Friday, October 11, 2024

うしろめたい(中国語との比較)

<うしろめたい>はいかにもやまとことばの響きがあるが、意味内容は複雑だ。<良心の呵責>とか<罪の意識>の意で解釈していた。最近中国の現代メロドラマを携帯で見ているが、中国語の字幕がでるので、最近は1/3くらいは筋を追えるようになった。幸い話はパターン化していて、そのうち飽きてしまうのではないかと思っているが、現代中国語の勉強として見ている。耳で聞いてわかるのは簡単な日常会話レベルの言い回しくらいで、字幕を追わないと筋が負えない。

最近<心虚>という語に字幕で出くわした。発音は xīn xū だが耳で聞いたのでは、普通のスピードで話すので聞き取るのはムリ。ネット辞書で調べてみると

baike.baidu は医学用語の解説は詳細だが、日常用語としての解説は簡単。


1. 做错了事,怕人知道或拆穿而内心不安:做贼心虚。
2.心里没把握,缺乏自信心:这活儿我没干过,真有点儿心虚。

1も2も<良心の呵責>とか<罪意識>の意はない。


台湾辞典では

https://dict.revised.moe.edu.tw/dictView.jsp?ID=108846&la=0&powerMode=0


心虚
xīnxū

  1. 自知理虧而內心害怕不安。後略
  2. 謙虛不自滿。《列子.仲尼》:「南郭子貌充心虛。耳無聞,目無見,口無言,心無知,形無惕。往將奚為。」後略
  3. 中醫泛指心臟的氣血不足,容易心悸、短氣、健忘、胸悶、盜汗等。亦稱某些心律不整、神經衰弱的症狀為「心虛」。

1は baike.baidu の1とほぼ同じ。

2は <虚心坦懐>の<虚心>に通じる。列子からの例文 (謙虛不自滿) があるので、古い意味での<心虚>だ。

3は中国医学での解説。 これも古い意味での<心虚>だろう。

英語入りの解説では

https://www.zdic.net/hans/%E5%BF%83%E8%99%9A

心虚 xīnxū

(1) [afraid of being found out; with a guilty conscience]∶ 做错了事或坏事怕人知道
(2) [lacking in self-confidence; diffident]∶ 缺乏自信

 ここで英語の方では1で guilty conscience (良心の呵責、罪意識) が出てくるが、中国語の方は上の二つの中国語辞典の1と同じだ。これはどうしたことか?

この種のメロドラマでよく出てくる心理、感情の言葉は欺负 (qīfu) と委屈 (wěi qu)。

 欺负 (qīfu) は

いじめ、いじめる。(これは行為だが<いじめられる>とすれば心理、感情の言葉になる)

委屈 (wěi qu) は

(不当な仕打ちに対して)不満である,無念である,残念である,くやしい,やりきれない。

メロドラマは欺负 (qīfu) と委屈 (wěi qu) を中心に進んで行き、勧善懲悪で<いじめた>者が制裁を受け、不当な扱いを受けた者が助けられる。こういうドラマを見ていると中国人は<良心の呵責>とか<罪の意識>が薄いのではないか思う(昔からそう思っている)。

 さて<うしろめたい>だが、日本語のネット辞典でチェックしてみると、簡単な辞典では


https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%BE%8C%E3%82%8D%E3%82%81%E3%81%9F%E3%81%84/

うしろ‐めた・い【後ろめたい】の解説
[形][文]うしろめた・し[ク]《「後ろ目痛し」からという》

自分に悪い点があって、気がとがめる。やましい。「親友を裏切ったようで—・い」 

自分の目が届かず、不安である。心もとない。気がかりだ。

「我なからむ世など—・し」〈落窪・二〉

  油断がならない。気が許せない。

「是ほど—・う思はれ参らせては」〈平家・二〉

[補説]2原義で、古くはやましい気持ちを含まなかった。
 
 
1からすると、<良心の呵責>とか<罪の意識> のやまとことばには慣用的な<うしろめたい>以外に<気がとがめる>、<やましい>がある。前半の<自分に悪い点があって>は肝心で、中国語の解説ではこれが前面に、表立って出てこない。
 
<やましい>は自動漢字変換では<疚しい>と出てくる。だが中国語の<疚>、これから出てくる<内疚 nèi jiù>の<>には<やましい>の意は薄い。
 
さて中国語に戻ると

1. 做错了事,怕人知道或拆穿而内心不安:做贼心虚。

做错了事:間違いをしたこと
怕:恐れる
人知道:人が知る(ことになる)
拆穿 chāi chuān:1) 嘘を暴く。 2) 事実を明らかにする。 3) 嘘を見抜く。
做贼 zuò zéi: · 释义. 造反;抢劫;剽窃;偷东西(強盗、泥棒などをする)

は日本語辞典の2にやや近いが、かなり違う。 中国語の解説からすると

失敗や悪いことをしても、まず人に知られることが不安なのだ (心が虚と感じる) 。

また、補説のように中国語では元来

心虚はやましい気持ちを含まないのだ。(これは日本語の<うしろめたい>も同じ)

 

<うしろめたい>の語源 

これは複雑で、調べてみたら2018年に ”<うしろめたい>の語源” と続いて ”<うしろめたい>の語源-2” いうポストを書いている。読み返してみると諸説ある。

では<良心の呵責>とか<罪の意識>の意の中国語はないのかというと、相当する言葉はある。第一は<内疚 nèi jiù>。baike.baidu の解説は

内疚 nèi jiù:对一件事情或某个人心里感到惭愧而不安的一种心情。

疚>の第一義は<長期生病 chronic disease>で、第二義として<心の痛み>があるようだが、<良心の呵責>とか<罪の意識>に相当近い意味ではふつうは<内疚>の二語。内疚は小説では出くわしことがあるような気がするが、最近見ているメロドラマではまだ出くわしていいない。

https://zd.hwxnet.com/search/hwxE7hwx96hwx9A.html

 

1.长期生病。
2.忧苦,特指因自己过失而造成的心内痛苦:负疚。内疚。愧疚。歉疚。内省(xǐng )不疚。

chronic disease, sorrow

惭愧は日本語になっている。<ざんき>と発音し<慙愧の念に堪えない>という決まり文句がある。意は<うしろめたい>ではなく<残念>の意に近い。

似たような言葉に<咎>がある。これは疚>と同じ発音jiù>。<咎>は訓読みの大和言葉は<とが>。<気がとがめる>はは自動漢字変換では<気が咎める>と出てくる。中国語で<咎>に出くわしたことはないので、あまり使われないのだろう。

<良心の呵責>とか<罪の意識>の意相当の中国語の第二は<良心>。baike.baidu の<良心>解説は

"

1. [Conscience] ∶ 个人内心的是非感;对自己行为、意图或性格的好坏的认识;同时具有一种做好人好事的责任感,常被认为能引起对于做坏事的内疚和悔恨。

2. [Synderesis]∶对道德行为主要原则的先天知

"

1で個人的な Conscience、内疚が出てくる。2は社会的な道徳色が濃い。

良心>は上で述べてきたメロドラマで時々でてくる。内疚ほど個人的、内面的な感情はないが、その分中国的な<うしろめたい>と言える。

 

sptt


 

 


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