかす、ひやかす、めかすの<かす>動詞 ” というタイトルのポストを書いた。読み返したところ誤りを発見した。誤りの箇所をコピーペイストすると


おびやかす - おびやく  (おびやかし)
ばかす - ばく  (ばかし)
だまかす - だまく  (だまかし)
ごまかす - ごまく  (ごまかし)
たぶらかす - たぶらく  (たぶらかし)
(まやかす) - まやく (まやかし) <まやかす>は手もの辞書にあるが聞いたことはない。
まどわかす、まどわす - まどう
めかす - めく    <春めく>の<めく>



おびやかす - おびやく  (おびやかし)

これは間違いで

おびやかす <- おびえる(自動詞)

書き直すと

おびえる(自動詞) -> おびやかす(他動詞)

<おびえる>は現代語で古くは<おびゆ>であっただろう。そうすると

<おびゆ>の未然形<おびや>+<かす>ですっきりする。

兄弟分の動詞に

(あまゆ) - あまえる(自動詞) - あまやかす(他動詞)

がある。上記の例のうちに他にも間違いがありそうだが、ここでは詮索しない。さて<かす動詞>だが、例は多い方が分析、結論に間違い度合がへる傾向にあるので、今回見つけ出した例を並べてみる。

ねる - ねかす  寝る(横になる)と眠るの意味がある。<赤ん坊を寝かす>は<赤ん坊を横にする>の意味で使うのはまれだ。

ne-ru  -> (ne-ra-ka-su ) -> ne-ka-su

似て非なる動詞に

ちる ->   ちらす ->  ちらかす
chi-ru -> chi-ra-su  -> chi-ra-ka-su (chi-ra-ka-ru)ya

やる ->   やらす ->  やらかす
ya-ru -> ya-ra-su -> ya-ra-ka-su    へまをやらかす

がある。<やらかす>は方言口語だ。<へまをしでかす>というのもある。<し>は<する>だが<で>はなにか? 多分<でる>、<だす>関連だろう。前回出てきたものも含めて<かす動詞>例を続ける。

おどろく - おどす; おどかす - おどろかす、おどろかさす、おどろかせる (<おどろく>の使役形)
おびえる - おびやかす (上で言及した。)
かどわかす   手もとの辞書によると<かどう>とう古語動詞があったという。

ごまかす
だます - だまかす (方言)
たぶらかす
ちる - ちらかす (ちらす)   (上で言及した。)
なだめすかす  <なだめる>+<すかす>。<すかす>は<すく>由来だろう。
<すく>、<すかす>は多義語だ。<すかして見る>、<すけて見える>。これまたこどものころ、駄菓子屋のくじの<はずれ>の意で<スカ>というのがあった。 手もとの辞書には<すかす>=<あてをずす(あてがはずれる)>関西方言という解説がのっている。

ばける - ばかす   超高使用頻度語の<バカ>は<ばかす>由来ではないか。<ばかされる>ひとが<ばか>ということではないか?

はぐれる - はぐらかす  <はぐらかす>は<お茶をにごす>を一語であらわしている(効率の)いいやまとことばだ。

ひえる (古語<ひゆ>) - ひやかす
(ひける) - ひけらかす
(ほったる) - ほったらかす  (方言)
(みせびる) - みせびらかす

意味に共通性がある。かなり強い否定的(negative)、批判的なニュアンスがあるのだ。


その他 (並べるだけで検討は別にする予定)

(   ) - おかす(犯す、侵す)
けがれる - けがす
(さぐる) - さがす
(とく) とける - とかす (解ける、溶ける)
ぬける - ぬく - ぬかす   腰(こし)をぬかす
はがれる - はがす
(   ) - まか(任)す、まか(任)せる

否定的(negative)、批判的なニュアンスがあるものもあるが、そうでないものもある。

 

sptt


 

Wednesday, December 2, 2020

<でっち上げ>の語源

前回のポスト”<ばら>、<ばらばら>、<ばらつく>の語源>”の最後の方に

でっち上げに近い推測語源

として<ばら>、<ばらばら>、<ばらつく>の語源を書いた。<でっち上げ>は<でっち上げ語源>という表現も含めてわたしの好きなやまとことばのひとつだ。<でっち上げ>の語源を調べて見たが、手ものと辞書にはなかった。<でっち上げ>は吃音(きつおん)なので<でち上げる>、さらには<でつ>(末尾:注)など関連がありそうな語も手もとの辞書で調べてみたが語源らしきものは見つからなっかた。ネットで調べてみたら、次のような解説があった。

https://www.weblio.jp/content/でっち上げ

 ”

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/01 08:39 UTC 版)

捏造(ねつぞう(慣用読み)、でつぞう)とは、実際になかったことを故意に事実のように仕立て上げること。「捏」の読み方は古くは「デツ」であるため、でっち上げの語源ともなっている。


<「捏」の読み方は古くは「デツ」であるため>も調べて見たが、現代語では

普通話: nie(1)
広東語:nip  (広東語は古い中国語の発音を多く残している)

で<捏(ねつ)造>の n 音だ。捏造(ねつぞう(慣用読み)、でつぞう)、< 古くは「デツ」>と説明しているが<捏造(ねつぞう)-慣用読み>は間違いといえるのではないか?つまりは<ねつぞう>は<正式読み>なのだ。昔<でつぞう>と発音していたとは思えない。

上のわたしの推測が正しいとすると、百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)の解説は<でっち上げ>になる。だが幸い悪意はまったくない、といっていい。悪意のない<でっち上げ>は悪くないし、意外な発見や創造がある。

<でっち上げ>の語源は別のところにありそうだ。

 

追記

 <でつ>とう動詞があったとすると、<でちあげる>の<でち>は連用形になる。これから活用を推測すると

現代の五段活用から類推

でたない (立たない)
でちて (立つ)
でつ  (立つ) 
でて (立てば) - むかしは已然形だ。

あるいは

現代の下二段活用から類推

でちない (起きない)
でちて (起きて)
でつ (でちる)  (起く、起きる) 
でちて  (起きて) 

<現代の下二段活用から類推>の活用の方が自然だ。いづれにしても<でつ>という動詞が使われたとは思えない。<捏造>という漢語が使われその音読み(ねつぞう)は今でも使われる。いつごろからか知らないが昔も使われたろう。<捏造>の<捏>だけを使って、意味を残してやまとこば化すると<ねつる>、<でつる>になる。現代の<ミスる>の類だ。

 

末尾

(注)<でつ>

落ちる(おちる) 古語は<落(お)つ>からの類推だが

さちる <- サチュレート
とちる  <- (とつ)、とちめんぼう

というおもしろい口語がある。


sptt

 

<ばら>、<ばらばら>、<ばらつく>の語源

 

<ばら>、<ばらばら>、<ばらつく>は兄弟語といえる。 

<ばら>は

いまは既成パック入りの商品が多いいので<バラで買う>は死語になりつつあるが、菓子なども昔は菓子屋ではかりではかって<ばらで買う>のが普通だった。もっとも紙袋に入れてもらって持ち帰ったが。現在の既成パックのごみの量は莫大だ。

 この<ばら>は<パック入り>の反対語とみていい。

バラで買う
既成パック入りで買う。

<ばらばら>は<まとまった>の反対語といえるが、

ばらばらな状態、ばらばらの状態

はいづれも使える。反対語は

まとまった状態

<ばらばらに>は

ばらばらにxxする
まとまってxxする

で<まとまって>が反対語になるが

<ばらばらになる>の反対語は<まとまる>、<ばらばらにする>の反対語は<まとめる>で<まる-める>のコンビ、ペア動詞だ。 

<ばら>、<ばらばら>だと語源は擬態語のようだ。<ばらばら>、<ばらつく>の姉妹語ともいえるものに同じく擬態語と思われる<ぱらぱら>、<ぱらつく>がある。あまり聞かないが

雨がぱらぱら降ってきた。
雨がぱらつき始めた。

とは言うようだ。

だが大昔から<ばら>、<ばらばら>という語が擬態語として使われていいたただろうか?どうもそうではないような気がする。

さて<ばらつき>は日常語として

このクラスの今度のテストの成績はバラツキが大きい。

などのようにつかわれるが、<ばらつき>は数学、統計学では<やまとことば>の正式用語に近いが

分散、標準偏差

という漢(字語が正式用語のようだ。分散、標準偏差は英語の訳と思うが、もとの英語は

分散 - Variance
標準偏差 - Standard Deviation

内容的にはVariance から Standard Deviation が計算されるのだが、なぜか英語もしたがってその漢字語の日本語やくもまったく異なった語がつかわれている。大雑把には分散も標準偏差も<ばらつき>の度合を示す。

Variance の兄弟語には

Variety
Variable
Variation

があり、日本語発音にすると

バラ(ばら)イアンス
バラ(ばら)エティ
バリアブル
バリエーション

バラエティ、バリエーションは日常語になっている。意味はいろいろ異なったものがある、選択肢(し)が多い、と言った意味だ。

でっち上げに近い推測語源

昔ある人(多分エンジニア)が仕事上<バラ(ばら)イアンスが大きい>という機会が多く、<バラ(ばら)イアンス>が長すぎるので<バラ(ばら)が大きい>と言い始めた。さらに進んで<これはバラバラ(ばらばら)だ>とも言うようになった。

だが<バラ(ばら)が大きい>、<バラバラ(ばらばら)だ>からは<ばらつく(ばらつき)>はすぐには出てこない。

似たような言葉に<ふらつく(ふらつき)>、<ぶらつく>がある。 いづれも<ばらつく>に少し似た意味があり、しかも<ばらつく>よりかなり以前から使われてたようだ。ひとところ(中心、平均のところ)にじっとしていないといった意味がある。

<ばらつく>は<ふらつく>、<ぶらつく>に英語のもとの意味を持ったエンジニア用語の<バラ(ばら)>が流用された。

 

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