Saturday, October 10, 2020

微分のやまとことば<め>

 

微分、変化率のやまとことばは以前に考え、 どこかで書いたような気がするが、タイトルに微分、変化率がないので簡単に探せない。今回それらしき言葉に遭遇したので忘れないうちにタイトル ”微分のやまとことば<め>” として書いておくことにした。

前回のポスト ”<よわりめにたたりめ>と<なきめをみる>” で


弱る(よわる) - よわり(連用形の体言、名詞用法) + め

この形の造語には(少し探してみたが、多くはないようだ)

落ちる - 落ちめ
勝つ - 勝ちめ
泣く - 泣きめ
控える(ひかえる) - 控えめ

がある。共通点が見つけにくいが、. . . .



と書いた。気になったので、このあともう少しよく探してみた。今回は手もとの辞書(三省堂新明解6版)も利用した。重複するが、上の五つもふくめて並べてみる。

上がる - 上がりめ (辞書から) これは意味がよくわからない。
落ちる - 落ちめ
折る - 折りめ
変わる - 変わりめ(<季節の変わりめ>として辞書にもあった)
勝つ - 勝ちめ
効(き)く - 効きめ
(けつ?) - けじめ (けぢめ)
さける(割ける) - さけめ
死ぬ - 死にめ (辞書から)
つなぐ - つなぎ目
泣く - 泣きめ
抜く - 抜けめ   <抜けめない>、<抜けめなく>は慣用句だ。
控える(ひかえる) - 控えめ
見(み)る  - 見め、 見ため
結ぶ - 結びめ(辞書から)
弱る(よわる) - よわりめ
分かれる - 分かれめ     昔の紙芝居では<ここが運命の分かれめ>という口上があった。
割れる - 割れめ (辞書にもあった)

(追加予定)

例の数は増えたが依然共通点が見つけにくい。そこで手もとの辞書の<め>の解説の助けを借りると

 ”

め:造語(造語成分)

1)一見(比較的に)そういう傾向や性質を持っていいることを示す。

例: 長め、少なめ

2)他との区別や違いが目立つ時(所)

例: 上がりめ、死にめ、結びめ、割れめ

3)状況が転換する決定的な時点

例:落ちめ、カネの切れめ、季節も変わりめ、弱りめ、死にめ

4)そのものの存在が許される限界点

例: 文(あや)め、筋め、さかいめ、役目(やくめ)

1)一見(比較的に)そういう傾向や性質を持っていいることを示す。

例: 長め、少なめ

は形容詞についてと言える。

控える(ひかえる) - 控えめ 

 はこの造語タイプ<動詞連用形+め>だが、意味は<そういう傾向や性質を持っていいることを示す>だ。<控えた>が形容詞相当の修飾形。その語幹が流用された、と見る。

参照: sptt Notes on Grammar " <み>語尾の文法分析 ”。

2)他との区別や違いが目立つ時(所)

例: 上がりめ、死にめ、結びめ、割れめ

ここに<上がりめ>がある。 意味がよくわからなのでネットで調べてみると

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%82%8A%E7%9B%AE/

物事の上がりはじめの時。また、そのような状態や兆候。<-> 下がりめ

という解説がある。これは大いに参考になる。<下がりめ>も<下がる - 下がりめ>で同じ造語方法だ。これにならうと、<登りめ、下(くだ)りめ>があってもいい。

<動詞連用形+め>ではないが、意味的にはこのグループにはいる<ふしめ(節め)>がある。

3)状況が転換する決定的な時点

例:落ちめ、カネの切れめ、季節の変わりめ、弱りめ、死にめ 

2)で出てきた<死にめ>がここにも出てくるが、<状況が転換する決定的な時点>ではある。<カネの切れめ>、<季節も変わりめ>も<状況が転換する決定的な時点>でいいが、<落ちめ>、<弱りめ>は少しずれているようだ。前回のポストでは次のように書いた。

落ちる - 落ちめ (落ちがち、落ちる傾向にある。かなり落ちた状態)
よわりめ  -  弱りはてた状態


いづれも<<状況が転換する決定的な時点>というよりは

落ちめ -かなり落ちた状態 -> 極限に近い落ちた状態
よわりめ  -  弱りはてた状態 -> 極限に近い弱った状態

の方が意味がよく通じる。

4)そのものの存在が許される限界点

例: 文(あや)め、筋め、さかいめ、役目(やくめ)

<そのものの存在が許される限界点>はすごい定義だが、限界点は上の極限に近い。したがって<落ちめ>も<よわりめ>もこのグループに入れた方がよさそう。< 筋め、さかいめ>関連では<折りめ>、<割れめ>がある。これはは<2)他との区別や違いが目立つ時(所)>とも言える。

<3)状況が転換する決定的な時点>にある<カネの切れめ>は、<そのものの存在が許される限界点>ともいえる。

一方<(肉、刺身、豆腐などに)切れめを入れる>とういうのがある。こちらの方は2)他との区別や違いが目立つ時(所)、がちかい。

<めいっぱい>の<め>はまさしく限界点だ。

 <文(あや)め>はよくわからないのでネットで調べてみると、

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%96%87%E7%9B%AE/

織物や木目 (もくめ)などに現れた模様。いろどり。あや。

(多くはあとに「知らず」「分かず」「見えず」などの語を伴って用いる)

  1. ㋐物の区別。見分け。けじめ。

    「―も知れない闇の中から、硫黄が丘 (たけ) の山頂…空中に現われ出る」〈有島生れ出づる悩み

  2. ㋑物事の筋。道理。条理。分別。

    「何の―も知らぬ賤 (しづ) の男 (を) も」〈・胡蝶〉

とある。 これからすると<あやめ>は<そのものの存在が許される限界点>に相当するものはない。むしろ手もとの辞書の

2)他との区別や違いが目立つ時(所)

が相当する。 

<役目(やくめ)>も<そのものの存在が許される限界点>とはすぐに結びつかないので解説が必要だ。

<役め>の役は<役を務める>の<役>だ。<役を務める>とは言い換えると<役をはたらく>。<はたらく>、<仕事をする>以外に

この薬ははよく効(い)く。

と同じような意味で

 この薬ははよくはたらく。

とも言える。<効く>はこの造語法で<効きめ>がある。<役め>は<はたらきめ>に相当するといえるのではないか?では<効きめ>とはどういう意味か。手もとの辞書の4っつの定義にあてはまらない。そのためか<効きめ>は例に出てこない。参考になるのは、ネット辞書の<上がりめ>の次の解説。


物事の上がりはじめの時。また、そのような状態や兆候。<-> 下がりめ

<効きめ>は<効き(効く具合、度合)>の<はじめの時、その状態や兆候>と言えないか?そうすると、<役め>は<役の務まり(具合、度合)>の<状態や兆候>となる。

さて

3)状況が転換する決定的な時点
4)そのものの存在が許される限界点

は微分、変化率を連想しないか?

3)状況が転換する決定的な時点 - 変化率がゼロになるところ。
4)そのものの存在が許される限界点 - 限界点を極限とすると、微分は極限操作をする。

特に<変わりめ>の<め>は微分のコンセプトに近い。変化そのものではなく変化率に<目が行っていた>らすごい。

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追記

この<め>を調べているうちに、この<め>と<目>の混乱、あるいはオーバーラップがあるような語、言い方に遭遇した。コンピュータわワープロでは、例文、例語の<め>はほとんど<目>で出てくる。日本語のためには<め>と<目>は分けるべきだ。<目>は微分とはほとんどまったく関係がない。

<め>の解説文の中にもある。

<目立つ>

 2)他との区別や違いが目立つ時(所)

の<目立つ>。<目立つ>は<目が立つ>ではなく<目に立つ>、<目に立って見える>だろう。モノが立てば<目立つ>。だが、<め>自体に<目立つ時(所)>の意があっても、いいだろう。<目立つ時(所)>が<立つ>となってしまうが、<め>の一語、一音節ではすぐには<目立つ時(所)>は思いうかばない。

<けじめ>

 <あやめ>の解説に

㋐物の区別。見分け。けじめ。

がある。<けじめ>の語源はよくわからない。<け>+<しめ(る)>でも説明がつきそうだが、<けじめ>は<けぢめ>だろう。<動詞連用形+め>の造語法を使うと

(けつ?) ー>五段(4段)活用として<けち>+<め>で<けちめ>。これが<けぢめ>に変わった。だが<けつ>というやまとことばの動詞はすぐには思いうかばない。漢語では<決(けっ)する>の<決(けつ>がある。手もとの辞書の<め>解説に

3)状況が転換する決定的な時点

例:落ちめ、カネの切れめ、季節の変わりめ、弱りめ、死にめ

というのがある。 <決(けつ>は決定の<決>だ。<けぢめをつける>の意味と結びつく。だが<決<決(けっ)する>が<けち>となるにはかなりな飛躍だ。だが長い言葉の歴史でではまったく否定することはできない。

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見ため

<見ため>は外見のことだが、<見た目>では何のことかわからない。 <動詞連用形+め>の造語法を使うと

見(み) + め   -> 見め

で<見め>は<見ため>と同じような意味になるが、現在では<見ため>に比べる使用頻度はかなり落ちる。<見る目>はまた違った意味になる。<見た>は<見る>に<過去、完了の助動詞>と言われる<た>がついたもの。<た>の連用形は<て>で<た>ではない。だが<め>を体言(名詞)とすると、<見ため>は<た>の連体形<た>に<め>がついたものと解釈できる。 

めど(目途、目処、目度)

<めどをつける>の<めど>。この<めど>も<め>は<目>でない。このポストの<め>だ。手もとの辞書の

2)他との区別や違いが目立つ時(所)
3)状況が転換する決定的な時点
4)そのものの存在が許される限界点

のいずれもが該当するスーパー<め>だ。 漢字の方は

め途(と)
め処(どころ)
め度(ど)

などがあるが<処(どころ)>はやまとことばだ。だが<ところ><どころ>が<ど>、あるいは<めどころ>が<めど>にになるだろうか? <め途(と)>、<め度(ど)>とすると、湯桶読みになり<めど>は純やまとことばでなくなる。<めど>は、おそらく、<めほど>の<ほ>が抜けたものだろう。<ほ>は気合を入れて発音しないと聞こえなくなる。

<め>+<ほど> -> めほど -> め(ほ)ど -> めど

<ほど>も重要なやまとことばで<かなり許容差のある特定の範囲>を示す。 微分とはむしろ対称的な概念で

かなり許容差のある特定の

2)他との区別や違いが目立つ時(所)
3)状況が転換する決定的な時点
4)そのものの存在が許される限界点

ということになり、<ほど>をかなり的確に説明できる。

目盛り

<目盛り>の<め>も<目>ではうまく説明がつかないが

2)他との区別や違いが目立つ時(所)

でうまく説明できる。したがって<め盛り>がいい。<めもり>だと<メモリ>と混同されるおそれがある。<め盛る>という動詞もある。<め盛りをつける>の意なので<盛(も)る>に<つける>の意があることになるが、これは変だ。ネット辞書で調べると

<盛る>には

薬を調合する。 「毒を―」

の意味があり、これで説明がつく。<五合目を越す>の<目>も<目>ではなく<め盛り>の<め>だ。<五合めを越す>だと誤解がへる。
 
目印(めじるし)
 
目印(めじるし)は<目で見る印(しるし)>なので<目印>でよさそうだが、これも<2)他との区別や違いが目立つ時(所)>の<め>での説明がしっくりいく。 
 
目安(めやす)
 
目安(めやす)は<めやすし、目やすい(易い)>が語源のようだ。これでもいいが意味からは<見(み)やすし>だ。
 
めぼし - めぼしい 
 
<めぼし>は<め+欲し(い)がかんがえられが、意味はナンセンスになる。<めぼし>は<目星>でよさそう。<目に見える星>で<めぼしをつける>はナンセンスではない。
 
曲がりかど - 曲がりめ
 
お肌の曲がりかどにxxクリーム。
 
といった宣伝文句があったような気がするが、<曲がり角>は曲がりめ>の方がよさそう。肌の老化は急に起こるわけではない。角は連続性がないので基本的に微分できない。一方<折りめ>は角(かど)があるが<折り角(かど)>とはいわない。大昔の日本人には<め>と<かど>は区別があったようだ。
 

sptt

 

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