Monday, December 14, 2020

おまかせメニュー、<まかす>の語源

 

<たよる>を手もとの辞書で調べていたら、<たよる>の<た>は接頭語と書いてあった。これは納得できる。<よる>に<たよる>の意味があるからだ。

同じような意味の動詞に<たのむ>がある。<たのむ>の<た>は接頭語ではないのか。<のむ>が<飲む>ではナンセンスだ。だが<のむ>の意味を広げて<のみこむ>の<のむ>とすればなんとか説明がつきそうだ。

さて<まかす>だが<おまかせメニュー>という言い方がある。料理屋や寿司屋で聞きそうだ。セットメニューとは違うだろう。自動詞と他動詞の違いを調べていたら<だれだれに xx をまかす>の<まかす>の自動詞が見つからないのを発見した。<まかす>の使役形は<まかさす>、<まかせる>、<まかさせる>だが、<まかす>と<まかせる>はほぼ同じ意味(ニュアンス)で使役性が薄い。もっとも<まかさす>、<まかさせる>も使役性が薄いといえる。これは<まかす>の意味内容に関連しているからだろう。

ともっともらしく書いたが、手もとの辞書では<まかせる>の見出しと解説があるが、<まかす>が見出し語にない。よく見ると<まかせる>の解説の最後に<まかす(他、五段)>とごく簡単に書いてある。<まかす>は方言か?<まかせる>よりは一音節短いので、こちらが本家ではないか?

名詞(体言)用法の<おまかせ(メニュー)>は下一段活用の<まかせる>連用形<まかせ>由来だ。五段活用の<まかす>だと<まかし>で<おまかし>になる。<おまかしメニュー>でもよさそうだが、ほとんど聞かない。使い分けがありそうだが、ここではこれ以上詮索しない。さて<まかす>の自動詞だが<巻(ま)く>が自動詞候補だ。<巻く>は自他兼用動詞で、しかもいろいろな意味がある。

風が巻く。竜(たつ)巻きか?
水(の流れ)が巻く。渦巻きか?

だが関連が見つけられるのは他動詞の<巻く>で<いろいろなモノを巻いてまとめて渡して頼む>。つまりは<一括請負させる>-><まかせる>。だがかなりのコジツケだ。

<まく>にはイントネーションが違うが<種を、水を、宣伝ビラをまく>の<まく>がある。こちらの方は他動詞だ。これだと<まかす>、<まかせる>は他動詞の使役ということになるが<誰々に種を、水を、宣伝ビラをまかす、まかせる>で意味上問題ない。この<まく>は<ある特定の広い範囲にあるモノをまんべんなく、均一に置く、くばる>と言った意味だ。<ある特定の広い範囲>は<一括>に近い意味だ。<ある特定の広い範囲に>を残して一般化すれば<まかす>になる。一般化する>のところがまやかしみたいだが、<かなりのコジツケ>というほどのことはない。

もう一つは、<まかす>の<ま>は接頭辞で、意味は<かす>にある。<かす>は現代語大和言葉では<貸(か)す>として使われているが、

カネを貸す

とは信頼できる人(ほぼまちがいなく貸したカネを返してくれる人)にカネを<まかす>、<まかせる>ことで、カネの使い方は問わない。これだと解説に矛盾が出るので、カネを<預ける>、<預からす>こととする。

カネ(モノ)を貸(か)す - 返してくれることを前提にカネ(モノ)を人に預(あず)ける

となる。 <預(あず)ける>も預けたモノ(カネ)を返してもらえることが前提になっている。

この状況はかなり<まかす>に近い。<xx をまかす>は

花子に仕事をまかす。
太郎に赤ん坊(の世話)をまかす。
次郎に重大任務をまかす。

で まかしたことの<十分期待できる返り>がある。<かす>は二音節で日本語動詞の基本形といえる。基本形ということは、ほぼ日本語ができたころに使われ始めたとかんがえられる。このような言語創成期に<かす>が<返してくれることを前提にモノを人に預(あず)ける>(日本語創成期にカネはなかったろう)という複雑な意味があったとは思われない。おそらく<まかす>のような意味があっただろう。つまりは<かす>が言葉はなかったがより一般的な<まかす>の意で使われていた。このより一般的な意味をもつ<かす>が<返してくれることを前提にモノを人に預(あず)ける>に特化されていったため、本来のより一般的な<まかす>の意のある言葉が必要になったきた。<ま>には<まこと(ま+こと)>の接頭辞の<ま>で、単なる<おと>だけの接頭辞ではなく<返してくれることが十分期待できる>の意もありそうだ。こちらの説は<かなりのコジツケ>ではない。

 

sptt

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