<取りあえず>は<取り合えず>ではない。<取敢えず>だ。これは難しい。<敢える>を使うのは<敢えXXてする>, <敢えてXXしない>, <敢え無く>ぐらいだろう。また翻訳調と言えなくもない。
敢えてXXする(dare do, dare to do)、敢えてXXしない(dare not do, dare not to do)
<dare>は助動詞(動詞の原形を取る))としても普通の動詞(to 不定詞を取る)としても使われるが、たいていは助動詞用法。やまとことばに適当なのがないためか、あるいは翻訳調の方がいいためか、漢語(読み)由来と思われる<敢える>が選ばれたのだろう。日本語では<敢える>自体、単独ではほとんど用いられない。
デジタル大辞泉(小学館)の解説
敢ふ(あう)
1 耐える。持ちこたえる。→敢 (あ) えなむ
「秋風に—・へず散りにしならしばのむなしき枝に時雨すぐなり」〈秋篠月清集〉
2 おして…する。しとげる。→敢えて
3 (他の動詞の連用形に付いて)すっかり…する。…しつくす。→敢えず
「天雲に雁そ鳴くなる高円 (たかまと) の萩の下葉はもみち—・へむかも」〈万・四二九六〉
2は現代語。少し考えると<おして…する>と<しとげる>は違う。<しとげる>の意味で使うことはないだろう。1は古語で2.3とは意味が違う。だが、<耐える。持ちこたえる>は意味的に<最後まで>がつく場合が少なくないだろう。
さて漢語の<敢>だが
Baike-baide の解説は
敢(拼音:gǎn)(前略)以会有胆识与勇气之意 。“敢”可表有胆量、勇于进取。“敢”也可用作谦词,有冒昧之义。 由冒昧义可引申为侵犯、冒犯义。“敢”还可用作反语,相当于“不敢”“岂敢”。
つまりは
有胆量、勇于进取
さらに意味がずれて
冒昧 mào mèi,指冒犯,无知而妄为,多用于自谦;引申为鲁莽轻率
やみくもにxxする
侵犯
冒犯 mào fàn 指言语或行为没有礼貌
礼儀をわきまえずにxxする
日本語では<敢えて>は<勇気を出してxxする>、<無理をしてでもxxする>、<無理を承知でxxする>、<わざわざxxする>、<やみくもにxxする>、<うまくいかない場合もあろうが、それでもする>のような意味に相当する副詞。
<取り敢えず>の<敢えず>は<敢ふ(あう)>の否定で
<勇気を出してまでxxしない>、<無理をしてまでxxしない>、<無理を承知してまでxxしない>、<わざわざxxしない>、<やみくもにはxxしない>、<うまくいかない場合もあろうから、xxしない>
上の<xx>が<取る>になる。すなわち
勇気を出してまで取らない
無理をしてまでは取らない
無理を承知をしてまで取らない
わざわざ取らない
やみくもには取らない
うまくいかない場合もあろうから、取らない
となるが、すぐには、そのままでは<取り敢えず>の意にならない 。これは<取る>の否定ではなく<敢ふ(あう)>の否定であるからだ。<取らない>ではなく<取るのだ>。
<取り敢えず>は一種の反語で
勇気を出してまで取るわけではないが、とにかく取る
無理をしてまで取るわけではないが、とにかく取る
無理を承知してまで取るわけではないが、とにかく取る
わざわざ取るわけではないが、とにかく取る
やみくもには取るわけではないが、とにかく取る
うまくいかない場合もあろうから、取らない、というわけではない(とにかく取る)
一方<取り敢えず>の<取る>は物理的な<取る>ではなく<やってみる、try to do>の意に近い。
勇気を出してまでやるわけではないが、とにかくやってみる
無理をしてまでやるわけではないが、とにかくやってみる
無理を承知してまでやるわけではないが、とにかくやってみる
わざわざやってみるわけではないが、とにかくやってみる
やみくもにはやるわけではないが、とにかくやってみる
うまくいかない場合もあろうから、やらない、というわけではない(とにかくやってみる)
<とにかく>はキーワードで、英語では anyway が相当。
<取るものも取りあえず>といういい方があるが、これは
取るべきものも無理をしてまで取ることをしないで、(とにかくxxする、xxした)
の意に近い。
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